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プロローグ1

本日2本目!

「スキル──〈神鉄斬撃(しんてつざんげき)〉ッ!」


 刀が、蒼く煌めく。


 それは神鉄(しんてつ)を一刀両断したという伝説に伝えられたスキル。神の創った鉄である神鉄(しんてつ)は最硬と言われ、一流のさらに上、達人の鍛冶職人をしても叩けるようになるまでに10日かかると言われるほどの代物。それを一刀両断できるというのだから、その威力は推して知るべし。

 しかし、このスキルの本質はそこにはない。


 攻撃モーションに入った僕に反応して、眼前でぷるぷると揺れる黒いスライム──レベル3147モンスター『ノエルブラック』はぴゅっぴゅっと口と思われる穴から黒い小さな塊を飛ばしてくる。

 スキル〈孤独の星(ロンリースター)〉、喰らってしまえば100%状態異常にかかってしまう危険なスキル。このスキルの厄介な点は、その硬度と速度で不可避な点だろう。


 だからこそ〈神鉄斬撃(しんてつざんげき)〉を使用したのだ。

 僕はにやりと頬をあげ、狙い通りのスキルを使ってくれたことに安堵する。


 〈神鉄斬撃(しんてつざんげき)〉は相手の攻撃に対してのカウンタ-として非常に優秀なスキル。さらに今回の得物は攻撃力の一切ない『模擬刀(おもちゃ)』を持ってきている。打ち落とすのに、攻撃力はいらない。


 〈孤独の星(ロンリースター)〉は全部で50発。狙われる部位はランダム。その弾すべてをはじく必要がある。


「っせい!」


 気合いとともに、刀を振り下ろす。

 空中に蒼の軌跡が残る。

 1つ、2つとラインが浮かんでは消え、残滓が消えるごとに重く鈍い音がする。


 そんな現実ではありえない攻防を繰り広げていられるのは、スキルによるアシストによるものが大きい。スキルによるフィジカルアシストによって、ゲームの仮想身体(アバター)を動かすことができている。思考し即座に反応することができるのは、そんな補助があってこそだ。


 一閃。また一閃。


 固定砲台と化した『ノエルブラック』も、目の前の敵を排除すべくより鋭さを増して放ってくる。その弾丸を、チャンネルを合わせるように自然にリズムを合わせ打ち落とす。

 10、20、30と落とすたびにその速さは上がり、合わせて線は増えていく。


 金属同士が打ち合う心地いい音色をバックに、刀を振るう。連続して放たれた音が、高い音が止む。

 それは、ノエルブラックの弾切れの合図だった。


 〈孤独の星(ロンリースター)〉と〈神鉄斬撃(しんてつざんげき)〉の最上級スキルの応酬は、その銃剣劇は、最後の50発目で幕引きとなった。

 最後の弾が落ちるのと同時に、僕はとあるアイテムを投げつける。スキル〈投擲〉を使用しなくても、ヒットさせる事ができる立ち回りをしていたので、軽く放ったそれは簡単にノエルブラックに命中する。


 ぱりんと音を立てて、そのアイテム──『睡眠薬・極』がスライムちゃんに当たり、ぷるぷるぅと震えたかと思うと、空気が抜けた風船のようにふにゃっと地面に沈んでいく。意外と、そんな弱々しいノエルブラックを見てしまうと、愛着も湧いてしまう。本当は倒して素材アイテムをもらおうと思っていたけど、見逃してもいいだろう。


「おやすみ、ノエルちゃん。……っで〈自動回収〉っと」


 アイテム回収のスキルで、足下に落とした『ノエルの星屑』が僕の掌に集まっていく。妖しい輝きを持つ黒い弾丸が宙を飛んで掌に吸いこまれ、それらをポーチに仕舞うまででワンセット。これを何度も何度も行っていたので、補充分は集めきることができた。


 『ノエルの星屑』は、ランクSSSの特殊素材アイテム。ノエルブラックが放つ〈孤独の星(ロンリースター)〉の弾丸に1回でも接触しなければ、地面などに着弾し消滅してしまうために、トッププレイヤー中では入手が困難なアイテムとして知られている。


 僕──アバター名『リオ』は、素材として使ってしまった『ノエルの星屑』を補充するためにこのフィールドに訪れていた。


「よーし、これで大体集まったかな……へっへっへ」


 ポーチの中で怪しく輝くそれを見て、僕はニヤケてしまう。『ノエルの星屑』──2000個、これが本日の成果。そして倉庫に山のように積まれるのだから、その光景が楽しみで楽しみで仕方がない。


