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OverourSky  作者: 富谷 遊音
2/2

「喪失」

OverourSky 第2話「喪失」


1

嘘だと信じたかった。


あり得ないと思ったし、認めることだってできなかった


「あっ、佐久間!!」


誰かがおれの名前を呼んだが、そんなことどうでもいい。


気がつけば、おれは教室の自分の席から駆け出していた。


薄暗い階段を抜け、噂の場所へ全力疾走する。




優輔が殺されたなんてニュースの真偽を確かめるために。


2 AM8:29

そのニュースが伝えられたのは、集合時間の8時20分を少し過ぎた時だった。

凛と敏之が教室にチャイムぎりぎりに滑り込み、席に着いた時だって先生達は慌ただしい様子で、特に担任の樽崎先生は、どこか落ち着きがなかった。

そして先生から卒業式の中止と、優輔と沙依が通り魔に刺されたというニュースが飛び込んできたのだ。

「ハァ、ハァ・・・ッ!」

凛もまた、薄暗い廊下を疾走する。

通り魔のニュースを聞くや否や、敏之は駆け出してどこかに走って行った。

凛も、敏之と同じだった。

凛の友達は決して少なくない。けれど、一番一緒にいたのはまず間違いなく沙依だ。


だからそんな親友が死んだなんてニュース、信じれる訳もない。だから、敏之につられるような形ではあったが凛も現場に向かっているのだ。


(嘘でしょ・・・?沙依、ねぇ、沙依!)

届くはずもない問いをしながらも凛は走る。


ただ、その走りはただ親友の安否を心配するだけのものでは無かった。

3


AM8:35

『Keep out』

その文字が敏之の行く手を遮った。

(マジ・・・かよ・・・?)

ニュースやドラマでしか見たことのないテープが、見慣れた道を塞いでいた。

「すみません、天崎テレビのものですが・・・。」

その場で立ち尽くしていると、見たことも無い大人に声をかけられた。

「え、あ、あの・・・」

突然のことで、思わず口をつぐんでしまう。

「君は天崎東中学校の生徒さん?」

「え、ああはい・・・。」

「今回の事件について、何か知らないかな?」

「・・・!」

事件。


つまり、本当に優輔の身に何かあったらしい。


こっちが何か知りたかった。

「い、いや俺は何も・・・。」

「そうですか・・・。」

どうもありがとう、そうレポーターが言うと踵を返しまたインタビューを再開した。

本当なら、今回の被害者の優輔の親友だということぐらいは言えたはずだし、もっと言えることはあったはずだった。


けれど、それは言いたくなかった。

メディアに持ち上げられたところで、同情されるのが関の山だし、そんな事をしてもむかつくだけなのは予想できていた。

それ以前に、優輔が事件に遭ったということを認めたくないだけなのかもしれない。


「佐久間!!」

そこに、遅れてきた凛が合流してきた。

「堀川?お前までなんで・・・。」

「あんたが飛び出したからでしょ!・・・沙依達は??」

息を切らしつつ、凛が質問する。

「わからない・・・。何かに巻き込まれたのは確実だがな。」

歯を食いしばり、敏之が答える。

「そんな・・・。」

凛は愕然とした表情を一瞬だけ浮かべる。

無理もない、と敏之は思った。


凛もまた、敏之と同じように親友だった沙依が通り魔に襲撃されたのだ。


辛いに決まっている。


そう思った瞬間、凛に手を引かれた。

「戻るよ。ここにいてもしょうがない。」

「で、でも俺は・・・」

渋る敏之だが、容赦なく凛は手を引いていく。

「ここにいてもできることなんて何もない。

・・・わかるでしょ?」

無念そうに、凛は言った。

その顔を見た後では、敏之も残ろうとは思わなかった。

3

AM8:43

「ぜっ・・・全員帰宅!必ず集団で帰ること!!」

一方その頃教室では、担任の樽本先生から、クラス全体に通達された。

ざわざわ・・・とざわめきが教室全体に広がる。

「先生!」

生徒が下校し始める中、雪子一人だけは残っていた。

「桜井君と藤長さんのことはわかりました・・・。

ですが、飛び出していったあの二人はどうするつもりなんですか!?

