第54話 人数分のカロリーバー
美空とヴィーカが食堂へ戻ると、カタリナが食事を用意してくれていた。しかし、テーブルに並んでいるのはご飯でもパンでもなく。
「これは、カロリーバーですよね……?」
軍の支給品と思われる、ウエハースタイプのカロリーバーが人数分あるだけ。
用意してもらった側が言えることではないが、とても食事と呼べるものではない。
困惑する美空をよそに、ヴィーカは当然といった様子でカロリーバーを一本手に取ると包装を剥がした。
「わたしたちのお昼ご飯はいつもこれだよ。ジェーブシカも早く食べよ!」
「は、はい……」
促されたので、とりあえず自分もカロリーバーを手にし包装を開ける。
一口齧ってみるが、味は少し甘さを感じる程度でそこまで美味しくはない。
本当に非常用携帯食といった代物だ。
毎日こんな食事でカタリナもヴィーカも満足しているのだろうか。
そんな疑問を読み取ったのか、十秒ほどでカロリーバーを食べ終えたカタリナが口を開く。
「ボクだって本音を言えばちゃんとしたものが食べたい。でも仕方ないんだ。ここは軍にとって最終防衛拠点でしかないからね」
最終防衛拠点。
先ほどヴィーカから聞いてしまった装置の名前、最終国土防衛装置とよく似た響きの単語に、思わず身体が反応してしまう。
「やっぱり、ヴィーカから聞いていたようだね」
呆れたようなカタリナの態度に、美空とヴィーカはお互いに目を合わせる。
美空とヴィーカだけの秘密は、あっさりとカタリナに見抜かれてしまった。いや、そもそも最初から分かっていたのかもしれない。
心理読解魔法の常時発動持ち相手にこんな雑な隠し事が通用するはずもなかったのだ。と、今更後悔しても遅い。
「ごめんねカタリナ。ジェーブシカが気になってるみたいだったから、つい教えちゃったの」
「私の方こそヴィーカちゃんに余計な質問をしてしまい、すみませんでした。このことは絶対に口外しないと約束します。だから今回だけは見逃して頂けないかと……」
二人で頭を下げ、深く謝罪する。
ヴィーカに関してはそれで良いのだろうが、問題は美空の方だ。身元不明の皇国人に国家機密が漏れたとなれば、それはもう国を揺るがす一大事である。最悪の場合、この場で消されてもおかしくない。
だが美空のそんな想像に反して、カタリナは一つため息を吐くと優しい口調で告げた。
「全く、コーシチカも悪い子だね……。いいよ、この件については見逃してあげる。でも次は無いよ?」
「はい、ありがとうございます」
良かった、ギリギリ助かった……。
この基地に来てからまだ数時間しか経っていないのに、幾度と無くピンチに襲われている。それらは全てカタリナの心理読解魔法が原因だ。
「きっとヴィーカちゃんも、相当な苦労をしているのでしょうね……」
「コーシチカ、今何か言ったかい?」
「いえ、独り言なのでお気になさらず」
こんな調子じゃ愚痴すらも言えないではないか。
カタリナの特殊な能力はかなり厄介なものであると、改めて痛感する美空なのだった。




