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29話目

《131日目(8月10日)午前10時30分 残LP230》

 黒き守護者との交渉が終了。今回の話し合いは最初は順調に進んだ。俺が”灼熱の岩石巨人の寝床”のクリアに導いたプレイヤーなのは昨日の連絡で説明があったから知っていたし、例の情報NPCを発見したので大丈夫だと言うと黒き守護者のメンバーも乗り気になった、ここまでは順調だった。


 この後報酬についての話し合いになったのだが、これが揉めた。俺のクリア報酬は【脱出】9枚提示に対し黒き守護者は知り合いのパーティーの分を含めた【脱出】19枚を要求。19枚は多すぎる、そんなことは許されないという俺の主張に対し、ソロならそれだけ枚数があれば十分、自分達が彼らを助けないのは戦場で仲間を見捨てるのも等しいと反論。その後、誠意は言葉ではなく【脱出】の枚数、そんな装備を売っても牛乳代にもならない、【脱出】を大量入手しないと他プレイヤー達に夢を与えられない等両者数々の言葉が交わされたが合意には至らなかった。


 報酬の溝が埋まらないため交渉人ユーリアを召喚、話し合いの末【脱出】19枚を黒き守護者側に譲る、ただしその10枚の【脱出】を貰うパーティー、”隼の如く”はLPが尽きる直前まで俺の忠実な部下となり働くことを条件に合意した。


 俺がこの条件に合意したのは隼の如くが入手経験2倍を購入していないためLPが多く残っていることが俺の希望に合致したこと。そして決め手になったのは隼の如くはこのサーバーの中ではそこそこ強く、特にメンバーの2人はこのサーバーの中ではかなりの腕前だとユーリアさんから聞いたためだ。実力のあるプレイヤーを獲得できるならば、と判断し無事両者合意に至ったわけだ。

 出発は今日の午後1時、テレポートゲート前集合として別れた、今だけは数値以上に疲労度を感じる。



《131日目(8月10日)午後2時40分 残LP230》

 ダンジョン:影の女王の豪華な城

 制限人数:10人

 制限時間:2時間

 クリア条件:影の女王の討伐

 特殊事項:なし

 現在の参加パーティー:0組


 着いた。南西砂漠の地方都市モンザートからイロカの街に移動し歩くこと1時間弱、ダンジョン”影の女王の豪華な城”のポータル前にて打ち合わせを行った。今回のダンジョンは時間制限があるので事前に作戦を教えた、ただし最後のトドメの方法についてまだ言っていない、その時になれば指示するので必ず従うこと、と念押ししてポータルに乗りダンジョンに乗り込んだ。





 満月が眩しい雲一つない夜、あるのは砂漠にはとても似合わない西洋風の大きな城がただ一つ、それは異常な存在感を放っていた。あらゆる窓から明かりが漏れ、城壁がなく民衆に見せるための城。この城の主は影の女王、未だ攻略のされていないダンジョンのボスである。


 行くぞ、という俺の号令により城に突入する。入り口を開けてロビーへ、そこで待っていたのは影の女王、黒一色で表情も何も分からないが目だけはこちらを見ているのが分かる。

 俺達は武器を構えるが影の女王は腕を振り上げ手下を召喚、奥へと消えていった。手下達は意思を持った少女の形をした人形、黒き守護者の近接職が次々と粉砕していく。高い人形なんだろうな、と思いながら俺も弓で攻撃、3分ほどで片がついた。


 手下は片付いたがここでまだやることがある。じゃやるぞっ、という俺の声で俺は


 ”矢先を天井に向けて放った”


 俺の目標は天井にある豪華なシャンデリアだ。吊るしてあるロープを矢が貫きシャンデリアが落下、ガシャァンという高い音が響き壊れた。

 廊下を歩き道中にあるランプ、これらも全て破壊する。周囲は暗くなるが、光魔法を使うことで周囲の明るさを保つ。

 小部屋に入り召喚された手下、この部屋はホウキやモップ、雑巾などの清掃用品が怪人化し襲ってくるが、苦戦することはない。所詮は影の女王が呼び出した時間稼ぎ要員でしかない、手下を処理しつつ壁にかかったランプと火の入った暖炉を今回のダンジョン攻略のために用意した鈍器、討ち入りハンマーで破壊する。この討ち入りハンマーは扉や家具といった無機物に極めて高い効果を発揮する武器であり、素早くランプやシャンデリアを破壊することが可能なのだ。