 僕の楽しみの1つは、アイテムを集めること。

 特にレアなアイテムを集めて、溜め込んでコレクションすること。だから、知らないアイテムや激レアアイテムがあると知れば、すぐさま確保に向かう。そうして集めたアイテムを眺めてうっとりする。

 そんなプレイヤーの1人だった。



 とある有名な会社が創り出したVRゲーム『ORDERS/オーダーズ』。数多のファンタジー作品の中でも、トップと呼ばれるほど人気のゲーム。


「攻略しきれない」「運営は仕事しすぎ」「やりたいことが多すぎる」


 そんな嬉しい悲鳴が多く飛び交うゲームだからこそ、長らく愛されたのかも知れない。

 フィールドは広大にして緻密、モンスターは巨大にして豊富、アイテムは膨大にして奇想天外。

 どれを取っても見劣りしないクオリティーの高さ。

 さらにプレイヤーの行動の自由度の高さも相まって、一部の制限を除くほぼ全てのことが可能となった世界は、人々の心を掴むのに十分すぎたようで。


 10年もの長い間、人々を楽しませ続けることに成功していた。


 そんな10年の帳が下ろされたのは、つい1ヶ月前。

 プレイヤー達の本願の1つ、最終フィールド《最果ての地》が攻略されたからだった。




 ぴこん。

 運営からの通知を知らせる音が鳴る。


「お、なになに……?」


 宙をタップしてコンソールを出現させる。このVRゲーム特有のフローティングボードは、所持アイテム・装備一覧、モンスター図鑑、フレンドリスト、ストレージ、プレイ設定などの機能を一手に担うシステムだ。ゲーム内通貨──ギルの管理もコンソールで行うことができ、アイテム・スキルの売買の際には欠かすことのできない機能となっている。そんな機能を複数管理するコンソールは、オーダーズの根幹をなすシステムであると言える。


 その多種ある項目の中から【運営からのお知らせ】を選択する。


「えーっと…………あれっ!?」


 お知らせの中で最新のタイトルを見て、僕は驚いた。


『6/25 新規フィールド《アルテマ》実装アップデートのお知らせ』


「新規フィールド実装!? 早くない!?」


 オーダーズのフィールドは、モンスターのアルゴリズムや風・雨などの気象状態、草木の1つ1つ、光の反射に至るまで緻密に作り込まれている。相当に作り込まれていると、素人目に見ても明らかなリアルな質感をもたらしているフィールドを実装すること。それがどれほど困難なことなのか。

 最終フィールド《最果ての地》が攻略されたのは、つい1ヶ月前の事。前々から準備をしているにせよ、この短い期間で実装までこぎ着けたというなら、「運営仕事しすぎ」と言いたくもなってしまう。

 少なくとも3ヶ月は掛かるだろうという大半の予想を裏切ってきたので、僕は驚いてしまった。


 ともかく、そんな次なるステージのことを知る必要がある。

 僕は本文となる『アップデート』についての詳細な情報を読み進める。


 それによると、アップデートは7月3日に行われ、新規フィールド《アルテマ》の解放や新規モンスター・アイテムの追加、それに伴うストーリー・クエストの追加、新規NPCキャラクター参加など。

 ファンタジーゲームならではの、“クエスト”の追加は僕としても嬉しい限りだ。オーダーズのクエストは、ギルドから請け負える「仕事」というものよりは、いわゆる「頼まれごと」のイメージの方が近い。モンスターでもプレイヤーでもない存在──NPCからプレイヤーに「薬草が欲しい」といったお願い事を聞き入れ、達成したその報酬をもらう。個人取り引きだ。そのためか、金銭ではなくアイテムを報酬とするクエストも多く、僕個人としては大満足なわけで。



 流し読みしてみた結果、新規フィールドの《アルテマ》については情報らしい情報はないようだ。どんなモンスターが出て、どんな場所で、どんなお宝が手に入るのかなど、不明な点が多い。これは実際に体験してみてのお楽しみということだろうか。


「はぁー、楽しみすぎるけどさー! ……って7月3日ってもうすぐじゃん!」


 そんな楽しみな時間まで、あと1週間ほどしか残されていない。

 武器の調整やアイテムの管理・補給、対応するであろうスキル・スペルの習得も行いたいところではある。そうでもしないと、他のプレイヤーに未知のアイテムが取られてしまう。やばたん。

 あまり時間は無駄にできない。

 少しばかり頭をひねってから、ぽんと手を打つ。


「早速、領域(テリトリー)に戻って作戦を立てよう! うん、そうしよう!」


 大きく頷いて、僕は自分の手に入れた領域(テリトリー)である《最果ての地》へ帰還する。

 このアップデートが及ぼす事態を知らないままで。

今後はゆっくりと投稿していきます。

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