2話目
俺は4歳になった。
記憶を引き継ぎ転生すれば無敵でチートな人生を送れる、そう思っていた時期が俺にもありました。
結論から言おう、そんなことはなかった。
記憶がある、記憶があるのはいいのだが……まったく活用する機会が無い。だって、どう考えたってこの日本という国においては時代遅れな知識か役に立たない知識、すぐに調べることのできる知識もしくはすぐに習う程度の物しかないんだからさ。
まずは植物類の知識であるが、俺は前世でも専門家というほど詳しくはなかったし、何よりも問題なのはそもそも生態系が違うのだ。つまり、俺の知っている草は生えてすらいないという悲しき現実が今ここにあるのだ……いや、生えていても植物図鑑に多分全部掲載済みだろう、写真付きで。
次に農業の知識についてだが、そんなもん今の農家の人のほうが優秀なのは考える間もなく明らかである。ちなみに俺が昔育てていた野菜類もこの世界にはない、似たようなものはあるが明らかにこのメイドインジャパンの野菜のほうが美味しいのでこの世界で栽培する意味などない。
あと農業の他にやっていたことだが、俺は槍と弓を使って狩猟を行っていた経験がある。農業の合間に動物を狩ったりしたし、何度か村の人と協力して魔獣退治をやったこともある。もちろんこの世界の武器のほうがはるかに優秀なので役に立つことは無い。飛行機とか戦車とか卑怯だろ、勝てるかあんなもん。
識字能力に関してだが、言語が違う、文字が違う、発音が違う、無理。この日本の言葉は多様で複雑すぎる、将来使いこなせるかこっちが不安になるくらいだ。
ちなみに俺の算数能力は四則計算が精一杯なのでこれを自慢しても保育園で神童扱いされるだろうが、ただそれだけ。だって向こうの生活そんなに算数必要なかったんだよ、村長クラスなら必要なんだろうけど俺ただの労働者だったんだし。
あ、そうそう、魔法があったっけ、うん、実はこの世界では魔法が使えないんだ。理由はいろいろあるのだが、まず魔法を使うためには神様的存在と契約する必要があった。その契約は神父さんが大部分を行い、俺は最後に一言名前を言うだけだった、つまり俺は契約する方法の大部分を知らない。そもそも前世と同じような神様的存在がこの地球に存在するかどうかすら謎。そして俺程度が使える魔法なんてこの世界では役に立たない、専門家でも何でもなかったんだししょうがないよね。
そして最後に30近くまで生きたことによるコミュ能力であるが、結果を言うと比較的大人びた子供というところで落ち着いた。ちなみに役には立たなかった、むしろ邪魔だったと言ってもいいかもしれない。周囲の子供と話し方と考えが合わないので”コイツ大丈夫か”という不審な目で見られたりすることもあった。結局子供のフリをすることになるのだが、元30歳の俺が子供のフリを常時行うのは正直疲れる作業であり、前世の記憶なんかないほうが楽なんじゃないか?と思ったくらいだった。
ま、こんなわけで俺の前世の記憶は役に立つ見込みは現状ない。が、冷静に考えてもう一度人生をやり直せる、しかも今は前世の世界と比べて非常に裕福で発展した世界で遊び放題というボーナスゲーム状態だ、乗るしかない、この娯楽のビッグウェーブに!
というわけで、遊べるうちは思う存分遊ぶことにした。幸いなことに我が家はエリート思考というわけではなかったため自由に遊ぶ時間は多かった。一部の子供は試験を受けて高い貴族用の学校的な場所に行くようだが、俺は違うので保育園で遊び放題である。前世では6歳から家の手伝い(畑仕事)をさせられていたが、この世界は最低でも15歳まで働く必要が無いそうだ、なんて素晴らしいんだこの世界は!
6歳になり小学校という学習施設に通うことになった。
俺は今、非常に緊張している、周囲に見える同級生も同様だけど。なぜかって?俺はこんなに大人数の同年代の子供が交流する施設に入るのは初めてだったからだ。また以前の俺はこのような学校という大掛かりな施設に通ったことがない、限りなく青空教室に近い屋内で簡単な読み書きと算数を教わった程度だ、田舎だった弊害だね。
とりあえず成績不良による追放をされないように頑張ろうと思う、前世の俺は追放ギリギリだったし。
ちなみに数ヶ月後、この小学校という場所はそんな厳しい場所ではなく、追放なんてシステムがないことを知る、これから遊び放題だぜイェーイ!
が、さすがに宿題総無視は不味かったようだ。今後は宿題はこなしつつ遊ぶことにする。