第21話 選択
国家主席は美空に対し、二つの選択肢を与えた。
まず一つはこの二発でシェンリーとメイフェンを撃ち殺すこと。そうすれば美空の命は保証すると約束された。
そしてもう一つはそれを無視し抵抗すること。その場合、自分も姉妹も抹殺すると脅された。
有って無いような選択肢だが、最初からやることは決まっている。
「魔法能力者とはいえ、君も人間だ。命は惜しいだろう? なら、どちらを選ぶかは迷うまでもないと思うがね」
不敵な笑みを浮かべこちらの行動を観察する国家主席。
その言葉に美空は小さく頷き、口元を緩めた。
「……そうですね。こんな二択、悩むまでもありません」
「では、引き金を引くが良い。私は君の選択を歓迎しよう」
美空は引き金に指をかけ、照準をシェンリーに向ける。
「美空お姉さん? 待って、撃たないよね……?」
「美空さん、殺すならシェンリーじゃなくて私を……」
顔を真っ青にして怯える妹を、姉が肩を震わせながら庇う。
素敵な姉妹愛。二人の絆が赤く染められる瞬間を待つ国家主席に、美空は最後に問いかける。
「あなたは私の選択を歓迎すると言いました。二言はありませんね?」
「当然だよ。そして約束は守ろう」
「……分かりました。私たちの抹殺、やれるものならやってみてください」
直後、美空は国家主席に銃口を向け引き金を引いた。
乾いた銃声が無機質な地下室に響き渡る。
「ぐはっ!」
何が起きたのか理解が追いつかない国家主席は、撃ち抜かれた胸を押さえながらこちらに視線を向ける。
「逃げますよ。シェンリーさん、メイフェンさん」
「う、うんっ……!」
「あ、はい……」
姉妹も突然の出来事に困惑している様子だが、ゆっくりしている余裕は無い。宮殿に常駐する護衛がこの異変に気が付くのは時間の問題だろう。いや、既に気付いていても不思議じゃない。
「ま、待て……! ここから逃げられると思わないことだな……」
苦しそうにしながらも、なお抵抗を続ける国家主席。
美空はそちらへ振り返り、無感情に告げる。
「あなたはこの国の誇りを汚しました。引き金を引いたのは私ではなく、この国を正すために命を賭した軍人が引いたのです。私が抹殺される条件は満たされていません」
「戯れ言を……」
「それでは角度を変えましょう。あなたは強者の懐に入り込むことが最善手だと言いましたね? この場において強者とは誰でしょう。これを理解していなかった時点で、弱者は負けなのですよ」
「小娘が、調子に乗りよって……。今すぐ地獄に葬り去ってやろう」
国家主席が腰のポケットに手を入れ、何かを取り出す。
それを見て、美空は思わず目を見開いた。
「そうだ、この宮殿の爆破スイッチだよ。私が押した瞬間、建物ごと御陀仏だ」
「そんなこと、させませんよ」
美空は右手を伸ばし、暴挙を防ぐべく魔法を発動させようとする。
しかし、それより早く国家主席はスイッチを指で押し込んでしまった。もう爆破は止められない。
多くの犠牲が出ることは明らかだが、自分ではどうすることも出来ない。
仕方なく、美空は発動予定の魔法を切り替えた。
「魔法目録十五条、転移!」
姉妹の身体を引き寄せると、同時に視界が光に包まれる。
爆炎が襲う寸前、美空たち三人は宮殿から脱出することに成功した。
「この私が、あんな小娘に負けるなど……。魔法能力者、彼女たちの評価を改めなければな……」
炎に飲み込まれた地下室の中、国家主席は負け惜しみのように小さく呟く。
あっという間に火の手は広がり、死を悟った国家主席は静かに目を閉じた。




