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暴露

19.

暦734年8月_。

御所に於いて、麟興の面前で敬子の詮議が行われる事となった。

玉座を前に、参議の者達が次々と集まって来る。

その中、氏時は揚々と現れた。

封海達が、どの樣な画策をしているかは分からず仕舞いだが、別段の邪魔立ても無く、この日を迎えた。

何も無いのも不気味だが、狙いは鳴無であろう。

氏時にとっては、事さえ成れば、鳴無が助かるも助からぬも、どうでもいい事だった。

玉座の前に敬子が、畏まって座っている。

広間の一番端の下座に鳴無が座っており、隣りに封海が座している。

今度の詮議の証言の為に呼んでいるが、あわよくば封海も諸とも始末する事も考えている。

あの蔵人もそうだが、この封海も氏時にとっては疎ましい存在だった。

その時、広間に実時が姿を現した。

広間の中に進んだ実時は、詮議の対象の1人として、敬子の隣りに座るはずなのだが、実時は敬子の脇を通り過ぎ、いつもの太政大臣としての席、つまり玉座から見て右手の氏時よりも上座に腰を下ろした。

この行為に氏時は眉を潜めたが、続いて麟興が登場し、皆が平伏して迎えた。

広間に入った麟興は、氏時と同じく実時の座っているのを訝しんだが、何も言わず玉座に着いた。

「では、これより先の成寿門院様呪詛に関する詮議を行いまする。」

氏時が声高に宣言する。

すると、

「待て。」

と、実時が遮った。

「父上、申し開きは後で聞きまする。」

「申し開きでは無い。連れて参れ。」

実時が命じると、下座の用人が席を立ち、暫くして橘貞任を連れて戻って来た。

その姿を見て、氏時は一瞬、目を見張った。

「先日、これなる橘貞任が吾が屋敷を尋ねて来て、全てを吐いたぞ。今度の呪詛が一件、氏時、そなたの奸計であり、事実無根だとな。」

「何をおっしゃいます。」

「事に加担した哉椰殿、昂禰王ともに捕らえておる。逃れられはせぬぞ、氏時!」

「馬鹿馬鹿しい、貞任が申した事は、その者と哉椰殿や昂禰王が企みし事なのでしょう。みどもは関係ござらぬ。」

「言い逃れるつもりか?」

「では、お伺い致しまするが、何故みどもが父上を陥れねばならぬのです?吾が孫たる具仁は既に立太子しておりまする。今この時、父上を追いやる理由がごさいませぬ。」

「それは…」

実時は言葉に詰まった。

「つまり、今度の一件は橘貞任及び、哉椰、昂禰王の企みであり、朱賢門院並びに鳴無は無実という事で宜しいかな?」

氏時の言葉に、広間は静まり返り、あっさりと詮議は終結に向かおうとしていた。

その時、

「おいおい、まさかこれで終いでは有るまいな。」

と、声が掛かった。

広間の一同が、思わず見回す。

「爺、何だその様は!折角、俺がお前の元に貞任を送り届けてやったに、倅に好き放題言われて終いにするつもりか?情けない。」

「く…蔵人か!?」

実時の言葉に広間が騒然とする。

「皆、久しいのう。」

そう言って蔵人が姿を現した。

しかも、麟興が座する玉座の裏からである。

「やはり、舞い戻っておったのか!」

氏時の言葉に蔵人はニヤリとした。

「そなた、国を出るのでは無かったのか!?」

実時が言うと、蔵人はそちらを見遣り言った。

「そのつもりだったのだがなあ、お前の倅が余計な真似をするものだからな、捨て置く訳にいかなくなったのよ。」

「く、蔵人!そなた罪人の身で何をしておるのだ!」

麟興が激昂して言う。

「おう、麟興。お前、経清殿に朔夜を側女にしたいと言うたらしいな。どうだ、朔夜を賭けて俺と立ち合うてみるか?」

「な、何と!?」

「冗談だ。それよりも、そなた自身の尻に火が着いておる事に気付いておらぬだろう?」

「どういう意味ぞ?」

「先刻、実時の爺が言うた事はまことの事だ。今度の一件、全て氏時の奸計なのだ。」

「馬鹿を申すな蔵人!そなた、聞いておったのだろう?今この時、父上を追い落とす理由が何処に有ると言うのだ!」

氏時が顔を紅潮させて怒鳴る。

「目的は、お上なのでしょう。」

その声に、一同が振り向くと、広間の入り口に兼時が立っていた。

「兼時、そなた…」

「兄上の目的は、お上に譲位させる事なのでしょう?」

広間が騒然とする。

「朕に譲位させるだと!?どういう事だ、氏時!」

麟興が、氏時を睨みつけて言う。

「何を言うか、兼時!そなた気でも違うたか!?」

氏時に言われても、兼時は動じる事無く、懐から一通の書状を取り出した。

「これなる書状は、出穗国造、千家尊仁殿より送られて来たもの。これによれば、先頃、全国各地の社に国体を危うくさせたる麟興帝を譲位させるべく蜂起せよ。との宣旨が具仁親王の御名にて発布されたとの事、調べてみれば確かに各地の社に宣旨の発布が有ったとの由にございます。兄上、乳飲み児の具仁親王がこれを命じたと言われまするか?」

