表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/69

1話 勇者たち 序盤ダンジョンに長蛇の列をなす


「これで序盤のボス!?ゲームバランス狂いすぎ!」

「ていうか、こいつの防御力何なのよ!?剣も魔法も通じないじゃない!」


「挙句、この雑すぎる行動パターンはなんだよ!『力を貯める』と『ぶん殴る』だけ!?プログラムの手抜きだろ!」


 洞窟の中に()()()()()()()()()が鳴り響く。


 悲鳴の出所はダンジョン最深部"盗賊親分の部屋"。

 キーアイテム"コソ泥の鍵"を手に入れるため、ボスキャラである盗賊親分を倒すべく、部屋の前に()()()()()()()()()が立ち並ぶ。


 勇者たちはお行儀よく一人ずつ部屋に入っては、その数分後に悲鳴を上げて教会に送り返される。

 勇者の列は途切れることを知らない。各自、思い思いの装備でボスキャラに挑むが、そのすべてが返り討ちに遭うのだ。

 

「これならどうだ!わざわざ中盤の町まで遠征して買ってきた"はがねのつるぎ"だ。硬いだけの敵なら物理で通すしか……ぐはっ!」

「城の周りでゴブリンを狩り続けて100時間。序盤で習得不可能とされた魔法『ビッグボム』で吹き飛べ……ぐはっ!」


 部屋の入り口は開いているため、順番待ちの勇者は戦闘の様子を伺い知ることができた。

 かれこれ数千人の勇者を返り討ちにしたにしては、盗賊親分には全く疲労の気配はない。


 ゲームのキャラクターであればそれも当然だろうが、挑む勇者たちの表情にも諦めや絶望の色はない。

 むしろ、早く自分の番が来ないか、今か今かと待ちわびるようにせわしない。


「おまえら、さっさと道を空けろ!俺を誰だと思ってる!?『鋼の盾』のカイエン様だぞ!」


 行列の後方で何やらわめきたてる声が聞こえる。しかし、並ぶ勇者たちの反応は冷たく、そして愉快そうだった。


「『鋼の盾』って言えば、フォロワー100万人越えのAランクのチームじゃん」

「あいつらもこのゲーム攻略に乗り出してきたってことか」


「でも、あの様子だとまだ始めたばっかりみたいだな。このゲームのルールが分かってねえもん」

「言えてる。こちとら、退きたくても退けねえっての」


 冷ややかに笑う前方の勇者たちの耳に、間抜けな機械音が何度も届く。


 ブブー   ブブー


「クソっ!なんだこの壁?近づこうとすると弾かれる!?隙間が空いてるのに、通れねえ!」


 ブブー   ブブー


 カイエンと名乗る勇者が壁に向かって進もうとする度、相手を小馬鹿にするようなブザー音が周囲に響く。

 たまらず、前に並ぶ小柄な勇者が噴き出す。その声を聴き、カイエンの頬に朱が差す。


「おいテメエ、今俺のことを笑ったな!?」

「だってあんた、このゲーム始めたばかりだろ?オレも初めはそうだったから、面白くって……ぷっ」


「テメエみてえな弱小ゲーマーと一緒にするな。俺がこれまでどれだけのゲームを攻略してきたと思ってるんだ!」


 カイエンが力任せに大剣を振り下ろす。

 明らかに殺意のこもった、渾身の一振りだった。


 しかし、剣線の先に立つ少年は相変わらず冷ややかな目をしている。

 轟音とともに、大剣が相手に激突した──その瞬間だった。


 ブブー


「なにっ……!」


 先ほどと同じ機械音。同時に、周囲の勇者たちが一斉に笑い出した。

 訳が分からぬ様子のカイエンに、小柄な勇者が諭すように語り掛ける。


「ここの世界じゃPKプレイヤー・キルはできないんだよ。オレたちプレイヤーは、ゲームの敵キャラとしか戦えないの」

「なんだよ、その時代遅れのルールは!」


「それとついでに言っとくけど、オレ達の行動範囲は()()()()()()()()。普通に歩いてると気づかないだろうけど、こういう細長い通路は一人しか通れない仕様なんだよ」


 殺されかけた相手にも拘わらず、小柄な勇者はやたらと親切に解説する。

 説明を受けたカイエンは、呆れたようにため息をついた。


「呆れたぜ、マジで何世代前のRPGかっての……」

「そんなの、あんただって分かっててこのゲームにダイブしたんだろ?」


「……」


 返す言葉もなく、沈黙する。

 カイエンは、少し冷静になって改めて周囲を見回した。


 これだけ古い世代のゲームに、これだけ多くのプレイヤーがダイブすることは普通はあり得ない。


「話を聞いてやってきてみたが、思った以上に挑戦者が多いみてえだな……」

「そして、そのほとんどの挑戦者がここを攻略できずにいる。挑戦者が増え続けてるのに、誰もここを越せない。結果がこの大渋滞だよ」

 

 小柄な勇者は肩を軽く竦める。

 その様子を見て、カイエンは不意に頭に沸いた疑問をそのまま口にした。


「そんなに強えのか、ここのボスは」

「そろそろオレ達の順番も近づいてきたから、戦いの様子が見えるよ。自分で見た方が早いさ」


 言われるままにカイエンが背伸びをしてボス部屋の中を覗き見る。

 そこには、長い彼のゲーム人生の中でも見たことのない奇怪なボス戦が繰り広げられていた。


第一話から見事な噛ませキャラを披露してくれた、髭面のカイエンさんの度胸に心打たれた方は『お気に入り』登録して、今後の彼の活躍をお待ちください。

序盤ボスの常識を大きく覆してくれた"盗賊親分"の攻略法が気になった方は、『評価☆』をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