 ”影の女王の豪華な城”が今までクリアできなかった理由は影の女王が圧倒的な強さを誇っていたからではない。2時間という制限時間内に倒すことができなかったのだ。

 2時間という制限時間は長いようで短い。何故なら影の女王は城内のどこにいるか分からない。発見しても手下を召喚して壁にしながら戦い、ある程度時間が経てば城内のどこかへテレポートするのだ。そして倒しきれず時間切れにより死亡するのだが、本体は強くないから倒せるかも、という希望を胸に抱き挑戦するパーティーは多かったものの攻略はできなかった。実は影の女王のHPは自動回復するので城内を探索し交戦しても倒すことはほぼ不可能なのだ。


 では影の女王は死なないのか?そんなことはない、ただ普通に武器や魔法で倒すのが非常に難しいというだけだ。

 ではどうするか、討伐方法を考えてみよう、普通に倒せないならどうする?例えば人間が生きるために必要な条件はなんだろうか?様々な条件があるが、主に水、食料、空気などがあることが挙げられるだろう。これを言葉にすると生息条件というのが一般的であろうが、では影の女王の生息条件とは何だ?


 俺達は部屋を一つ一つ潰していく。狙いは影の女王ではない、大量にある光源だ。影の女王の生息条件は影が存在すること、影は光が無ければできない、ならば全ての光源を破壊し尽くせばよい。影と言うと闇属性のような雰囲気があるが、それならばこんなにも明るい城に住む必要が無い。

 影の女王がこの城を豪華だと称しているのは自分の力を示すためでも、財力を示すためでも、存在を示すためでもない、この明るさが必要なのだ。それを知られないために豪華という言葉を使用して惑わしているのだ。


 時間にして1時間弱で大半の部屋と光源を破壊し、残る部屋は女王の寝室のみ。寝室には影の女王が待ち構えていた。手下を召喚し、苛烈な攻撃を仕掛けてくるが、俺達の命を奪うほどの致命傷にはならない。手下をスクラップにして攻撃を仕掛けるとどこかへテレポートしてしまった。そして無駄に豪華な寝室を破壊、特に光源は念入りに破壊した。


 こうして城内全ての光源を破壊したが影の女王は死ぬことはない。そんな簡単には終わらせてはくれないのがこのダンジョン。最後の決着に向けて俺達は走る、影の女王が待ち構えているだろう城の外へ。

 城の外で多数の手下を召喚し待ち構えている影の女王、城内から出てきた俺は黒き守護者の魔法使いに指示を出した。それは影の女王を倒すための、生息条件を消滅させるための命令。



 ”メテオストライクで月を破壊しろ!”



 最後の光源、月の破壊。普段のフィールドでは月を壊すことなどできない、射程外だからだ。しかしここはボス専用の簡易独立世界、早い話が狭い。見た目があまり変わらないため気づきにくいのだが、情報として知っている俺達は遠慮なく狙い打つことができる。

 実はこの状況ならば殴って倒すことも可能なのだが、俺は楽な方、確実な方を選ぶ。相手の弱い部分を突く、これが勝負における定石である。


 メテオストライクが発動し、月が2割ほど欠ける。その間俺達は手下を排除しつつ影の女王の魔法をガードする。影の女王は不死性が強く時間切れを狙うタイプ、単純な攻撃力はボスの中でも最低クラスなので俺でも十分耐え凌げる。

 4度目のメテオストライク、月の大半が消失した。影の女王は多種多様な属性攻撃を行うものの、手下の大半を失った現状では、まぐれ当たりの期待すら薄くなっている。


 そして聞こえてくる5回目のメテオストライクの発声。隕石が原型を留めていない月に近づき、完全にその存在を消滅させた。そして最後に残った影は俺達の影、光魔法による光が俺達を照らしている。これをキャンセルして、周囲は完全な闇となった。


 キャアァァァァァッ


 轟く悲鳴は影の女王の断末魔。女王はこの世界にいることはできない、女王は生きることができない。影無き世界は影の女王の存在を許容しない。女王に取って光とは人間で言う空気、一時的にとはいえ完全に無くなってしまえば生存することが不可能なのだ。


 暗闇の中ファンファーレが鳴り響く、10日前に聞いた声が流れる。ポータルが出現し、太陽と月のある世界へ帰る。

 眩しい、普段以上に眩しく感じる、薄暗い世界よりも俺はこの明るい世界のほうが好きだ。横で人が俯いている世界よりも笑ってる世界のほうが好きだ。



 さて、感傷的になるのはここまでにして【脱出】の枚数確認とドロップアイテムの確認。俺はまだこの明るい世界で、やらねばならないことは多いのだ。

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