第66話 見捨てられた前線基地
拳を強く握り、唇を噛むカタリナ。
怒りを爆発させた彼女に、本部の人間は馬鹿にするように鼻で笑った。
「何がおかしい?」
カタリナの問いに、本部が答える。
『そんな危険地帯に応援など出せるわけが無い。そもそも、カタリナ大尉とヴィーカの使命は何だ? 戦って勝てないのなら、すべきことは分かるだろう?』
「あれは本当の最後の手段だ。何も手を打つ前からあれを使うのはおかしい!」
カタリナの言う「あれ」とはきっと、最終国土防衛装置のことだろう。
美空は一度、隣で不安げな表情を浮かべるヴィーカに目を向ける。
以前ヴィーカは言っていた。
最終国土防衛装置は、自分が最期に役目を果たす場所であると。
つまり本部は、ヴィーカを見捨てるつもりなのだ。
いや、もしかすればカタリナもこの基地も、最初から捨て駒だったのかもしれない。
「とにかくあれは使わない。ボクはヴィーカを最優先に行動する」
『そうか、残念だよカタリナ大尉。その発言は軍人として失格だ。だがまあ、せいぜい頑張るといい。どう足掻こうが勝ち目は無いのだがね』
通信が切れる。
「勝ち目が無い、だと……?」
本部が最後に発した不穏な言葉。
それを反芻するように呟いたカタリナに、美空が話しかける。
「こうなった以上は、本部のことを当てにすべきではないでしょう。もう時間がありません。私も加勢します」
すると、彼女は首を横に振った。
「それはありがたい話だけど、君が戦う必要は無い」
「何故です? 私ならあの程度の敵……」
「ああ、簡単に倒せるだろうね。でも、これはこの国の、いやボクの戦いだ。コーシチカを巻き込むことは出来ない」
それはカタリナのユークスタン軍人としての矜持か。それとも見捨てられたことへの反抗か。
しかし、カタリナ一人であの数の無人戦闘機相手に勝てる可能性はゼロに等しい。命を落とす確率の方が遥かに高い。
「とにかく、君とヴィーカは食堂で待っていてくれ。ボクがどうにかするから」
「待ってください!」
「魔法目録十四条、浮遊」
美空が手を伸ばして呼び止めるも、カタリナは一切聞く耳を持たずに一人で空へと飛び立ってしまった。
敵機の数は五十を超える。それもディクタテューラ連邦国が誇る最新鋭の無人戦闘機だ。
いくら何でも無謀すぎる。自殺行為以外の何物でもない。
「私は、どうすれば……」
基地に残された美空は、ヴィーカと共に綺麗に晴れ渡った青空をただ静かに見上げていた。




