13話目
とりあえず悲鳴の方向に近づくことにしたところ、思ったより近くにいた。女性プレイヤーは少し開けた場所で犬型のモンスター3匹と戦闘中のようだ、数多いなぁ。
もう少し状況確認したいなと思い潜伏スキルを使用、実践では初めての使用である、十分に距離は離れているので使わなくても気づかれないとは思うが。女性は杖持ってるし魔法系かな?MPが切れたのか敵が多くて混乱しているのか有効な攻撃も防御もできていない。
モンスターの名前は距離があり分からないが、黒い毛並みに普通の犬の大きさ、多分あれはブラックウルフではないだろうか?WIKIで見たが首都近郊の森で出てくる中では強敵の部類に入るらしいモンスターだ。
あの女性プレイヤーを放置すれば恐らく残り数分の命だろう、ちなみに死亡すると首都等にある復活ポイントに戻ることになる。
さて、俺が取る行動は?
ブルーノ=フェルセン
コマンド:どうする?
たたかう
わざ
ぼうぎょ
にげる
ニア みまもる
残念ながら俺は英雄でもゲームの主人公でもなんでもない。この状況に援護に向かっても助けることはおろか俺まで巻き添えで死ぬ可能性がある。なにせ戦闘経験のないモンスターが3匹、これは死亡フラグ。彼女が俺の知り合いとかPTメンバーならばもう少し迷うのだが所詮は赤の他人、俺の命(LP)とは比べるまでもない。
なんかこうやって書くと俺がひどい人間みたいだな、あの女性プレイヤーをみまもるというより見捨てることは否定しないけど。でもこれは俺の前世での経験に基づいた行動である、そうあれは、肌寒い夏が過ぎた後の秋の日のことだったなぁ。
《ブルーノ=フェルセン=ダイクン 25歳の秋》
不作だ。雨季が長かった上に秋の始まりが早かったせいだろう。幸い早い時期から予測していたため無駄遣いを避けていたから例年より貯蓄は多いし、この間村の有志18名で村の近くに突如出現したレアモンスターを2匹倒して肉やら素材やらが高値で売れたため財布は潤っている。不作の地域が小さかったこともあり国家単位での食料の高騰も起きていないのでいざとなれば買出しで対応できるだろう。
これで今年も豊作なら最高の年だったのになぁ~と思うが、人生そう甘くはない。さぁて、生き残った作物の収穫を続けるかと農作業をしていたところ、狩りにでかけていたエンシオが小走りで村長の家に入っていった。何かあったのだろうか?
この夜、各家の代表者が広場に集められた。俺ももちろん参加、独身だから家の長だしね。時間になり村長が開始の挨拶をし、話し合いが始まった。
今日集められた理由、それはエンシオからの情報に関する話だった。なんでもエンシオが山の奥にキノコを取りに行った際、羊型モンスターのワイトシープらしきモンスターを見たという話で、問題はそのホワイトシープが今まで出現した羊型モンスターと比べて明らかに巨大ということだ。
「色が白いならホワイトシープなんだろう?レッドやグリーンじゃないのは間違いないよな」
エンシオの狩り仲間であるヘイモが尋ねる。
「色は白かったのは間違いないっすよ、だからレッドやグリーンじゃないのは違いないと思うんですが、ホワイトシープかって言われるとどうなんすかねぇ」
「ホワイトシープの進化系か?どんくらいデカいのさ?」
村一番の熟練ハンターであるオーギュストが聞く。前回のレアモンスター討伐の指揮も彼が取っておりモンスター狩りについては誰もが彼を信頼している。
「一昨年出たやつの倍はあったと思いますぜ、見た瞬間ヤバイと思って逃げやしたけど何か雰囲気も違うっていうか……あ、俺ホワイトシープの進化系は見たことないんで進化系かどうかは分からないっす」
うーんとオーギュストが考え込む。いくら個体差があるとはいえ倍違うって相当だぞ。
「発見場所は村からどれくらいの距離なんだ?」
聞いたのは村長の息子カレヴィだ、ちなみに次期村長予定。距離を聞いたのは多分村から近いならば総動員で倒すことを視野にいれた準備をするためだろう。村を襲撃されたら尋常じゃない被害が出るので早めの対策は非常に大事、世襲で交代するとはいえこの息子、現村長より能力が高いのよね。
「トヅケイ湖から1時間ほどの場所ですから、10キロ以上は離れてるんじゃないですか?あとあの辺りからこの村までロクなもん生えてないですからこのまま遠ざかる思うんですよ、いや分かりやせんよ、俺の勝手な想像なんで」
あの街道湿地帯多いからなぁ、羊は来ないかも。これから10分ほど話をしたが有用な情報もないので進展がない。皆けっこうざわざわしてきたので村長が一旦鎮める。
「さて、今日決めるべきは騎士団の派遣を要請するかどうかだ。それと要請しないのであれば討伐するか否かだ」
まぁ今日決めたいのはコレだよね、また周りがザワザワしてきた。
騎士団は首都の防衛を担当する国の軍の一員だ。彼らは首都の防衛以外にもモンスター退治を行っており、モンスターが出てきた際に近辺の村が要請すれば出動しモンスターを排除してくれる。モンスター退治に特化した騎士団はものすごい強いのだが、難点として呼ぶとお金がかかる、国属なので食費と移動費、滞在費だけが村負担になるのだが、首都から出て帰るまでの費用を負担するため田舎にあるうちの村ではその移動時間が長い=その分お金が高くなる。更にモンスターが早期に見つからなければ探す日数分もお金がかかる。人口の多くないこの村では一人あたりの負担額がけっこうキツいお値段になってしまうのでできれば使いたくない。
