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12月の夜

作者: 二六 尚希

こんにちは。

初めまして。


今回は連載も考えている話の0話の部分を書いてみました。

続きが気になられた方はブックマークしてくれると嬉しいです。

 「ちょいちょい。そこのお人よ。私をどこか遠いところへ連れていってもらえないだろうか」


 全身に血が滲んだ少女を木の上に見つけたのは昼間も冷え込む十二月の半ばだったように思う。

 

「名は? そしてなぜそんなところにいるんだ?」


「名はない。どうしてこんなところにいるのかというと『陽除け』のためだ。私は体質からして陽に弱くてな、このままだと死んでしまうのだ」


「死ぬ? まぁよくわからんがそこまで言うのなら助けてやるさ」


 手を伸ばすと血にまみれた少女の手は震えながら袖を掴んできた。どうやら思ったより弱っているらしく今にもその腕はへし折れてしまいそうだった。


「火傷みたいなその怪我。どうしたんだよ?」


「陽に当たって焼けた。じゅうじゅうと皮膚が燃えてな」


「待て待て。お前もしかして今噂になってる吸血鬼とかいうやつか? 弱点が今のところぴったり当てはまってるんだが」


 血だらけの少女を抱き抱えながら問う。

 血だらけの少女は首をかしげて考える。


「ふむ。知らない」


「本当か?」


「本当だ」


「十字架見せても?」


「効かないな」


 地面に落ちている木の枝を二つ交差させて十字架をつくって見せてみる。

 少女はきょとんとした表情のままだ。

 こうしてみると人形みたいに見える。


「とりあえずすぐそこに俺の家があるから連れてくぞ」


「うん」


 少女を抱き抱えたまま先ほど出たばかりの自分の家に戻る。山の中にポツンと建つ家だから周りの誰かに見られて怪しまれるということはない。

 玄関の戸は開けたまま、履き物を脱ぎ散らかして、とりあえず風呂場までつれていく。


「ところで。私は君のことを知らない。君の名前は?」


越前(えちぜん)(かたな)


「腰にある刀からするとに……侍かな?」


「いや、侍はやめた。辞めさせられた。先の戦の後に」


「先か後かどちらか知らないけど、今の君は無一文というわけだな?」


「俺だって少しのくらいの金は貯めてある。それももう尽きかけてるけど」


「って火傷してるんだろ? 冷やせばいいのか?」


 風呂場までつれてきたものの血を洗おうにも火傷しているのなら痛むだろうしだからといってこのまま火傷が治るまでというのも衛生的に良くない。


「火傷は放っておけばすぐに治る。だから風呂に浸かりたいな。水風呂でお願いする」


「ちょうど水なら張ってある。お前を助ける前に張ったばかりで汚くはないから入ってこい」


 本当は帰ってきてから刀が疲れをとろうと思って溜めていた水だったが火傷している女の子のためなら仕方ない。

 刀は少女を風呂場に残して出ようとした。

 だが強く袖を引っ張られ危うく後ろに倒れそうになった。

 思ったよりも力が強い少女らしい。


「一人で入れと言うのかい?」


「当たり前だろ、俺は男、お前は女の子だ」


「ふーん、少女の体に変な感情を抱くのか?」


「なわけないだろ! いいから早く入れよ」


「火傷が痛くて歩くのも辛いんだけどなぁ」


 チラッ


「……わかったよ。ただし俺に変な考えは少しもないからな」


「そんなことをいってる時点で怪しいものだけどね」


 よいしょ、と立ち上がった少女は両手を挙げて目を閉じる。


「ん」


「は?」


 二人の間に沈黙が流れる。


「いや、脱がせよ! 脱ぐのも痛いんだって! 女の服なんてすぐ脱がせられるんだから!」


「なんで怒ってんだよ! 脱がせられても痛いだろうが!」


「いいから、早く!」


 気迫に負けた刀は恐る恐る着物に似た服の裾を掴むとスカートをめくるが如く上に持ち上げ一気に脱がせた。

 所詮少女である。何も問題はない。

 だが大誤算だった。


「うっ! なんでお前下着着けてないんだ……」


「そんなの人の勝手だろうに。あ、そういや私は人じゃないんだ」


「なにいってやがる……」


 少女は全裸のまま腰に手を当て、勝手に自己紹介を始めた。

 刀は土下座にほぼ近い状態で顔を上げることなどできなかった。


「私に名前はない。人ではないが化物でもない。それが私だ!」


「そんな説明でわかるかぁ!」


「面を上げい!」


「できるか――――ぶふぁっ!」


 形としては下から蹴りあげられるといったもので鼻っ柱に少女の爪先がめり込み、そのまま後ろに大の字で倒れたのだ。

 少女にしては容赦がない。


「さて、お風呂にはいるぞ、刀」


「了解……」



 その後刀は、少女にしては長く美しい黒髪を洗い流し、子供の体を洗うように無心で血を拭った。

 時折少女の顔が少し歪んだが、それでも何も言わず、刀の手によりきれいさっぱり血は取れた。


「やっぱり冷たいなー。くぅ、痺れるー」


 少女は水風呂に爪先から徐々に浸けていく。

 驚くことに火傷だと思われる箇所が水に浸かった途端、蒸気を上げながら音と共に消えていった。


「本当に人間じゃないんだな、お前」


「だから言ったのに」


「回復したら出てこいよ、飯でも作ってやるから」


「おお、ありがとう。楽しみにしておこう」


 刀は先に風呂を出て着替える。

 家に入っても刀を外さなかったのは少女が人外だからだが、その心配も必要無さそうだ。

 腰帯から刀を抜いて立て掛けた刀の後ろから、全裸のままの少女がゆっくりと迫っていた。


 




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