今一番危険性が高いのは、あの二人じゃないですか!」

犯人はまだ近くにいる可能性は極めて高い。

そんな時に現場にいたら、危険極まりないのは明らかだ。

「ぬぐぐ・・・!」

樽本先生は頭を抱える。

そんな時ガタリ、と後ろで音がした。

「あっ、駒田君!」

見ると仁がバックを背負い、一人で帰ろうとしている。

「ダメじゃないですか!誰かと一緒に帰らないと!!」

「だーれと帰れってんだよ。」

雪子に声を掛けられた仁は不服そうに答える。

「いっつもつるんでる奴らが先に飛び出しちまったんだ。

地区も同じような奴はこのクラスにはいねーし、集団の中に入るだけでも安全だろうが。」

「なら私が同行します!何より、二人の安全も気になりますから!」

雪子は早足で仁に駆け寄ると、その手を掴んだ。

「ちょっ・・・誰がお前と・・・っ!」

「さあさあ、行きますよ!!」

渋る仁を、強引に雪子は連れ歩いた。

4

AM9:03

ガチャリ、と敏之は家の鍵を開ける。

現場に残っても何もできない以上、帰る以外の選択肢は無かったのだ。

「ただいま。」

そういってドアを開け、リビングに入ってみるがそこには誰もいなかった。

そういや今日は二人とも働く日だっけ、と一人つぶやく。

特にやることもなく、ソファに寝そべりつつテレビのスイッチを押す。


『ここで速報です。天崎市で通り魔殺人が発生しました。』


どうせくだらないニュースでもやっているのだろう、そう思っていた敏之にとってはこの手配の早さは衝撃的であった。


画面がヘリコプターから写されたつい先ほどまで自分たちのいた場所の上空映像に移り変わる。

『事件が判明したのはつい先ほどの8時30分で、登校途中だった天崎東中学校に通う中学3年生の桜井優輔君が心臓を刃物で刺され、同じく天崎東中学校に通う藤長沙依さんも心臓を刃物で刺され、二人とも病院に搬送されましたがまもなく死亡が確認されました。

通行人が血まみれの二人を発見し通報したとの情報です。』

死亡が確認された。

その事実が、敏之の胸に突き刺さる。

テレビの画面は頭がハゲ散らかした校長が知ったような顔で優輔を語っている。

画面が眼鏡をかけたリポーターに変わった瞬間、敏之はテレビの電源を切った。

「くっだらねぇ・・・。」

そう吐き捨てると、敏之はソファに寝転がる。


てめぇらがあいつの何を知ってやがる。


こんなことなら現場に行った時、無理にでも探せばよかったと一人敏之は苛立つ。


『ここにいてもできることなんて何もない。

・・・わかるでしょ?』

そんな彼に、凛の言葉と無念そうな表情が蘇る。


くそ、と敏之は納得のいかない声を一人あげる。

「じゃあ、お前はどうなんだよ・・・。」

返事の無い問を、一人漏らした。

5

AM9:13

「二人とも、どこ行ったんでしょうか・・・。」

「だから二人とも帰ったんだろ?あんだけ人がいれば普通は撤収するだろうが。」

「ですが、犯人に誘拐された可能性も・・・。」

「だから無いっての。そんなに不安なら電話でもすればいいじゃねえか。」

「ケータイは違反物です!」

「・・・防犯目的ならいいって言われてるだろ。」

「あれは拡大解釈です!結局皆遊びに使ってるじゃないですか!」

雪子の真面目さに半ばあきれつつ、仁は雪子同伴の元下校していた。

現場に向かっていったものの、そこは野次馬と警察とマスコミに溢れ二人の捜索どころではなくなったのだ。

「・・・つーかそれ以前に、そこまで不安なら俺についてこずに二人を探せばいいだろうが?」

「それはありえません!」

仁の提案を、雪子は全力で否定する。

「駒田君が一人で帰ったら、犯人が襲撃してくる可能性が高まります!そんな危険な目に逢わせる訳には・・・!」

ああそうかい、と仁はそっけなく答える。

「それにしても犯人は誰なのでしょうか・・・?あの二人は恨まれるような人では無かったはずですし・・・。ああそうでした、後は先生方への安全連絡と・・・。」

「花澤」

仁はしゃべり続ける雪子を遮った。

「少しは落ち着けよ。敏や堀川が心配で、俺が心配で、さらに犯人が誰か知りたい?

そいつは欲張りすぎだろ。」

「わっ・・・私は落ち着いてますよ!?」

「・・・どこがだ。そりゃ動揺すんのもわかるけどな・・・。」

「じゃっ・・じゃああなたはどうなんですか!?クラスメイトが死んで、親友が死んで!

