第63話 温もりを感じて
「私は以前、皇国の護衛隊に所属していました。航空部隊の一員として、戦闘機に乗り、ユナイタルステイツの空軍と戦っていたんです。しかしある日、ステイツ軍は私と同じくらいの年齢の少女たちを前線に立たせました。敵なのだから何も考えずに殲滅すればいい。ただそれだけのことなのに、その時私は彼女たちを撃つことが出来ませんでした。そしてもう一つ、私は大きな罪を重ねてしまった。……彼女たちを攻撃しようとした味方の機体を撃墜してしまったんです。当時の私は周りの人間から酷い扱いを受けていたので、その恨みも味方の撃墜に至った理由の一つだと思いますが。こうして私は、皇国を追い出されたというわけです」
様子見も兼ねて、まずは皇国を離れることになったきっかけを説明した美空。
軍人であるカタリナならその裏切り行為がどれほど問題か分かっているだろうが、それに対しては一切何も言わずに真剣な表情でこちらに耳を傾けてくれている。
目線で先を話すよう促してくるので、そのままテンシャンでのエピソードに移る。
「その後、隣国のテンシャンに逃れた私は、ある少女と出会いました。その少女はお姉さんが不当な理由で警察に捕まってしまったと泣いていて、見捨てるわけにもいかないので助けてあげることにしました。そのまま警察署に乗り込み、お姉さんを助け出したまでは良かったものの、この後が大変で……。警察から逃げるべく国際高速列車を乗っ取ったのですが、国境付近で軍の戦車が待ち構えていたんです。なんとか無事に国境を越えることは出来ましたが、少女とお姉さん含めて国際指名手配されてしまいました」
苦笑いを浮かべつつ、カタリナの反応を窺う。
目の前にいる人物が国際指名手配犯と知れば、普通なら捕まえようとするはず。その場合、激しい戦闘になる可能性が高い。
だがカタリナは、美空を裏切るようなことは絶対にしないと言った。
さて、彼女はどんな言葉を口にする?
ここまで美空の話を静かに聞いていたカタリナが、ゆっくりと口を開く。
「なるほど、君はここまでずっと一人で頑張ってきたんだね。そりゃあ悩みも尽きないだろうさ」
耳に届いたのは、予想以上の優しい言葉だった。
「辛い思いも、苦しい思いも、全部我慢して。君は贖罪のつもりなんだろうが、そんなことをする必要は無い。幸せに生きたいと願うことは、人間として当然のことだからね」
穏やかな口調で言い、微笑むカタリナ。
「驚かないのですか……? 捕まえようとは思わないのですか……?」
こんな反応をされるとは思ってもみなかった。
首を傾げたままの美空を、カタリナはぎゅっと抱き寄せる。
「言っただろう? 私はコーシチカのことは絶対に裏切らないって。それに、君を裏切ることはヴィーカを悲しませることにもなるからね」
「ああ。私のためではなく、ヴィーカちゃんのためでしたか」
少し強がりを言った美空だったが、カタリナから伝わってくる温かさにここまで堪えてきた感情を抑えきれなくなってしまった。目から涙が溢れてきて、一滴二滴と頬を伝う。
そんな美空の頭をカタリナはそっと撫でると、慰めるように耳元で囁いた。
「泣きたい時は泣けばいい。たとえ皇国の最高傑作でも、史上最強の魔法能力者でも、弱さを隠し続けるのは無理がある。そうだろう、漆原美空?」
「……全てお見通し、なんですね」
どうやらカタリナは、美空の正体を見破っていたらしい。
やはり心理読解魔法は厄介な能力である。しかし。
最初はあれだけ警戒していたのに、カタリナになら心を読まれても構わない、いつしか美空の考えはそう変わっていた。




