第44話 フロントの少女
部屋で仮眠をしていた美空は、扉をノックされた音で目を覚ました。
時計を見るとすでに夕方六時を回っていて、窓の外も薄暗くなっている。
どうやら思ったよりも長い時間眠ってしまったらしい。
「お客様、夕食はどうなさいますか? 簡単なものでしたら有料でご提供致しますが」
扉の向こうから呼びかける少女に、美空はベッドから起き上がって答える。
「用意して頂けるなら、こちらで食べたいと思います」
「承知しました。それでは、六時半以降にロビーへお越しください」
フロントの向かいには確か、テーブルと椅子が並んでいる小さなスペースがあったはずだ。あの場所が食事会場を兼ねたロビーということか。
夜七時前。
美空がロビーへ向かうと、フロントの方から少女が姿を見せた。
手にはサンドイッチとスープを乗せたお盆を持っている。
「軽食に近いものですが、こちらが夕食になります。料金は明日のチェックアウト時にお支払いお願いします」
「ありがとうございます」
「では、お好きな席へどうぞ」
まだ他の客は誰も来ていないようだったので、適当に近くの椅子に座る。
少女はテーブルにサンドイッチとスープを置くと、「ごゆっくり」と一礼し奥へと下がっていった。
サンドイッチはトーストに卵とレタス、トマトを挟んだだけのシンプルなもの。スープはこの国の伝統料理のようで、サラサラとしているが味付けはどこかカレーに近い。具材はタケノコやジャガイモ、豆類と異国情緒漂うテイスト。
「うん、どちらも家庭的な感じで美味しいですね」
プロのシェフが作ったものというよりは、家で作った料理といった雰囲気。
温かみがあって、とても落ち着く。
二品をあっという間に食べ終えた美空は、フロントの方へ声をかける。
「すみません」
すると、少女が「はい、少々お待ちください」と返事を返してきた。
しばらくして、奥から少女が出てくる。
「お待たせしました。何でしょう?」
「このスープ、大変美味しかったです。これはあなたが作ったのですか?」
美空の問いかけに対し、少女はこくりと頷く。
「はい。お口に合ったのなら何よりです」
「料理人はいらっしゃらないのですか?」
「この宿は基本的に私一人でやっているので」
「お一人で、ですか?」
つまりこの宿は少女が経営しているということなのだろうか?
首を傾げる美空に、少女は説明を続ける。
「この宿は私の知り合いがオーナーで、経営的な部分はその人がやっています。私は接客や清掃、食事の提供などを任されているだけです」
なるほど。一応この少女は雇われた従業員の立場らしい。
「それにしても随分と若く見えますが、何歳なのですか?」
ここで、最初から気になっていたことを訊いてみる。
自分より年下のように思えるが、果たして。
「十三歳です」
まさか。少女の回答に、思わず口を押さえてしまう。
十三歳というのは、自分が護衛隊に入隊したのと全く同じ年齢だ。
美空の場合は魔法能力が高かったため特例的に認められたものだが、彼女はごく普通の女の子だ。まだ子供というべき年齢なのに、一人でホテルを切り盛りしているなんて。
「もしかして、何か事情があるのです? 家庭が貧しいとか、お金が必要とか……」
心配になったので少々突っ込んだ質問をしてみる。
だが、少女はきょとんとした顔をしてから、ふふっと笑った。
「いえ、違います。私はもう成人式を済ませた大人です。だから働いているんです」




