第38話 別れの時
リュウによる会見が終わったと同時、電話が鳴り響いた。
「はい、漆原です」
美空が受話器を取ると、慌てた様子のティーラシンの声が聞こえてきた。
『漆原様、テレビは観ていましたか?』
「ええ。どうやら私は、テンシャンから宣戦布告されたみたいですね」
『そこでこれから、王宮まで来て頂けないでしょうか? 一度話し合いを行いたいと思いまして』
「分かりました。すぐに向かいます」
やはりこういう流れになるか。
王室側は自分のことを守ろうとしてくれている。きっとどうやって切り抜けるかの相談をしたいのだろう。
受話器を置いて振り返ると、メイフェンとシェンリーが不安そうな表情でこちらを見つめていた。
「美空さん、大丈夫なんですか?」
「美空お姉さん、どこも行かないよね? ずっと一緒にいてくれるよね……?」
心配してくれるのは嬉しい。引き止めてくれるのも嬉しい。
でも、もうここは自分の居場所ではなくなった。
美空は姉妹の方へ向き直り、真剣な眼差しを向ける。
「私はこの国を守るために、行かなくてはいけません。そして、生きて帰っては来られないでしょう。……シェンリーさん、メイフェンさん。短い間でしたが、ありがとうございました。今までに無いくらい、とても楽しい時を過ごせました」
最後に深く頭を下げ、そして笑顔を見せる。
本当に楽しかったのだと、感謝しているのだと、心からの想いを込めて。
「美空さん……」
俯き、溢れる涙を袖で拭うメイフェン。
「美空お姉さんはすっごく強いんだよ! だから、絶対に死なない! いやだ、そんなの嫌だよ……」
勇気付けようとしながらも、素直な感情を抑えきれないシェンリー。
二人の涙が痛いほど心に突き刺さる。
本音を言えば、自分だって離れたくはない。
しかし、美空が行かなければこの国は壊滅する。そうなれば二人を守ることも叶わない。行くしかないのだ。
「シェンリーさんとメイフェンさんには、これから先もっと楽しいことがあります。素敵な出会いがあります。だから、そんなに泣かないでください」
「私が今生きているのは、美空さんのおかげです。美空さんに出会わなければ、私はどうなっていたのか……」
「どんなに楽しいことよりも、どんなにすごい人よりも、私は美空お姉さんがいいのっ! 泣かないでなんて無理だよ……!」
そんなことを言われると、自分まで泣きそうになってしまう。
美空は姉妹に背を向け、涙を拭った。
そして最後に、笑顔で振り向いて告げる。
「さようならは、私も辛いです。だから、またお会いしましょう」
「うんっ、またね!」
「はい、早く帰って来てくださいね」
この別れに、『また』なんて無い。絶対にここに戻っては来られない。
それでも美空は、また会おうと言った。
その理由はただ一つ。シェンリーとメイフェン、その姉妹の笑顔を目に焼き付けておきたかったから。




