第73話 終わりの始まり
自己紹介を終えたところで、AIマルファは少しトーンを落として話を切り出した。
『人間の私は、そこで自殺したんだよね?』
「は、はい……」
美空が頷くと、彼女は申し訳なさと悔しさを滲ませたような声音で言う。
『嫌な思いさせちゃったことはごめん。でも、私は、カタリナのいない世界に生きる意味を見出せなかったの』
「それで、自殺を……?」
『うん。人間の私に出来ることなんて、もう無いから』
このように会話を交わしていると、死んでしまった人間から気持ちを聞いているようでとても不思議な感覚になる。
本人と全く同一の思考回路を持つコピーAIは、オリジナル亡き後もその人の意思や感情を誰かに伝えることが可能なわけだ。この技術が多くの人に広まれば、きっと世界は大きく変わるだろう。
「では、あなたはこれからどうするのですか? 本物のマルファさんが死んでしまった以上、このコンピュータは連邦国軍に回収されてしまうのでは?」
ここで美空は、彼女に疑問を投げかけた。
人間の脳のコピーなどという超最先端プログラムがこのまま誰に知られることもなく消去されてしまってはもったいない。
それに、自殺したマルファはこのコピーAIに何かを託したのではないか。
しばらくして、AIマルファが答える。
『私はこれから、世界を壊すの』
「世界を壊す、ですか?」
『うん。カタリナを酷い目に合わせた人間を、世界を、メチャクチャに壊す。それが本物の私が最後に望んだこと』
つまり彼女は、サイバー空間に繋がるあらゆる物を用い、破壊の限りを尽くそうとしている。
ある意味では、人工知能による人類への叛逆とも捉えられるかもしれない。
昔から幾度となく研究者によって議論されてきた「AIが人類を滅ぼす論」が、思わぬ形で現実のものとなったのだ。
『美空は、私のことを止める? それとも見逃す?』
今度は彼女が、こちらに質問をしてきた。
ここでこのコンピュータを破壊すれば、世界は守られる。人類は救われる。
逆に、彼女を見過ごせばAIと人間による史上最悪の戦争が始まる。
究極の選択が、美空に突きつけられた。
「私は……」
『ねえ、どうするの? 美空はこの世界を、どうしたいの?』
この世界をどうしたいか。
それなら、美空には明確な考えが一つある。
「私は、魔法能力者が差別されない世界を作りたいと、そう思っています。もしマルファさんがそれに賛同してくれるのなら、私はあなたの計画に協力します」
すると、提案を受けたAIマルファは。
『分かった。じゃあ組もっか?』
と、楽しそうに応じた。
その様子を真っ白な空間から見つめる少女がいた。
神界に住まう魔法総神シーシャープである。
「ほう? 漆原美空と天才科学者が手を組んだか」
全てが視える神にすら予想出来なかった展開。
「フッ。これは、面白いことが起こりそうだ」
未来を演算し直したシーシャープは、ワクワクを抑えきれずに高らかに笑った。
私の物語、いかがでしたでしょうか? もし続きが気になったのなら、ブクマ登録や評価等してくれたら嬉しいです。by漆原美空




