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第14話 反攻作戦

 一週間後、聖暦二〇二一年一月十八日。

 美空みくはハノミン軍のパラトリー群島奪還に向けた反攻作戦に参加すべく、ベナム市北部にある基地にやって来た。


「ここが航空基地ですか……」


 その光景を見て、美空はぽつりと呟く。

 皇国護衛隊の基地には立派な管制塔に巨大な格納庫、快適な隊員宿舎など多数の施設が備えられていて、二千七百メートルの滑走路が二本あった。

 それに比べてこの基地は、プレハブの管制室兼隊員宿舎とトタン屋根で覆われた簡易的な駐機場しかなく、滑走路も長さこそあれど舗装はされていなかった。


「お前さんが皇国の最高傑作か。実力は別として、見た目は名前の通りだな」


 立ち尽くす美空に、三十代ほどの男性が声をかけてきた。

 皺一つ無い制服を着ているその姿はとても凛々しいのだが、口調からは不真面目さしか感じられない。


「本日より作戦に加わります、漆原美空です。あなたは?」

「俺はハノミン空軍のグエン・ティア・フォー少佐だ。一応今回は作戦参謀を務めることになってる。くれぐれも裏切ってくれるなよ?」


 いたずらっぽく笑うその男が、一時的な自分の上官になるらしい。

 皇国護衛隊にはまず居ないであろうタイプの人間だ。距離感を測りかねる。


「グエン少佐、私はどうすれば?」

「待て待て、そう焦るな。これだから皇国人はなぁ……」


 グエンは頭をがしがしと掻いて、ついて来いと手で合図をする。


「あの、どちらへ?」

「真面目な美空ちゃんにまず言っておく。このハノミンは独裁国家だ。国家主席が全権を掌握していると心に刻んでおけ」

「は、はぁ……」


 いきなりちゃん付けとは、舐められたものだ。

 よく分からない忠告にとりあえず頷いておき、美空はグエンの後を追う。


 そして案内された先は、プレハブの作戦指揮所だった。


「ゲストのかわい子ちゃんを連れてきたぞ。仲良くしてやれよ、今のうちに(・・・・・)な」

「漆原美空です。よろしくお願いします」

「「…………」」


 グエンに紹介され美空は深く一礼した。だが、隊員からの反応は皆無。

 ある者は黙ってこちらを見つめ続け、ある者は自分の存在自体を無視している。まるで慣れ合う気など無いというように。


「まあ、状況が状況でな。彼らなりの優しさなんだろう。許してやってくれ」

「いえ、それは構いませんが……」

「そんじゃ、本題に入ろう。今回の作戦では、お前さんに切り込み役を任せるていになってる。俺たちは後方に隊列を組む。古い戦闘機だが、火力は十分と思ってもらっていい」

「了解」


 話を聞きながら、美空はグエンの言動にずっと違和感を抱いていた。

 半分は冗談交じりなだけとも思えるが、合間合間に何かを伝えようという意図を感じる。だが、何を伝えようとしているのかが読み取れない。


「パラトリー群島上空まで到達した後、お前さんには高度を下げてテンシャンの軍事施設を破壊してほしい。間違って高度を上げるなよ(・・・・・)?」

「大丈夫です、間違いませんから」


 馬鹿にしたような物言いにムッとした表情を浮かべる美空。

 やっぱりこの男はふざけているだけだったか。

 グエンは一度ため息を吐いてから言葉を継ぐ。


「とにかく、高度ってワードを頭に入れておけ。で、作戦の概要はざっとこんなもんだが、質問は?」

「いえ、ありません」

「そうか。ただまあ、この話は忘れてもいい。むしろ忘れろ。その通りに動いたところで、お前さんに得があるとは思えんからな」

「どういう意味です?」


 問いかけるも、グエンは何も答えずに踵を返してしまった。

 こちらを見ることもせず右手をひらひらと振り、作戦指揮所から出て行く。


「何だったんでしょう、一体……」


 残された美空は心にモヤモヤを抱えたまま、壁に貼ってあった地図に目を向ける。

 パラトリー群島奪還。その計画が記されているはずの地図には、予定飛行ルートと現地の文字がびっしりと書き込まれていた。


「っ、これは……」

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