第33話 反転攻勢
一礼し、交渉を始めようとする美空に、マ外相とリュウは同時に指を差して叫んだ。
「どうしてあんたがここにいるんや!」
「どうして貴様がここにいるのですかぁ!」
それに対して、美空はあっけらかんと答える。
「だから言ったじゃありませんか。私はテンシャン政府の交渉人だと」
そんなはずはないと興奮冷めやらぬ様子でリュウが声を荒らげるが、マ外相は彼を右手で制してから言う。
「おもろいな。ま、ええわ。ほんならあんたに直談判させてもらいますわ」
不敵な笑みを浮かべ、こちらを見据えるマ外相。
まさか、この状況を楽しんでいるのか? それとも何か秘策があるのか?
不気味さを感じつつも、美空は冷静を保ったまま本題を切り出す。
「では、私とシェンリーさん、メイフェンさんをテンシャンに引き渡すという件について、妥協案を探っていきましょう。私自身としては、テンシャンに戻るつもりは一切ありません。姉妹の意見も同じです。なので、そちらに譲歩して頂きたいところなのですが……」
顔色を窺うと、マ外相はにこやかな表情のまま口を開いた。
「それは無理な相談やな」
そりゃそうだ。譲歩してくれだなんて断られて当然である。
お互いが納得出来る合意を目指し、まずはテンシャン側の出方を見る。
「何故です? 一応理由を教えていただけますか?」
首を傾げた美空に、応じたのはリュウ。
「国家機密を持ち出されて、ただで済むと思っているのですかぁ? 犯罪者である貴様に、何を言う権利も無いのですよぉ。交渉は諦めて、大人しくテンシャンに来るといい」
話をすり替えられた。
交渉の余地すら与えないつもりか。
「ちゃんと質問に答えてください。引き渡しにこだわる理由は何なのですか?」
「上のご意向、トップのご意志。どんな手を使ってでも貴様らを消す。理由などそれだけですよぉ」
もはや引き渡しではなく消すことが目的になっている。
テンシャン行きが確定すれば人生はそこで終了だ。絶対に回避せねば。
「分かりました。ではこれならどうでしょう? 私たちはシャムコン王国内にてシャムコンの法律に基づき刑罰を受けます。そして、メイフェンさんが偶然持ち出してしまったテンシャンの機密情報はそちらに譲渡するか、もしくは証人の目の前で完全消去します。これなら問題は無いのでは?」
これが素人の頭で考えた一番平和的な解決法。
しかし、マ外相とリュウはすでに聞く耳を持っていないようだった。
一度アイコンタクトを取ってから、二人がこちらに向き直る。
「ほう、なかなか考えたもんやな。けど、ワシらはそんな生ぬるい案で手打ちにはせえへんで。あんたに残されたのは、テンシャンに来るか、ここで死ぬか、その二択だけや!」
「この部屋には人目がありませんからねぇ。何をしてもバレなければ良いのですよぉ」
リュウが拳銃を取り出し、脅しをかけてきた。
もうその手は見飽きたのですが。
心の中で呟き、美空が大きくため息を吐いた。
そして、マ外相とリュウを睨みつけて言う。
「交渉決裂、ということでよろしいですね? 後悔しても知りませんよ?」
「後悔? そんなものあらへんわ」
「さっさとやってしまいましょう」
こうして会談は終了し、武力による抗争へ発展することになった。