騎士団を呼ばない場合はモンスターを放置か討伐かという話になる。
放置のメリットは運がよければ何も起こらずに済むかもしれないという点だ。どこかへ行ってくれることを願うのみ、近くにくればまた考えなければならない。
討伐のメリットはモンスターの肉や素材がいいお金になることだ。この村近辺では通年モンスターは年に1匹出てくるかどうかなのだが、どんなモンスターの素材も非常に多方面で使い勝手がよく高値で取引されているし、肉は珍味としてこれも高く売れる。討伐に行けばモンスターも当然攻撃してくるので最悪命を落とす危険性はあるが、この間のモンスター2匹を倒したときは18人で割っても首都の労働者の月給以上のお金が手に入った。ハイリスクハイリターンだ。
「静かに。まず騎士団を要請するかどうかを決める、多数決でよいかな」
少し音量が下がり、拍手が沸く。この場合の拍手は肯定だという意味である。
「では騎士団を要請するか否か、要請したいという者は挙手を」
十数人の手が上がるがとても過半数には届かない数だ。俺も手は上げていない。
「では騎士団の要請はしない。次に討伐するかどうかだが、討伐に参加する者は明日の正午までにワシに告げること、その人員を見て討伐にいけるかオーギュストに判断してもらう。オーギュスト、よろしいかな?」
オーギュストは頷きながら
「ああかまわんよ、正午過ぎに村長のトコ行けばええか?」
村長はうむと頷いて
「では今日は以上とする。また明日同じ時間に集合するように、解散」
解散の合図とともに三々五々に立ち上がり、帰る者もいれば別の話をしている者もいる。村長のところに行って討伐参加すると一言伝えて帰る者も多い、俺も村長に参加する旨を告げて帰宅した。俺が参加する理由はもちろん金のためである、前回の稼ぎは非常においしかったので今回も一稼ぎしたいところ、羊系は肉もいいが毛皮が非常に高価で売れるのだ。
次の日の夜、同じ広場に集まり村長から
「討伐にいけると判断した。今回の希望者は27名、オーギュスト、エンシオ、ヘイモ、……ブルーノ、……以上27名である。これから参加者には打ち合わせをしてもらう。討伐予定日は明日を予定している、参加しない者については帰ってもよろしい。今日はこれで一旦解散とする、参加者はここに残り打ち合わせを行う。解散。」
村長の号令により参加しない者は今日は早々に広場から去っていく。参加もしないのにここで雑談していると村長から怒られるので話したい人は離れた場所で話すのが暗黙のルールとなっている。
オーギュストの近くに俺達討伐参加者が集まったところで話し始める。
「出発は明日の午前10時にするべ、集合場所はここだ。武器防具はいつもどおり個人負担でいくからそのつもりで頼むさ。モンスターまでの道案内さエンシオ頼めるか」
「うっす、大丈夫っす」
「んじゃあと決めておくことは………………という手順で行くべ、ええな」
皆から質問も出尽くしたところ解散。俺は弓の腕を買われて遠距離メインでの立ち回りをすることになった。家に帰ったら弓矢をもう一度点検しておこう。
俺達討伐隊27名は午前10時に出発しトズケイ湖に向かっている。前回より人数が増えているのはこの間の臨時収入を見て行けばよかったと思った者が多数いたからだろう。道中は何事もなくトズケイ湖に到着、食事休憩となりヘイモらとしゃべりながら楽しく過ごした。
休憩も終わり出発、エンシオが先頭でその少し後ろにオーギュスト、俺は真ん中より後ろを歩いている。30分ほど歩いところで横からガサァァという音が。一斉に皆が横を向いたところ、今回の目標であるホワイトシープが現れた……めちゃくちゃでかいんだけど。
俺達が面食らっていると、ホワイトシープは予想外の行動に出た、二本足で立った。えっ、と皆が一瞬固まるがオーギュストの「武器を構えろ!」という声で我に返り俺は弓を構えた。
が、矢を放つ前にホワイトシープはホワイトシープではなくなった。
メゲェェェェェェエエエエエエエ!!
ホワイトシープの雄たけびと共に毛が漆黒に染まる。雄たけびは大地を裂くかのような高音で、ただの人間である俺達は一気に戦意を失い頭が真っ白になった。更に黒い羊は自らの体毛の中から鎌状の武器を取り出しなぎ払い、最も近くにいた二人の胴体が消えた。
ア レ は 戦 っ て は い け な い モ ノ だ
オーギュスト、だと思う声が響く、逃げろ、と。俺達は蜘蛛の子を散らすようにバラバラの方向に逃げる。これは打ち合わせのときに決めていたことであり、恐怖心溢れる中皆は一斉に走り出す。
走る、後ろを振り返る暇などない、振り返りたくもない。後ろで音が、人の声が、一瞬大きく響き同じ音色を奏でることない最後の悲鳴。
たすけてくれえぇぇっ
無理だ、その言葉に従ってはいけない、助けたい、もちろんその思いはある、が、無理だ、絶対に見捨てるという思いで走らなければ次にその言葉を発するのは俺自身になってしまう。俺は人として当然持ち合わせた正義心を無視して走ったが、走りを緩めてしまった者がいる、助けようとしてしまった者がいる。この場に居合わせた者ならば誰も彼らを責めることはしまい、勇敢だった、と褒め称えることもしよう。しかし、その言葉を直接聞けた者はいなかった。




