第23話 長距離列車
時刻は正午過ぎ。美空たちのいるハノミン社会主義共和国は、今朝発生した首席宮殿の爆発火災によって国中が大騒ぎになっていた。
そんな中、美空はシェンリー、メイフェンの二人と共にベナム駅のホームで列車を待っていた。
『まもなく、八番線にバンタイ行き普通列車が参ります』
アナウンスの後、駅に列車が滑り込んでくる。
先頭の気動車はディーゼルの音をガタガタと立て、連なる客車は緑色の古びた車輌。テンシャン主導で造られた国際高速列車と比べると、その技術の差は数十年ほどの開きがあるように思える。
「これで隣の国に行けるんだよね?」
「はい、そうですよ。時間はかなり要しますが……」
列車に乗り込みながら問いかけるシェンリーに、美空はこくりと頷き苦笑いを浮かべる。
本来なら高速列車で三時間半ほどの距離を、倍以上の時間をかけて走るこの普通列車で移動することになったその理由。それは一週間前に発生した乗っ取り事件、もとい自分のせいで未だに高速鉄道は運休状態にあるからだ。
まさかここまで事態が長期化するとは、自分でも想定外だった。思った以上にとんでもない事をしてしまったらしい。
「お姉ちゃん、私窓際がいい!」
「うん、分かった。じゃあ私は通路側に座るね」
姉妹が微笑ましいやり取りをしながら切符に書かれた席に向かう。
座席はボックスシートになっていて、美空たちはその向かい合わせの四席を確保した。一席多くチケットを取ったのは他人と相席になるのを避けるため。長時間至近距離にいられては、お尋ね者だと気付かれるリスクも高まるからだ。
シェンリーが窓際、メイフェンが通路側に腰掛けたところで、美空は彼女たちの向かいに座る。進行方向とは反対の向きなので少々落ち着かないところはあるが、二人掛けを一人で使うのだから文句も言えまい。
発車時刻になり、列車がゆっくりと動き出した。
美空は窓の外に目を向ける。そして、流れる景色をぼんやりと眺めながら、ハノミンでの出来事を思い返す。
「グエンさんには、生きていてほしかったですね……」
脳裏に浮かぶのはきっちりと制服を着ながらも不真面目な口調の軍人グエンの姿。おかしくなってしまった祖国を取り戻すべく、最後まで戦い抜いた彼のことはどうしても忘れられそうになかった。
国家主席が死んだと知ったら、どんな反応をするだろうか。自分に託して良かったと、喜んでくれるだろうか。
そんなことを考えているうちに、疲れが蓄積していた美空はいつしか深い眠りについていた。
目が覚めると、そこは列車内ではなく真っ白な空間だった。
いや、正確に言えばここはまだ夢の中だ。
以前に一度だけ、美空はこの光景を見たことがある。
『結局お前ハ、私の忠告に従わなかッタのだな?』
「あなたは、シーシャープですね……」
何も無い空間に突如姿を現したのは、自称魔法総神シーシャープを名乗る少女。見た目こそ自分と同じくらいの年齢に思えるが、真っ白な肌と肩まで伸びた銀髪、宝石のように真っ赤な瞳が本物の神だという信憑性を高めていて。
『まだ慣レないか? 私はこれでも友好的に接シテいるつもりなのだがな』
世界最強である美空でさえ、彼女に畏怖を感じずにはいられなかった。
「それで、十日も経っていませんが私に何のご用でしょう?」
一刻も早くこの不気味な空間を抜け出したい美空が本題に入るよう促すと、シーシャープは何がおかしかったのか口元を緩めた。
『十日、十日か。十日モあれば世界なんて大キク変貌するだろう。スパンが短いとは思えナイが?』
彼女の言葉は確かに正しい。現にハノミンでは国家主席の死によって、国の形が揺らいでいる。世界が変貌するのに十日もいらないことを美空も知っている。
「別にそのようなことを言いたい訳ではなくて」
『悪かッタ。冗談が過ぎたナ、漆原美空。謝罪シよう』
語気を強めて返すと、神を名乗る少女は意外にも素直に頭を下げた。
その行動に呆気に取られる美空に、シーシャープはやれやれと首を左右に振り。
『神とて傲慢デハない。非があるなら認メルさ。それで、今日お前に伝えタイことだが……』
とようやく本題を切り出した。
『お前はこの先モ、人ヲ助けながら旅をし、幸せを探シ求める。しかし、この道ノ先に、望んだ未来ハ無いと断言しよう』
それは、酷く衝撃的な託宣だった。
皇国から逃れ、幸せを見つけようと旅をしているというのに。目的が果たされないと断言されて、誰が受け入れられようか。
「……信じるつもりはありませんが、一応心に留めておきます」
そう無感情に答え、神に侮蔑するような目を向けた美空。
それに対し、彼女は小さく微笑み。
『今はそれデ良い』
と満足そうに頷いた。
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