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味方を殺した罪で事実上追放された私は、死んだと見せかけて旅に出ることにしました 〜生きているとバレて戻ってくるよう命令されてももう遅いです〜  作者: 横浜あおば
第3章 凋落王政の国

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第30話 王子からのお願い

 ティーラシン曰く、電話ではなく直接会って話したいとのことだったので、美空みくは部屋を飛び出して王宮へと急いだ。

 夕食をご馳走になり、別れを告げてからまだ数時間しか経っていない。よほど緊急の用件なのだろう。


 門をくぐり豪邸の玄関ポーチまで辿り着くと、そこにはプロイの姿があった。


漆原うるしばらさん、面倒をおかけして申し訳ございません。お父様は二階の執務室におりますので、どうぞお入り下さい」

「分かりました」


 プロイもどこか焦りを隠せない様子だが、理由はティーラシンと同じだろう。今ここで訊く必要はないと美空は判断し、とりあえず首を縦に振った。


 真っ赤な絨毯が敷かれた階段を上がり、二階の廊下を進む。

 そして、執務室の扉をノックすると、室内からティーラシンの声が返ってきた。


「漆原様ですね? お待ちしておりました」

「失礼します」


 美空が扉を開けると、机に向かっていたティーラシンは立ち上がり、手前の革製の椅子に座るよう促した。

 小さな楕円形のテーブルを挟んで向かい合うように座ると、ティーラシンが口を開く。


「先ほどお別れしたばかりなのに、わざわざご足労ありがとうございます。実は今し方、状況が急変しましてね」

「何があったんです?」


 首を傾げる美空に、ティーラシンは小さく頷いて続ける。


「テンシャンの外務大臣と軍の幹部が、明日の夜に会談をしたいと申し込んできたのです。さすがに急すぎると別日を提案したのですが、決定事項だと押し通されてしまいまして……」

「それはまた強引な」

「はい。ですが、ここで断れば外交問題に発展しかねません。シャムコンには受け入れる以外に選択肢は無いのです」


 経済大国と新興国とではパワーバランスは歴然。主導権は常に強者が握るものだ。テンシャンに求められれば、シャムコンは言いなりになるしかない。


「それで、私を呼び出した理由は何でしょう? ただ会談が決まったことの報告、ではありませんよね?」

「もちろんです。僕はあなたにあるお願いをしたくて呼び出しました。……漆原様には今回の会談で、交渉役を担って頂きたいのです」

「こ、交渉役、ですか……?」


 ティーラシンからの思わぬお願いに、美空は戸惑いの表情を浮かべた。

 このような交渉人のことをユナイタルステイツではネゴシエーターと呼ぶが、その役職に就く人物は基本的にコミュニケーションや心理学等の高いスキルを有している。到底素人に務まるものではない。


「恐らくテンシャン側は、我々が漆原様たちを保護していることを把握し、引き渡すよう話をするのが目的だと考えます。その場合、まともに話に付き合ってしまってはこちらに勝ち目はありません。そこで、漆原様本人がその場に現れることで、相手の予定を狂わせて流れを変えられるのではと思い至った訳です」

「なるほど。私が交渉役になることで、ゲームチェンジャーとしての役割も果たせるということですね」


 確かに、引き渡してほしい人物その人が交渉の場に現れるなどとは誰も考えないだろう。動揺を与える作戦としては有効と言える。

 しかし、その後はどうだ。相手が一度落ち着いてしまえば完全にテンシャン側にペースを握られてしまうのは明白。交渉が決裂しても、対象本人がいるなら無理やり連れて帰ろうという暴挙に出ないとも限らない。

 もちろんそうなったとしても勝つ自信はある。だが、不用意な戦闘は出来るだけ避けたい。


 美空がしばし頭を悩ませていると、執務室の扉が開いた。プロイが淹れたての紅茶を運んできてくれたのだ。


「漆原さん、嫌なら嫌と断ってくださいね。わたくしたちは本来、あなたを保護する立場なのであって、このような厄介事に手を貸して頂く必要は無いのですから」


 まだ湯気が立っている温かい紅茶をテーブルに置くと、プロイはそう言い残してすぐに部屋を後にした。


 そんな彼女の背中は、どこか不安げで憂いが感じられた。

 プロイもきっと、必死で悩んで一人戦っているんだ。自分だけ逃げるなんて出来ない。

 美空は心の中で、結論を下した。


「ティーラシン王子。テンシャンとの交渉役、是非私にやらせてください」

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