ストーカー
茜が高校生になった。俺が通う筈だった進学校に見事合格して、高校生活を満喫しているみたいだけど、母さんに合気道を習い始めたのもあって、俺とも良好な関係を築けていると思う。茜は会うたびどんどん綺麗になっていく。お洒落になって、俺はちょっとだけ疎外感を覚えた。幸い男の影はまだ無いけれど、時間の問題かもしれないな。
今日は合気道の日。俺は軽くストレッチをしながら茜を待った。学校からまだ戻っていないのだろうか?
ベランダから下を見ると、茜が走って来た。何故か後ろを警戒しているようで、チラチラと、様子を窺っているようだ。!つけられている?サラリーマン風の男が、辺りを探っているようだ。
俺は直ぐに下に降り、男に声をかける。
「おじさん、何しているの?」
「僕は、このマンションの子?ここに高校生のお姉さん、住んでいるか分かる?肩位の髪の、目のぱっちりした子」
「その人と、おじさんはどういう関係?」
「前にちょっと親切にしてもらって、それから親しくなったんだよ」
「親しいなら、名前位聞いているよね?」
「いや、それは…。」
「おじさん、青少年育成保護条例って知ってる?下手すると会社も解職だし、奥さんともどうなるか。道を踏み外さない方がいいと思うけどな」
男は慌てて左手を押さえ、俺を睨みつける。怖くない。このマンションはオートロック式だし、住宅地だからひと目にも付きやすい。
「偶々上から見てたんだよね。ね、警察呼んでいい?」
「チッ。…い、いや誤解だよ。誤解だからね?」
男は慌てて立ち去った。
家に戻ると、丁度着替えた茜と家の前で鉢合わせた。
「お姉ちゃん、ストーカーに狙われているの?」
「!アイツに会ったの?大丈夫?何もされなかった?」
「心配しているのは、俺の方なんだけど。偶然見かけただけだよ。それよりもお姉ちゃん、気をつけて?僕心配だよ」
「…あれ?俺?」
「えっと、そろそろ僕はもう卒業しようかなと思って。変かな?」
「ううん、透ちゃんなら、どっちでも可愛い」
「可愛いとかさ…男なんだし。ね、ちゃんも止めてよ。せめて君で…わっ!」
茜が俺をぎゅっと抱き締める。
「そっか。背伸びしたい年頃だもんね。でも、可愛いのは可愛い。透君も、名前で呼んで?」
「えっと…茜ちゃん?」
「うん。いいかも」
「頭撫でるとか…子供扱いも、止めて欲しいんだけど」
「それは無理!透君が可愛い過ぎるのがいけないの!」
「可愛いのは茜ちゃんでしょう?」
「ふふっ。褒められた。透君から褒められると、嬉しいな」
面と向かって言われると恥ずかしくて、というか言った本人も恥ずかしいのか、焦ってる姿が可愛い。
「母さんが、待っているよ」
「そ、そうだったね」
高校生になってからも相変わらずな茜が嬉しかった。