第70話 何を最優先に
それから、どれくらいの時間が経っただろうか。
美空はふらふらと立ち上がり、扉を押し開ける。
「いつの間に鍵が壊れていたのでしょう……」
先ほどまで固く頑丈に施錠されていた扉は、ほとんど力を必要とせずに開いた。
もしかしたら、無人機が墜落した時の衝撃波で鍵が外れたのかもしれない。
管制室を出た美空は重たい足取りで階段を下り、外へ。
「…………」
滑走路やその周辺の芝はところどころ燃えていて、無人機の残骸があちこちに散乱している。毎日寝泊まりしていた宿舎は一部が崩壊している。
見るも無残な光景に、美空は言葉を失い立ち尽くしてしまう。
ヴィーカと訓練をしたあの場所も、カタリナに過去を打ち明けたあの部屋も、今はもう全てが変わってしまっていて。
そしてその二人も、二度と戻ってくることは無くて。
昨日とは様変わりしてしまった光景を眺めていると、楽しかった記憶が掘り起こされる。カタリナとヴィーカの顔が、声が、鮮明に思い出される。
なぜ、何で、どうしてこんなことに。
カタリナとヴィーカの命が奪われたことへの喪失感が、大きな波となって心に押し寄せる。
自分が無人機を殲滅していれば、あの二人は助かったはず。
それなのに、自分は何もしなかった。出来なかった。
悔やんでも悔やみきれない。仕方無かったなんて割り切れない。
「どうして、誰もいないのですか……」
美空は自分でも気付かぬうちに、そんな言葉を呟いていた。
もしカタリナとヴィーカと再び会うことが叶うなら、どんな文句でも悪口でも受け入れる。殴ってくれたって構わない。
もちろん、あの二人はそんなことしないだろうけれど。
それでも、優しい言葉を掛けられるのは違う、責めてもらわなければならない。そうでなければ美空は、この先ずっと、一生自分を責め続けるだろう。
「これがお前の選んだ結果だ、漆原美空」
その時、背後から声が聞こえた。
しかしその声は、カタリナのものでもヴィーカのものでも無く。
振り返り、彼女の姿を見た美空は思わず身体を強張らせた。
深い闇を宿した真紅の瞳をこちらに向け、薄っすらと笑みを浮かべるのは自らを魔法総神と名乗る謎の少女、シーシャープだった。
「確かにお前は優しい。だが、正義のヒロインにはなれない。結局、漆原美空という存在はどこまで行っても悪役なのだよ」
「どうして、そんなこと。私はただ別に……」
反論しようとして、途中で口を閉ざす。
自覚はあった。自分が決して善人ではないと。
でも、それを改めて他人の口から聞くのは。ましてや神様から言われるのは。
嫌。というより、ただ怖かった。
「人助けをしようとしただけ。ああ、そうだ。そうだとも。しかしその結果がこれだ。……お前は自分が生き残れれば、周りがどうなろうと構わない。内心ではそんな風に思っているんじゃないか?」
どこか愉快そうに、そう指摘してくるシーシャープ。
美空はただ、ヴィーカを死なせたくなくて、カタリナの想いに応えたくて、ヴィーカに戦闘を教えた。それをそんな風に言わないで。
でも、どうしても、反論の言葉は出てこなかった。
俯いたまま固まってしまう美空に、彼女はため息をつくと最後にこう告げた。
「漆原美空。何度も言っているが、私はお前の敵ではない。むしろ味方だ。次に会う時には、もう少しフラットに接してくれると嬉しいのだがな」
その後、あっという間に姿を消してしまったシーシャープ。
つい数秒前まで彼女がいた場所を見つめ、美空はぽつりと言う。
「私は、自分が生き残れればそれでいい。確かにそうかもしれません……。ただ、カタリナさんとヴィーカちゃんの敵だけは、討たせてもらいます」




