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第12話 一党独裁の国

 数時間の仮眠によって魔法力も少し回復した。

 洞窟で眠るシェンリーとメイフェンを起こした美空みくは、二人と共にハノミン社会主義共和国の首都であるベナム市へと転移した。


「ここがベナムですか……」


 街並みを見回した美空が呟く。

 その光景はとても近代的で、ランシン市と同じくらいの発展を遂げていた。


「この国でもイーウェンペイは使えるのね」

「お腹すいた〜。私何か食べたいなぁ」


 隣では、姉妹も建物の看板やお店に目を向けている。

 やらなければならないことは多いが、まずは食事でも良いかもしれない。

 皇国の諺にも『腹が減っては戦は出来ぬ』とある。これからやるべきは正に戦だ。


「では、どこかレストランで食事にしましょうか」


 美空は二人を連れて近くにあったレストランの扉を開けた。

 来客を知らせる音が店内に響き、女性の店員が話しかけてくる。


「いらっしゃいませ。ご予約はされていますか?」

「いえ」

「では、何名様でしょうか?」

「三人です」

「こちらへどうぞ」


 やり取りの後、ボックス席に案内される。


 どうやらこの国でもスマホが普及しているらしく、現地企業による飲食店の予約アプリやテンシャンの企業の電子決済サービスのロゴマークが壁に貼られていた。そして、後から来た客のほとんどはスマホ予約をしており、会計をする客もほとんどがスマホで支払いを済ませている。テンシャンではまともに店に入ることも無かったので、この光景はなかなか新鮮に感じられた。


 メニューの写真を見て適当に注文をした美空は、のんびりと料理の出来上がりを待つ。すると、向かいに座るシェンリーに話しかけられた。


「美空お姉さんって、スマホ持ってないの?」


 そんな質問をされ、一瞬虚を突かれたような表情を見せる。

 いわゆる雑談、他愛もない話を振られただけなのだが、長く護衛隊に所属していた美空はこの手の会話に慣れていなかった。


「……はい、そうですね。持っていません」

「何で? 今時珍しいよね?」

「確かに、テンシャンで暮らしてきたシェンリーさんにはそう思えるかもしれませんね。ですが、皇国では持っている人の方が少ないのですよ?」

「へぇ、どうして?」

「それは、皇国では折りたたみ式の携帯端末が普及していますから」


 皇国で主流の通信機器は二つ折りの携帯電話だ。上に液晶画面、下にキーボードというシンプルな作りで、老若男女が扱いやすい設計になっている。一時期はスマホが話題になったこともあったが、物理キーボードじゃないと文字が打ちにくいだとか、大して機能に差は無いとかで、結局普及することはなかった。


「良くも悪くも、皇国は旧態依然の国なんです」

「きゅーたいいぜん?」


 美空の言葉に、シェンリーが首を傾げる。


「古い考え方に囚われて、進歩が無いということです。スマホの件もそうですが、年功序列に男尊女卑。既得権益を手放したくない上の人間が、非論理的な制度を頑なに変えようとしないんです。護衛隊は特にその傾向が強かったので、私はずっと居場所がありませんでした。……こうして今、外の世界を知ることが出来て、改めて皇国の異質さを思い知らされています」

「美空さんは、今まで大変な思いをされていたんですね……」


 メイフェンに優しい眼差しを向けられ、美空はハッとして手をひらひらと振った。


「いえいえ、そんなつもりで言った訳では。そろそろ料理が来る頃ですかね?」


 笑みを浮かべて誤魔化すが、姉妹からは完全に同情されてしまっている。

 雑談をこんなに重たい話にすり替えてしまうなんて。美空はあまりのコミュニケーション能力の無さに、自分を殴りたい気持ちでいっぱいになった。


 二人との空気が戻ったところで、ふと咄嗟に出た言葉が引っかかる。


「って、本当に遅いですね。注文してから結構経ちましたが……」


 そんなに難しい料理でもないはずなのに、未だに一品も出てこない。後から来店した客の方が先に食べ始めている始末だ。これは幾ら何でも遅すぎる。


「店員さんに訊いてみたら?」

「そうですね。一言言ってやりましょう」


 そう提案したシェンリーに美空は頷き、クレームを入れるべく店員を呼ぼうと店内を見回した。

 その瞬間、入り口から入ってきた警察官と目が合った。嫌な予感。


「動くな! 漆原美空、ワン・シェンリー、ワン・メイフェン。三名を拘束する!」


 店中に響くいかめしい警察官の声。


「どうしよう、お巡りさんが追っかけて来ちゃった……!」

「大丈夫、きっと大丈夫だからね……」


 身体を寄せて抱き合う姉妹を庇うように、美空は立ち上がると。


「逮捕するなら私一人にしてください。この姉妹は私の人質で、被害者なのですから」

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