なんともないんですか!!?」

「・・・。」

苦し紛れに放ってしまった雪子の言葉に、思わず仁は黙ってしまう。


そして訪れる静寂。


「あっ・・・あの、すみません・・・。」

静寂に耐え切れず、雪子が仁に謝った。

「謝るなよ。・・・俺自身、なんでこんな落ち着いていられるのかわかって無ぇから。」

「え、あ、はい・・・。」

「じゃあな。もう家の前だ、襲撃なんて無いだろ?」

仁は雪子に手を振ると、そのまま振り向かず歩き出した。


雪子は自分がその後ろ姿に違和感を感じていたこと気が付けなかった。

6

PM2:27

家に帰った凛は、何かする気も起きず自分の部屋のベッドに昼食も取らず寝転がっていた。

(マジ訳わかんない・・・。)

凛の頬に、涙は流れていない。


彼女の頭には、後悔にも似た疑念がグルグルと駆け回っていた。


『ここにいてもできることなんて何もない。

・・・わかるでしょ?』


自分でもどうしてあんなことを言ってしまったのか、彼女自身理解が追いついてこない。

敏之は、必死になって自分の親友、優輔の死を確かめようとした。

まだ犯人が潜伏している可能性もあるのに、だ。


自分だって、自分の親友の死を必死に追いかけた。

親友との、沙依との絆は、敏之と優輔の絆よりもずっと強い自信はある。

それだけなら、誰にも負けないつもりだ。


だが、結局自分は諦めてしまった。


(なんなんのよ・・・。)

考えてみれば、敏之を追いかけた時からなにかしらの違和感はあった。

そしてその違和感は、今でも残っている。


「うーーん・・・。」

凛は釈然としないままベッドから体を起こした時、

カラン、と枕元に置いておいたケータイがベッドから落ちた。

凛は無意識にそれを拾おうとした、その時だった。


(・・・!!)

ケータイの裏に張ってある自分や沙依、雪子、仁、敏之、優輔とみんなで取ったプリクラを見て、ようやく違和感の正体に気が付いた。


(ああ・・・そうだったんだ・・・。)

そのプリクラを見て、すべてわかった。

昨日、沙依と気まずくなった理由。

あの時、敏之と共に飛び出した理由。


そして今、涙が溢れて止まらない理由も。


(そうだった・・・ウチは・・・!)


7

3月22日 AM9:00

ピンポーン、と敏之の家のインターフォンが鳴り響いた。

「・・・はい。」

昨日一日寝る気も起きず徹夜していた敏之が起き上がり、インターフォンに出る。

両親は既に仕事に出ており、敏之が出ざるを得なかったのだ。

「あ、私は『週刊夕陽』の久来と申しますが・・・少々お話をお伺いしてもよろしいですか?」

「・・・はい。」

面倒だな、と思いながらも敏之は玄関先まで出る。


「うわっ・・・!」

そこには、おびただしい数のマスコミ陣が待ち構えていた。

「おはようございます。本日は時間を取っていただき、ありがとうございます。」

「う、ああはい・・・。」

あまりのマスコミの多さに圧倒されながら、敏之は挨拶に応じる。

「じゃあ早速・・・。」

目の前の久来という記者が、なれない手つきで手帳を取り出してきた。

「君は今回の事件をどう思う?」

「どうって・・・。」

敏之はこの記者のストレートすぎる質問にイラつく。

「親友が殺されて、ショックを受けてるのが第一。

後は、とっとと犯人には捕まってほしい・・・こんなところです。」

「そうですか・・・ありがとうございます。」

敏之は極度のイラつきを抑えながら何とか答える。

「では最後に・・・君にとって、桜井優輔君はどんな人だった?」

「唯一無二の親友です。」

わかりきっていることだろうが、と聞こえないように呟きながら敏之は答えた。

「ありがとうございました。それでは・・・。」

記者はそういって、いそいそと撤収していった。

「こんにちは。テレビ天城のものですが・・・。」

そしてさらに入れ替わるように今度はテレビ局の人々がやってきた。

「では第一の質問です。今回の事件、どう思いますか?」

「・・・いい加減にしろぉ!」

更なる単調な質問の前に、ついに敏之の堪忍袋の緒が切れた。

「そうやってお涙頂戴企画を作ってどうすんだ!?

