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33話目

《ダンジョン 回廊の切り裂き魔の中》

 周囲はパニックになっているが俺もパニックだ。今回もいつもの通り、NPCから情報を貰って、その通り攻略してクリアする予定だったのに、何故こんなことになっている。


 「とにかく探せ!どこかにあるはずなんだ!」


 カズヤさんが大声で檄を飛ばす。しかしパニックは止まらない、これだけ探しても見つからないのだ、どこを探せばいいのかも分からない。サトクリフを相手にしない7人のうち6人ははどこを探すアテもなく、回廊を駆け回り絵を探す。俺は1人足を止め、頭に飲料用の水をかけて息を落ち着かせた。

 落ち着け、冷静になるんだ。思い出せ、昨日の夜を。あの時何を言っていた、正確に思い出すんだ。


『でも、もう昔の話だからねぇ、散々いじめたしちょっとは学習してるかもしれないわね。例えばそうねぇ見つかりにくくしたり、攻撃しにくい場所にいたりねぇ』


 そうだ、あんな忠告みたいな言葉は今まではなかった。考えろ、あの言葉の意味を。あれはこのダンジョンのことを言っていたに違いない。考えるんだ、例えばこの画廊で見つかりにくくするにはどうしたらいい?攻撃しにくい場所はどこだ?

 床?違う、そんな偶然攻撃されたり踏まれたりして気づかれるような場所ではない。

 絵が少ない箇所の壁?攻撃されにくいかもしれないが攻撃しにくい場所とは違うだろう、その気になればすぐに攻撃が可能だ。

 ならば天井か?俺は天井を急いで見渡すが照明以外何もない。

 もしや扉の前の短い通路?急いで確認するも絵のようなものはない。


 どれも違う、どういうことだ?切り替えろ、もう一つの忠告、見つかりにくくするならどうしたらいい?もし俺ならばどうする、どうやって絵を隠す?

 押入れ?そんなものこの画廊にない。

 何かの裏?手当たり次第ひっくり返したのだ、これ以上どこにある。

 隠し部屋?これだけの人数で壁を見たが気づかなかったがまだあるのか?

 壁の中に埋める?どうやって探すんだそんなの。

 

 俺は考えながら歩き、6人はバラけて探すが5分経っても10分経っても絵が見つからない。どうする?俺は死んでもそこまで影響はない、って何考えてるんだ、死んだ後のことは死んだら考えればいい、今考えるべきはそんなことではない。そんな中1人が足を止めた。

 

「クソッ……騙されたのかよぉ、俺達は。グスッ、一生恨んでやるぞぉ……」


 弱気そうな男が少し泣き出す。こんなところで泣くんじゃない、俺だって困ってるんだ、あきらめるんじゃない。それに言っておくが俺はお前らを騙す理由なんて何一つないぞ……騙す?


 騙す、何か引っかかった。騙す、見つかりにくい、見つけにくいようにする絵……ある、存在する。人を錯覚させ騙す絵、日本でも専門の美術館が存在する、その絵の名前は……。


 トリックアート、騙し絵や隠し絵とも呼ばれる絵。一言でトリックアートと言っても種類は多種多様である、絵の一部が飛び出したように見える絵、現実ではありえない建築物を書いた絵、そしてあたかもそこに存在するかのように背景に混じる絵。

 どこかにあるんだ、一見しただけでは気づかないようなトリックアートが、この回廊のどこかに。

 探すんだ、どこかにあるトリックアートを、ヤツの本体を!



 

 人の長所とは気づきにくいものである。

 ブルーノ=フェルセンは自身のことを特筆した長所はない人物だと思っている。もちろん平均より優れている部分は当然ある、ただ非常に優れている部分は何かと言われると答えるのは難しい。ブルーノは小説に出てくるトッププレイヤーのように1人で大多数の敵を相手に勝つことはもちろん、集中力を切らさずに長時間戦闘することもできないし、偶然に近い要素で入手した毒や薬類がなければ低レベルで強い敵に勝つこともできない。

 ブルーノのプレイヤーとしての実力は、率直に言って普通、弱くは無いが強くは無い。前世の記憶はある、ただしこれは長所ではない、知識である。


 しかしブルーノには他のプレイヤーより他の人間より明確に優れているといえる長所があった。知り合いのプレイヤー、現実世界の親族友人はもちろん、ブルーノ本人すら気づいていない長所。


 違いを発見する能力。


 それは神に与えられたような特殊能力チートではなく、ブルーノが前世で必要とし、生き残るために成長した能力。


 薬草、食用の草のほか毒草を採取するために他の植物との微妙な違いを見分ける能力が必要だった、そのため葉の形状や色調の違いを正確に記憶した。

 違いの発見は野生の植物に限ったことではない。彼は自分で育てる作物の異変から不作を察知し、早期に食料を買いだめすることで飢えから逃れることができた。一回成功したため、その次の年からさらに細かい違いを見るようになった。

 薬草などを発見し採取することはブルーノの仕事の一部だったので幼い頃から20年近く続けていた。そのため視界に入った植物を識別、認識する能力が高くなり、いつの頃からか狩りで獲物を探しながらでも薬草を発見できるようになった。

 ブルーノが森のように大量に雑草の生えている場所で名前が表示されていない毒草を発見できたのはこのためである。


 この違いを発見する能力、特に色彩や形状に関する違いを発見する能力の高さ、これこそブルーノの前世で成長し、日本に転生したときも、VRMMOという電脳世界でも失われなかったブルーノ最大の長所である。

 そして今、その能力が生かされる瞬間であった。本来であれば直感スキルや違和感察知スキルで見つけるはずの敵なのだが、スキルが反応する遥か前にブルーノの眼はある箇所で止まった。

 ブルーノの眼は、天井に飾られている”光っている照明の絵”を確実に捉えていた。



 あそこだっ!天井に光っている照明のトリックアートを真似たような絵が一枚、こちらを見下ろしている。すぐさま弓を構えて天井に、あの絵に向けて矢を放つが見えない壁にぶつかったかのようにはじかれた。バリアかっ、そして確信した、あれはこの回廊の絵だ。気づいてしまえばこちらのもの、混乱する赤原猟犬のメンバーを叱咤して攻撃に参加させる。面倒臭い連中だ、熱血系主人公のような最後まで、限界まで諦めない精神を少しでも持ってもらいたい。

 どうにか戦えるようになった赤原猟犬のメンバーと遠距離攻撃を叩き込む。他の絵より頑丈なバリアも、ヒビが入り、亀裂が大きくなり、壊れて中の絵が燃えた。


 アアアアァァァァァ


 どこから声が出ているのか、画廊に響くサトクリフ本体の最初で最後の声。サトクリフ本体が天井から落下し、ハンマーを持ったサトクリフは消滅した。3回目のファンファーレが壊れきった画廊に流れて終わりを知る。


画廊の切り裂き魔か、どう考えてもサトクリフじゃなくて俺達が切り裂き魔だな、壊れた絵が散乱する周囲を見渡して思った。


 しっかし今回は焦ったぜ、マジで。こんなボス心臓に悪すぎるわ。

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