第27話 王宮の晩餐
「あなたのおっしゃる通り、わたくしの目的は別に存在します。……わたくしを、いえ、わたくし達王族を、助けては頂けないでしょうか?」
プロイの真の目的。それは、国民の批判に晒されてしまっている今の王族を助けて欲しいというものだった。
「助けてと言われましても、具体的にどうすれば……?」
あまりにスケールの大きな話に、戸惑いを隠せない美空。
シェンリーとメイフェンも顔を見合わせ、呆然としている。
「そのことをご相談したく、夕食にお誘いした次第です」
つまり、助けて欲しいが自分たちでもどうしたらよいか分からないということか。
「なるほど、分かりました。相談に乗るだけでしたら、まあいいでしょう」
「ありがとうございます」
プロイは深々と頭を下げ、丁寧に礼を述べる。
美空は相談に乗ると言っただけで、まだ何か手伝えると決まった訳ではないのだが。さすがは国王の孫娘、いちいち礼節正しい。
とその時、玄関が開き建物内から一人の男性が顔を覗かせた。
「戻りが遅いと思ったら、こんな場所で立ち話をしていたのか」
その男性に対して、プロイは慌てた様子で説明をする。
「ごめんなさい、お父様。彼女にただの善意でないことを見破られてしまい、少々話が長くなってしまいました……」
「なるほど、そういうことだったか。魔法能力者に嘘をつけというのが酷な話だったな」
「いえ、決してお父様のせいではありません。わたくしの力不足の招いた結果です」
プロイがお父様と呼ぶ男性。すなわち、王位継承権第一位の次期国王。
彼は美空たちの方へ身体を向けると、胸に手を当てて自らの名を名乗った。
「初めまして、皇国の魔法能力者漆原美空様。そして、シェンリー様とメイフェン様。僕はシャムコン王国の第一王子、ティーラシンと申します。突然のお誘いにも関わらず、快く受け入れて下さったこと、感謝致します」
「いえ、こちらこそ夕食にお招き頂いてありがとうございます」
美空が恐縮して頭を下げると、後ろの姉妹も一拍遅れて頭を下げた。
「食事の用意は出来ております。詳しくはそちらでお話ししましょう」
「どうぞ、お入り下さい」
ティーラシンとプロイに先導され、美空たちは王宮の中へ足を踏み入れる。
異文化の雰囲気が漂う廊下を抜け、案内されたのは広々としたダイニング。テーブルの上には、皇国では見る機会の少ないシャムコン料理がずらりと並べられていた。
「さあ、お掛けになって下さい」
ティーラシンに促されて席に着くと、独特なスパイスの香りが嗅覚を刺激した。美味しそうな料理の数々に、シェンリーのお腹が鳴る。
「あなたたちは逃避行を始めて以降、まともに食事を摂れていないのでしょう? ですから、今日は心ゆくまで堪能して下さい」
その音を聞いたプロイが、そんな気遣いの言葉をかける。
美空たちは「いただきます」と手を合わせてから、料理に手を付けた。
大きなエビが入ったスープ、ココナッツミルクを使ったカレー、鶏肉とジャスミンライスの炊き込みご飯。それらの料理はどれも絶品で、美空たちは本題も忘れて無我夢中で食べ続けた。
「ご満足頂けたようで何よりです」
ホッとした様子のプロイに、美空は笑顔で応じる。
「はい。とても美味しくて、もう箸が止まりません」
「では、召し上がりながらで構いませんので、そろそろお話の方させて頂いても宜しいでしょうか?」
すると、自身も料理を口に運んでいたティーラシンがそう話を切り出した。