どう思ってるかなんて知れてるだろ!?

わかりきったこと放映して、視聴率とれりゃそれでいいのか!!?」

「え、いや、あの・・・。」

敏之の激昂にあっけに取られるテレビ局やその後ろのマスコミを無視し、敏之は玄関の戸を閉じる。

ピンポーンとさらにインターフォンがなるが、敏之はそれも無視していく。


何があろうと、知ったことか。


敏之は裏口からそっと抜け出すと、そのまま自転車にまたがり行くあてもなく走り出した。


8

AM10:00

(もう・・・!マジ何なの・・・!?)

家の中で、凛は絶対に外から見られないように家の中の物陰に隠れていた。

外では、10時とは思えない明るさである。


すべては、大挙として押し寄せたマスコミのせいだ。


『殺された藤長沙依さんとはどういったご関係で?』

『今回の事件はどう思ってますか?』

・・・知ってるくせに、とさっきまでのマスコミのインタビューを思いだした凛は一人言葉を吐き捨てる。


ご関係?

親友。

それがわかってるからこそ、ウチのところに来たんでしょう?


どう思ってるか?

言葉で表すのが不可能な程、辛い。

それがわかってるからこそ、ウチのところに来たんでしょう?


彼らが来た理由は簡単。


凛を悲劇のヒロインに仕立て上げ、事件の悲壮感を引き立てさせる。それだけだ。


確かに何人かは同情はしてくれるだろう。

けれど、同情なんて欲していない。


なのに、どうしてあんなことが平然とできるのだろう。


そうマスコミを恨んでる内に。

ピンポーン、とインターフォンが再び鳴った。

(・・・・!!!)

今まで隠れていた凛だったが、このインターフォンに彼女の理性は吹き飛んだ。

物陰から躍り出ると、一気に玄関まで歩みより、ドアを勢いよく開ける。

「ちょっといい加減にーっ!?」

マスコミを怒鳴り散らそうとしたその時。二人の人物が彼女の視界に入った。

一人はよく見知った黒縁メガネの親友、雪子。

もう一人は、紺色の警察の制服を身にまとった青年だった。

「・・・すいません。少し堀川さんに聞きたかったことがあったのですが・・。」

雪子が申し訳なさそうにお辞儀をする。

あ、と隣にいる青年も礼をする。

「私は天崎警察署に所属する刑事の八神 翔といいます。雪子とはちょっとした縁があって、こうして捜査しているわけです。」

「は、はぁ・・・。」

思わぬ来訪者に、思わず凛も頭を下げる。

その瞬間、虫の羽音のような気味の悪い音が3人を包む。

どうやら隠れているマスコミが次々とシャッターを切っているらしい。

(堀川さん、ちょっと・・・。)

雪子の手招きに応じ、凛は二人の近くへ歩み寄った。

(・・・このマスコミは私たちが何とかします。

堀川さんは何とか別の場所に!)

(・・・ありがとう!!)

雪子の優しき誘いに凛は礼を言う。

(八神さん!!)

雪子の合図に、八神も首を縦に振り反応する。


三人は、凛に事情徴収をするフリをしてその場を後にした。


9

PM3:37

「・・・やっと終わりましたね・・・。」

「ああ、そうだな・・・。」

凛を一時的に退避させた雪子と八神の二人は再び凛の家に戻り、残っていたマスコミ達のインタビューを凛の代わりに受けた。

インタビューができたことに満足したのか、凛の家の周囲から着々と減っていき、ようやく周囲に静けさが戻った。

雪子も八神も喋りっぱなしだったからか、くたくたになってしまっている。

「それじゃあ、俺は現場に行ってくる。

・・・今日はありがとな。」

「何を言っているのですか?私も現場に・・・」

「雪子」

八神と一緒に行こうとする雪子だが、八神は自転車にまたがった状態で首を横に振りそれを拒否する。

「どうしてですか!?私だって役に立てます!!」

「・・・今でも犯人は潜伏中だ。その犯人を、それも被害者の友達である君が捜していると犯人が知ったらどうするかわかるだろ?」

「・・・だったら、私自身を餌に犯人を誘導すれば・・・」

「そんなのダメだ。・・・危険すぎる。」

「どうしてわかってくれないんですか!?

