第71話 敵討ち
ユークスタン共和国、首都キーイ。ユークスタン共和国軍参謀本部。
「ヤロスラーヴ士官、進捗はどうだい?」
「ええ。全て予定通りに進んでいますよ」
「そうか、さすがは私の見込んだ男だな」
「もったいないお言葉、感謝します。スヴャトポールク参謀総長」
頭を下げる部下に、満足げに頷く上官。
モニターに表示された地図や数字、グラフに目を向け、皺が刻まれた顔を綻ばせる。
「これで我々の技術力は世界に示された。国威発揚に繋がるのはもちろん、国民の士気も向上することだろう」
「連邦国のドローンを退ける装置など、世界のどこを見渡しても存在しないでしょうからね。と言っても、実際は魔女を生贄にしただけなのですがな」
「ははは。魔女は人間として扱う必要は無いのだから、生贄という表現は間違っているのではないかい?」
「これは失礼致しました、参謀総長」
二人のしゃがれた笑い声が室内に響き渡る。
カタリナが殉職し、ヴィーカは命と引き換えに最終国土防衛装置を発動させた。その真実は、軍の上層部によって捻じ曲げられようとしている。
最終国土防衛装置が発動し、無事にこの国は守られた。犠牲者はゼロ。
そんな大本営発表をさせるわけにはいかない。
転移魔法を使い参謀本部の建物内に潜入した美空は、壁越しにヤロスラーヴとスヴャトポールクの会話を聞いていた。
「魔法能力者をまるで兵器のように……」
あまりに不愉快なやり取りに、苛立ちを募らせる美空。
だが、突入するにはまだ早い。もう少し情報を得てからにしよう。
怒りを噛み殺し、再び会話に耳を傾ける。
「それにしても、参謀総長はどうしてこのような大胆な作戦を思いついたのです?」
「別に大したことではない。あの天才科学者を連邦国側に送り込み、ドローンに弱点を仕込んでおく。よくある工作だよ」
「ああ、あのマルファとかいう女ですか。確かに彼女は優秀でしたからね」
「それだけではないぞ士官。……実はここだけの話だがな、マルファはホルム配属の女大尉の幼馴染だそうだ」
「何と……! どこまでも哀れですね、魔女の人生というものは」
あの基地に配属されていた大尉。該当する人物はカタリナしかいない。
つまり、カタリナが言っていた疎遠になってしまった理系のお姉さんが、敵の無人機の開発に関わっていた?
「かつて救ってくれた人に殺されるなんて、そんな酷い話はありません……!」
もう我慢ならない。
こんな国の軍など、壊滅してしまえばいい。
美空は勢いよく室内に入り、汚れた軍幹部二人に向かって右手を伸ばす。
そして、強く睨みつけながら感情のままに魔法を唱えた。
「魔法目録二条、魔法光線。カタリナさんとヴィーカちゃんを侮辱した罪、償ってもらいます!」
直後、凄まじい威力の光線が右手から射出され、士官と参謀総長の身体を飲み込んだ。それだけに留まらず、奥の壁や窓すらも破壊し、建物に巨大な穴が空く。
右手を下ろし、大きく息を吐いた美空。
先ほどまで悪魔のように笑っていた二人の姿は跡形もなく消し飛んでいて。
目の前には何も無いフロアだけが残り、遠くには虚しいほどの青空が広がっていた。




