第83話 宣言
マルファの数える数字がゼロになったと同時、世界の主要テレビ局の画面が一斉に美空を大写しにした。
『皆さんこんにちは。私は漆原美空と申します』
突然始まった謎の中継映像にテレビスタッフは慌て、視聴者は困惑の表情を浮かべる。
美空はその様子を直接見ることは当然出来ないが、そのような反応が起こるだろうとは考えていたので今さら気にしたりはしない。
「さて、私が今いる場所。どこだか分かるでしょうか?」
一歩横にずれて、後ろの燃え盛るコンテナ群に視線を向ける。
それに合わせるように、カメラが少しズームする。
「ここはフォルク連邦共和国にある、ハーフェンブルクの軍港です。現在はユナイタルステイツやテンシャンの軍が軍事演習を行うためにここに集まっているはずですが……。あれ? なぜ火の海になっているのでしょう?」
わざとらしく首を傾げ、センターに戻った美空。
にっこりと笑って、言葉を続ける。
「ああそうでした、私が魔法で壊したんでした。あれだけの兵士がいて、兵器も揃っていたはずなのに、あまりに呆気なかったですね。もう少し楽しめるかと思ったのですが……」
肩を竦め、残念だという雰囲気を出してため息を吐く。
もちろん美空にそんな戦闘狂的思考は無いが、世界中の人間に恐怖を与えるためにあえて演じた。
「とまあこんな感じで。魔法能力者が本気を出せば、世界なんて一瞬で破壊出来るんですよ。……私たちの力を、甘く見ないでください」
トーンを落とし、冷酷な声音で告げる。
「あなたたち非能力者は、魔法能力を持った少女たちをまるで兵器や便利道具のように使い潰し、まともに人として扱おうともしません。自由を奪われて、死線に送り込まれて、私たちは幸せな未来を夢見ることも許されないのですか? こんなのって、おかしくないですか?」
美空は徐々に言葉に熱を帯びさせていく。
皇国やユナイタルステイツやユークスタン、その他魔法能力者を戦争に巻き込む世界中の国家を糾弾するように。
その極悪非道の振る舞いを知らない視聴者の心に訴えかけるように。
「私たちはただ、普通の人生を送りたいだけなんです。そう願うことは、間違っていますか? おかしなことですか? もう、魔法能力者をいじめるのは、やめにしませんか……?」
目に涙を浮かべ、語りかける。
これも演技で、実際に悲しいわけじゃない。
だが、美空の迫真の演説は多くの視聴者に響いたことだろう。
「私たち魔法能力者は、世界を滅ぼす力を持っています。ひとたび反乱を起こせば、あなた方はただでは済まないでしょう。だから約束してください。これから先、魔法能力者の権利を厚く保護することを。……認めてください。魔法能力者が普通の人間より上だという事実を」
高らかに宣言し、中継を終える。
それからすぐ、美空は疲れきった様子でその場に座り込んだ。
『お疲れ様、美空。いいスピーチだったよ』
「ありがとうございます、マルファさん」
マルファの労いの言葉に、微笑んで応じる。
『これで、魔法能力者至上主義の考えが広まるといいね』
「ですね」
魔法能力者至上主義。この考え方がスタンダードになるかはまだ分からない。
けれど、少なくとも魔法能力者の少女たちが救われるのならそれで良い。
もう誰にも、私のような思いをしてほしくない。
海の向こう、遥か先の水平線を見つめながら、美空は心の中で呟いた。