藤長さん・・・いえ、沙依は私の初めての親友なんですよ!!??」

感情を剥き出しに、大粒の涙を零して懇願する雪子の姿に、八神は少したじろぐ。

「もう、私はあの日みたいに部屋でうずくまって泣いているほど弱くありません!

もう、ただ誰かの死を眺めるだけなんて、嫌なんです!!

だから・・・!」

「・・・だったら尚更来るべきじゃない!」

「え・・・。」

普段物静かな八神も雪子に呼応するように怒鳴った。

「君の身に何かあったら、その苦しみを君を想う人全員が背負うことになる!

君が今来るってことは、そうなってもいいって事と同じなんだぞ!!?」

「それは・・・。」

「わかってくれ・・・!美香の悲劇は、これ以上繰り返すわけにはいかないんだ・・・!!」

苦虫を噛み潰したような顔を浮かべ、八神はその場を後にした。

PM4:41

「アレ?佐久間じゃん。」

「!!?

ほっ堀川!?」

一方、二人の協力でマスコミから逃れた凛は天崎海浜公園へ自然と足を向けていた。

心のどこかで、ここにくれば沙依と会えるんじゃないかと願っていたのかもしれない。

しかし、そこにいた海に沿うように設置された手すりに寄りかかり遠くを眺めていたのはクラスメイトの敏之だった。

「何でこんなところにいるんだよ?

オレ達は安全が確保されるまで自宅謹慎だろ??」

「それはアンタも同じでしょ?」

「・・・そうだよなぁ。」

凛が少し笑って答えると、敏之も少し照れ隠しに笑った。

「なんか、馬鹿みたいだよね・・・。」

凛が敏之の隣で、ゆっくりと手すりに寄りかかる。

「もう会えるわけ無いのに、こうやってまた探してる。

普段のウチなら、もっと泣いてるのに。

・・・実感湧かないよ。もう沙依と会えないなんて。」

「堀川・・・。

オレもそうだよ。

明るいのだけがオレの取り柄なのに、全っ然笑えねえし・・・。

優輔のテニスの応援、また行きてえなぁ・・・。」

二人は、茜色の空を映し出す海を眺める。


「私、ね・・・。桜井のことが好きだったんだ・・・。」

少しの静寂の後、凛が突如口を開いた。

え?と敏之がキョトンとしている間にも、凛はようやく気づいた自分の思いをかみ締める。


ずっと、凛は自分自身に嘘をついていた。

沙依のことを誰よりも認めていたからこそ、心のどこかで優輔の事は一歩退いていた。

自分は沙依には敵わない。

そんな意識が、知らず知らずの内にあったのかもしれない。

「・・・馬鹿、だよね・・・。

沙依が死んで、やっと気が付くなんて・・・。」

「そうでも無いんじゃね?」

また涙を零しそうになる凛に、敏之は屈託の無い笑顔を浮かべた。

「誰も好きだって気持ちに文句は言えない。

その心にバカも何もねーだろ。」

「佐久間・・・。」

「・・・と、優輔だったら言ってるんじゃねえか?」

「ウチのさっきまでの感動を返してよ・・・。」

なはは、と敏之は再び笑顔を浮かべた。


「じゃあ、ウチはもう帰るね。」

「ああ。いつまでも泣いているのは、オレたちらしくねえぞ?」

「うん!ありがとう!!」

凛は、茜色の空の光を反射した海の光に照らされながら、海浜公園を後にした。


彼女を照らし出した海は、四人の心も知らずに、六人が生きていたときと変わらず輝き続ける。


10

PM6:23

(うまく笑えてたかな、オレ・・・。)

敏之は、凛と分かれた後もしばらくは動くことができなかった。


なぜだろう。


凛と出会った瞬間から、鼓動が早くなるのを感じていた。


『私、ね・・・。桜井のことが好きだったんだ・・・。』

こう凛に告げられた時の、全身に重く、重くのしかかったその気持ちも、敏之にとって初めての体験だった。

「なんだよな・・・。」

結局、自分も同じなのだ。

そう自覚すると、なんだかバカらしくなってくる。


凛が優輔のことが好きだったと気が付いたのと同じ様に。

自分も、凛のことがー。


そんな事を考えていた、そのとき。


ブー、ブーと携帯が震えるのを感じた。


(いったい誰だ・・・?)

普段と全く同じ動作だった。


その、発信元を知るまでは。


「優・・輔・・・?」


『CALLING from桜井優輔』



OverOurSky第2話 『喪失』END.




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