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味方を殺した罪で事実上追放された私は、死んだと見せかけて旅に出ることにしました 〜生きているとバレて戻ってくるよう命令されてももう遅いです〜  作者: 横浜あおば
第3章 凋落王政の国

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第39話 王室を守るため

 美空みくが王宮へ到着すると、焦燥した様子のティーラシンとプロイが玄関で待っていた。


「大変なことになってしまいましたね……」


 そう声をかけると、ティーラシンが申し訳なさそうに口を開く。


漆原うるしばら様を保護すると言っておきながら、このような事態を招いてしまったのは僕の責任です。謝罪の言葉もございません」

「いえ、気にしないでください。むしろテンシャンとの交渉を跳ね返した私がいけなかったのですから」

「いやいや、そんなことは……」


 お互いに責任の所在は自分にあると主張し、話が堂々巡りになる。

 それを隣で聞いていたプロイが、右手を軽く上げて割り込む。


「今はそのようなことを悔いていても仕方がありません。一刻も早く対策を練るべきかと」

「そ、その通りだな。では早速ですがどうぞ」


 ティーラシンが玄関を開け王宮の中へ入るよう促すので、後に続く。

 階段を上り、二階の執務室へ。

 美空が椅子に腰掛けると、ティーラシンは小さな楕円形のテーブルを挟んだ向かいの椅子に座った。プロイはその後ろで手を前で組んで立つ。


「対策を練ると言っても、こちらに出来ることは住民の避難と軍の展開程度のものなのですが。とにかく漆原様は安全な場所に留まっていて下さい。少なくとも我々には漆原様を巻き込むつもりはございません」


 ここまで追い込まれていても、ティーラシンは美空の身の安全を最優先に考えてくれるらしい。

 それはとてもありがたいことではあるが、果たしてその方針は国にとっても有益なものなのだろうか。美空は一つ、意地悪な質問を投げかける。


「しかし、この国の軍を総動員したとして、テンシャン軍に勝てるのですか?」


 今や科学大国として世界の覇権を握らんとするテンシャン。

 最先端の兵器を駆使し卑怯な手段も厭わない大国の軍に、発展途上の新興国が太刀打ち出来るのか。いや、出来るはずもない。

 そもそも、二国間の交渉ですら逆らえるような関係では無かったのだ。力の差は明白である。


「それは、難しいと言わざるを得ませんが……」


 難しい表情を浮かべ、視線を逸らすティーラシン。


「しかし、漆原さんにこれ以上のご迷惑をかけることは出来ません。それに、わたくし達に対する国民の支持率がここまで急回復したのは漆原さんのおかげなのです。もう十分すぎるほど助けて頂きました」


 プロイも一歩前に出て、そう力強く言う。


 その優しさは本当に嬉しい。これが彼女の良さなのだと思う。

 だが、そんな甘い考えではこの国は守れない。

 美空は鋭い視線をプロイ、そしてティーラシンに向ける。


「ここで私が出なければ、村だけでなくシャムコン王国全体が火の海になりますよ? それでも私の保護が最優先だと言うのです?」

「最悪の場合、東南連盟の加盟各国にも協力を仰ぎます。それでも防げないと判断すれば、漆原様にはチャーター機で避難をと考えています」


 答えるティーラシンに対し、美空は追及の手を緩めない。


「では、あなたは最終的にこの国を見捨てるというのですか? それが一国の王子の発言ですか? 聞いて呆れますね。私一人が犠牲になるのと、何百万の国民が危険に晒されること、天秤にかけるまでもないでしょう」

「漆原さん、一度落ち着いてください。紅茶でもお持ちしましょうか……?」


 口を挟んだプロイの目は少し潤んでいる。

 まくし立てる態度が怖かったのだろうか。

 美空は咳払いをしてから、彼女に微笑みかけた。


「すみません、怖がらせてしまいましたね。私は本気で怒っている訳ではありません。ただ、この国とあなた達を守るためには私が戦う以外に無いと思ったので、無理やりにでもそう話を持って行くしかないと思いまして」


 ホッとした表情をしたプロイと、大きくため息を吐いたティーラシン。

 そんな二人に、美空は穏やかな口調で言葉を継ぐ。


「では、私の考えた作戦をお伝えします。私は王室の交渉役として顔が知れ渡ってしまっています。ですので、ティーラシン王子は私に騙されていたことにしてください。決して保護していたなどと言ってはいけませんよ? そして、軍の派遣は不要です。テンシャン軍のミッションは私を殺すことですから、無関係の兵士を巻き込む意味は無いでしょう」


 美空の話を聞き終えたティーラシンは、プロイと顔を見合わせてから口を開く。


「……漆原様、その作戦に勝機はあるのですよね? もし命と引き換えになどと考えているようなら、到底受け入れられる提案ではございませんが」

「わたくしも、漆原さんには生きて帰って来て頂かなければ困ります……」


 続けて、プロイも心配そうに呟く。

 美空はそんな二人に笑顔を見せ、自分の胸にトンと手を当てた。


「私を誰だと思っているのです? 皇国の最高傑作、世界最強の魔法能力者の漆原美空ですよ? そんな簡単には死にません」


 こう言っておけば、ティーラシンもプロイも安心するだろう。


 だが、美空には生きて帰ってくるつもりは無い。

 自分が死なない限り、この国はテンシャンの標的にされ続けると分かっているから。

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