「知らぬ!みどもは知らぬ!」

「往生際が悪いぞ、氏時!」

息を吹き返した実時が嵩に掛かって言う。

「しかし、残念ながら兄上の思惑通りにはなりませぬ。」

「何!?どういう事だ!」

「尊仁殿が書状を送って来た事からも分かろう。出穗は動かぬ。出穗が動かねば他の社もなかなか動くものでは無い。」

「何故、出穗が動かぬと…」

「俺が動くなと言うてあるからよ。」

「何!?」

「俺が動くなと言うたら、たとえ帝の勅命であっても出穗は動かぬ。」

「何を言うか!そなた如きの命で出穗が動かぬなどあろう筈が無い!」

蔵人は憤る氏時を無視して、実時を見遣った。

「爺、お前は知っておったのでは無いか?篤胤の父が俺の実父では無い事を。」

「それは…」

蔵人に問われ、実時が口ごもる。

「30年程前、金時の爺様が出穗より連れ帰った俺を、父の子として育てるとなり、お前は俺の扱いに相当悩んだのでは無いか?」

「どういう事じゃ?」

訳の分からぬ麟興が問う。

「爺、教えてやれ、俺が洲我本宗家の末裔であると。」

広間が、それまで以上に騒然とする。

「す、洲我の末裔じゃと!?」

麟興は腰を抜かさんばかりに仰天した。

「と、同時に須佐之男、櫛名田比売の末裔であるという事もな。」

実時はうなだれている。

「洲我の血筋を生かせぬ、しかし、俺を殺せば出穗を敵に回す事になる。悩んだであろう?悩んだ挙げ句、お前の出した答えは俺を鬼子として扱い、政に近づかせず無視する事だった。障らぬ神に何とやら、という訳だ。」

広間が打って変わって静まり返る。

「さて氏時、どうする?あくまで知らぬと言うのならば、謀反を起こしたとして具仁に罪を問わねばならぬが?」

「それは…」

「氏時、観念せい!」

実時が言う。

そんな実時を蔵人は見遣り言った。

「爺、呑気に構えておる場合では無いぞ。お前も無事には済まん。」

「何を言う!?」

「晴明!連れて参れ!」

蔵人の言葉に、晴明が1人の男を連れて広間に入って来た。

兼時は、晴明が連れた男を見て驚いた。

「そなた、吉次では無いか!?」

言われた吉次は、兼時を前にバツが悪そうに顔を背けた。

「兼時、この男はな、濃見の百姓などでは無い。爺の手下の者だ。」

「父上の?どういう事だ!」

「この男は、爺の手足となり、あらゆる汚れ仕事をこなして来たのだ。そして先年、吾が坂田の屋敷にて、時の左大臣、橘惟任を亡きものにしたのもこの男だ。」

「何と!?それはまことか!蔵人殿!」

叫んだのは貞任であった。

「そうだ、貞任。一役買ってくれた礼に、この男が事、そなたに任せても良いぞ。」

「一役買ったとは?」

「分からぬでも良い。要は役に立ったと言う事だ。」

「しかし、確かにこの男が父の仇なのでしょうが、命じたのは実時殿なのでしょう?」

「そうだが、爺が事をそなたに任せる訳にはゆかぬ。」

その時、衛兵の1人が慌てて駆け込んで来た。

「申し上げます!」

「何事か!」

「只今、濃見よりの知らせにて、2万を超える軍勢が都に向かい進軍しておるとの事にございます!」

衛兵の言葉に、広間が再び騒然とする。

「軍勢じゃと!?どういう事ぞ!」

麟興が慌てふためく。

「軍勢は、傀彌伺の者共と坂東の武者達で編成されており、率いるのは、篳奥員外介、沮治抉麻呂と河津祁介、南条氏郷らしゅうございます。」

「何と!?」

麟興は驚きの余り動けなかった。

「すぐに近衛の者を集めよ!それと、設楽晁門、長嶋猛麻呂の両名を呼ぶのじゃ!」

実時が叫ぶ。

それに呼応するかの樣に、晁門と猛麻呂が揃って姿を現した。

2人は、鎧を身に付け、太刀を帯び兜を抱えていた。

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