第56話 防御特化
「つまりヴィーカちゃんの魔法能力は、防御に特化しているということですか?」
一度食堂に戻った美空は、首を傾けカタリナに訊く。
それを受けたカタリナは小さく頷き、説明を加える。
「ああ、大まかにはその認識で間違ってないよ。ただ、コーシチカもさっき見ただろうけど、彼女は攻撃に関しても才能がある。だからこそ、君に実践的な戦闘を教えて欲しいとお願いしたのさ」
なるほど、ようやく全体が見えてきた。
ヴィーカは並外れた防御魔法があるがゆえに、この国の切り札とされている。だが、戦闘訓練さえすれば戦力として実戦に投入することも可能になる。そうなれば彼女は切り札の役目から解放される。
最終国土防衛装置、ヴィーカが最期に役目を果たす場所。
その単語にはどこか不穏なものがある。そして、絶対にヴィーカを切り札にはさせない、そんな強い意志をカタリナからは感じている。
これらを踏まえれば、ヴィーカに待ち構える運命は自ずと想像がつく。
「……どうやら私は、思った以上に責任重大な仕事を引き受けてしまったようですね」
呟いた美空は、改めて気合いを入れるようにすーっと息を吐いた。
そして、カタリナの目を見て言う。
「ヴィーカちゃんの魔法能力はかなり特殊なようなので、訓練内容について少し考える時間をもらえませんか? さすがに今から早速始めるというわけにはいかない気がしまして」
先生役を引き受けてから色々とプランを練っていたが、先ほどの模擬戦闘の結果とカタリナの補足説明によってそれは崩れてしまった。もう一度ゼロベースで考え直す必要がある。
カタリナはそんな美空の心情を読み取り、優しく微笑んで首を縦に振った。
「もちろん構わないよ。ゆっくりと時間をかけて、ヴィーカにとって最善の訓練方法を考えてほしい」
「ありがとうございます。ただ、ヴィーカちゃん本人には少し申し訳ないですね……」
ふと隣に視線を移すと、ヴィーカはつまらなそうに唇を尖らせていた。
「え〜、早くジェーブシカと訓練したいよ〜!」
彼女は模擬戦闘の前も随分と興奮していた。
ここでお預け状態にされてショックを受けるのも無理ないか。
「まあ、この娘のことはボクに任せて。コーシチカは訓練内容を考えておいで」
ヴィーカのことは気にしないでいいと言うカタリナに、美空は軽く頭を下げる。
「すみません。それでは私は宿舎にいるので、何かあったら声を掛けてください」
「了解。夕飯が出来る頃に呼びに行くよ」
「はい、ありがとうございます」
その後、美空は宿舎の部屋で一人、ヴィーカの戦闘能力を最大限高められるような訓練プログラムを時間も忘れて考え続けたのだった。




