第17話 再会
ベナム市上空。
上下左右へ回避行動をとりながら、美空はグエンと落ち合うポイントを探していた。
「しつこいですね。これでは見つけられないじゃないですか……」
背後に迫るテンシャン軍機は機銃を唸らせ、自分の命を狙ってくる。
どこかで発煙筒が焚かれているはずなのだが、街に視線を向ける余裕も無い。
早く、早く何とかしなければ。
焦りを感じる中、通信機越しにグエンが叫んだ。
『真下だ、真下!』
「真下?」
慌てて下を見ると、建物の屋上に赤い光とそれに照らされるグエンの姿があった。彼は両手を大きく振り、苦笑気味に歓迎している。
『降りられるか?』
「平気です」
美空は体を捻って急降下すると、地面すれすれで再度上昇しグエンの待つ屋上へと降り立った。
戦闘機では出来ない機動に、自分を追いかけていた三十機がそのまま飛び去っていく。厄介な邪魔者もいなくなり、ひとまず安堵する。
「それで、ここは一体何なんですか?」
「ああ。ここはな、不法滞在者の収容施設だ。お前さんの連れもここにいる。どの部屋にいるかもすでに調査済みさ」
首を傾げる美空に、グエンは片目を瞑って紙を手渡す。
その紙には部屋番号と思しき数字と建物の地図が記されていた。
「お前さんなら姉妹二人の救出くらい朝飯前だろ?」
「グエン少佐は来てくれないのですか?」
「俺には俺の役目があるんだよ」
目を細め、薄く微笑むグエン。
シェンリーとメイフェンを助け出す以外に、一体どんな重要なことがあるというのか。
「教えてはくれないんですね?」
「美空ちゃんに教えるようなことじゃない。ま、裏切るつもりは無いから心配するな」
美空の肩に手を置き、グエンは屋内に入っていく。
「本当に勝手な人ですね……」
姉妹を助け出した暁には、何をしていたのかとことん問い詰めてやろう。
そう心に決め、美空も収容施設の内部へと足を踏み入れた。
収容施設の廊下は、等間隔に設置された豆電球と窓から差し込む月明かりしか光源が無く、不気味なほどに薄暗かった。
時折、扉の向こうから呻き声や物音が聞こえ、美空はその度に身体を震わせる。
「正体が収容者だと分かっていても、少し怖いです……」
こんなところに長居しては気が狂いそうだ。速攻で二人を見つけて脱出しよう。地図を片手に、美空は早歩きで廊下を進む。
階段を下りたり角を曲がったり、方向感覚を失いそうになりながらも、ひたすら歩く。そして、とうとう地図に書かれた数字と同じ番号の部屋を見つけることに成功した。
部屋の扉は巾着錠と鎖で固く閉ざされていて簡単には開きそうにない。まずはこれを突破しなければ。
深呼吸してから、小声で魔法を唱える。
「……魔法目録七条、物体干渉」
鍵穴に手を伸ばし、鍵を回すような仕草をする。
それと同時に、鍵穴がガチャンと音を立てて解錠された。鎖から外れた巾着錠がカランと床に落ちる。
物体干渉魔法はその物に触れずして意のままに操れる魔法だ。いわゆる念力、ユナイタルステイツ語のサイコキネシスと言えば伝わりやすいだろうか。
鎖をどかし、美空はドアノブに手をかける。
そして、扉を開くと室内には。
「美空さん……?」
「っ、美空お姉さん!」
こちらを見て驚きの表情を浮かべるメイフェンとシェンリーの姿があった。
シェンリーは今にも泣きそうな様子で美空に抱きついてきたが、その身体は少し痩せ細ったように感じられる。ホッとした様子でベッドに腰掛けているメイフェンも、どこか顔色が良くない。
きっとこの一週間、酷い待遇を受けていたのだろう。
「すみません。警察に保護してもらった結果が、こんなことになるとは考えもしませんでした」
後悔の念でいっぱいになり、心の底からの謝罪を口にする美空。
それに対し、シェンリーとメイフェンは首を横に振った。
「美空お姉さんが謝ることじゃないよ。だって、助けに来てくれたもん。それだけで十分!」
「ええ、そうですよ。美空さんには何の罪もありません」
二人の優しさに、痛んだ心がぽかぽかと温められていく。
こんなにも頼ってくれている、信じてくれている。ならば、姉妹のヒーローとして挫けている場合なんかじゃない。
美空はネガティブな感情を捨て、しっかりと前を向いた。そして、力強く言う。
「早くここから逃げましょう。私と一緒に、もっと遠くへ。幸せな未来を掴み取るために」