表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/22

胎動

14.

千種は、焦燥感で一杯だった。

あの晩、敬子の命にて音平が、封海の館を尋ねたが、生憎、晴明はおろか、封海も不在で、邂逅は成らなかった。

結局、都に戻って以来、晴明と会っていない。

この樣な気持ちは、生まれて初めての事であり、そのせいか千種は、己の気持ちを持て余していた。

気になるのであれば、会いに行けばいいのだが、この時代の男女の間は、男が女の家を訪れるのが一般的で、女の方から尋ねるなど、はしたないとされていた。

そう思いながらも、千種の足は、自然と封海の屋敷に向かっていた。

しかし、やはり躊躇があり、屋敷の門前で行ったり来たりしている。

「盛貞殿のご息女ではないか。」

と、声を掛けられ、千種は飛び上がる程に驚いた。

見ると、蔵人と封海が立っていた。

「こんな夜更けにどうした?」

「いえ…あの…」

「こんなところも何です、先ずは屋敷に入られよ。」

封海が促す、蔵人はニヤニヤしている。

「でも…私は…」

「良いではないか、これより酒宴を開くのだ、折角ならば男だけで飲むより華がある方が酒も進むと言うものだ。」

蔵人が言う。

「はあ…」

「晴明も居るしな。」

「えっ!?あの…」

「そなたとは、歳も近い故、話しも合うであろう。」

そう言うと蔵人は、千種を、ほとんど抱える樣にして、屋敷に連れ込んだ。

屋敷に入ると、庭に男が2人立っている。

梶原兼時と伊勢勝秋であった。

「出掛けておったのか?」

兼時が問う。

「うん、ちょっと野暮用でな。勝秋も来たのだな。」

と、蔵人が言うと、

「来てはいかぬのか!」

と、勝秋がむっとして言う。

「そう、いちいち突っ掛かるな。」

「まあ、庭先では何ですから、先ずは御上がり下さい。」

封海が執り成す樣に言う。

「こちらの方は?」

座敷に上がると、兼時が千種を指して問う。

「こちらは、先の近衛中将安倍盛貞殿のご息女、千種殿にございます。」

封海が紹介する。

「盛貞殿の?何故、此処に居られるのだ?」

「何やら用があって尋ねて参った樣で、門前でウロウロしておったから共に酒宴をと誘ったのだ。」

「あれは、誘ったとは申しません。無理矢理、連れ込まれたのです!」

「では帰るか?」

「それは…」

千種が困った樣に俯く。

蔵人はニヤニヤしている。

「蔵人、いい加減にせぬか。年頃の娘をからかうものでは無い。」

封海が窘める。

だが、その言葉に千種は顔を上げ、火が着いた樣に、

「封海様!それは、どういう意味にございますか!」

掴み掛かる勢いで封海に迫る。

「あ、いや…それは…」

これには、封海もたじたじである。

「そなたが、晴明に惚れているだろうと言う事だ。」

「まあ!何と言う事を…知りませぬ!」

千種は、火が着いた樣に赤くなった。

「晴明とは?」

兼時が問う。

「吾が弟だ。」

「弟?そなた、弟が居ったのか?」

「ああ、妹も居るぞ。十六夜という。」

「初耳だが?」

「であろう?俺も、つい先日知ったのだ。」

「どうした訳だ?」

「篤胤の父は、実の父では無かったらしい。」

「それはまことか!?」

「まあ、そこはちと複雑でな。弟達とは父が異なるのだ。母は同じだがな。弟達の父は、賀茂英昇殿だ。」

「賀茂英昇といえば、希代の陰陽師ではないか!」

「うん、そして吾が父は洲我蹴速という。」

「何!?洲我だと!」

「うん、父は洲我本宗家の末裔らしい。」

「何と!?」

兼時は驚きを隠せなかった。

「ふん、生まれついての反逆者という訳だな。」

勝秋が鼻を鳴らしながら言う。

「うん、俺もそう思うた。が、晴明に言わせれば、梶原こそが反逆者なのだそうだ。」

「何を申すか!」

「そう怒るな。それ程の事ではあるまい。物事の善悪など、己の立つ立場に依って変わるものだ。」

「ふざけるな!」

「では聞くが、歴史に記されている樣に、洲我が悪として討たれたのならば、梶原は何故、洲我と同じ道を辿るのだ?洲我の悪きを取り除き、正道を歩むが本筋というもの、むしろ洲我以上の事をしておるではないか?」

「その樣な事は無い!」

「違うと申すか?だが、確かに洲我の専横はあったかも知れぬ、しかし己が血筋の子を皇太子にしてまで政を私した事はあるまい。」

勝秋が黙り込む。

「蔵人、その樣な事を申す為に招いた訳ではあるまい。」

封海に嗜められ、蔵人も矛先を収める。

「ただ酒を飲むだけでは無いのか?」

兼時が問う。

「いや、ただ酒を飲むだけだが…お前と酌み交わすは、これが最後となろう。」

蔵人が言う。

「最後?何故だ!」

「俺とお前が、敵同士になるからさ。」

「敵?」

「俺は、梶原を倒し、この国を変えるつもりだ。」

「何!?」

「こやつ、ぬけぬけと!」

勝秋が立ち上がる。

その時、誰かが廊下を走って来る音がした。

皆が、入り口に目をやる。

入って来たのは、晴明だった。

「どうした?慌てて。」

「兄上!一大事にございます!」

「一大事?」

「鳴無殿が、役人に捕らえられた由にございます。」

晴明の言葉に、封海が立ち上がり、

「鳴無殿が!何故だ!?」

「それが、成寿門院淑子じょうじゅもんいんよしこ様を呪詛した疑いとの事、更には、それを指示したのが朱賢門院様だと、牽いては裏で梶原実時が画策したのでは無いかと。」

「馬鹿な!」

晴明の言葉に、封海と兼時が同時に言う。

「成る程な、そう来たか。」

「どういう事だ?」

蔵人の言葉に、兼時が振り返り問う。

「これが梶原の世と言う事だ。己の目的の為には、たとえ親兄弟であろうと切り捨てる。民の苦しみなど省みる事など出来る訳が無い。」

「何が言いたい?」

「この騒ぎの絵図を描いたは氏時だ。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