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「cry」

作者: 基地外

この小説は、厨房の書いた作品ですので、稚拙な文章になることをお許し下さいorz

「ん、おはよ!!由紀」

 朝の時間帯、駅の改札から飛び出てきた一人の女性に気付き、俺は手を挙げる。

「あ、宏樹くん…」

 俺…宏樹の前に走ってきた女性…由紀は、肩で息をしながら、俺の顔を見上げると、

「あ、あの…すみません、わ、私遅れちゃって…」

突然涙を流し始めた。

 俺は少し困惑し、腕時計を確かめた。今は約束の時間である。

「え…?お、遅れたのか、これは…?」

「だ、だって私、5分前に来るって、ちゃんと約束したのに…」

「…お前なぁ…」

 俺は苦笑し、しゃくりあげる由紀の黒いロングヘアをくしゃくしゃと撫でて、言った。

「んなこと一々気にすんなって!!」

 頭を撫でられてやや倒れそうになった由紀は、

「で、でも私、宏樹くんを待たせちゃって…」

しくしくと泣きながら俺を見上げてくる。

「そんな、5分も待ってねぇよ。だからもう泣くな?」

「………」

 躊躇いがちに頷いたが、それでも由紀は泣き続ける。

「…じゃあ、行くか!!」

 俺は泣き続ける由紀の手を取り、駅の出口へと歩きだした。



 幼なじみの由紀は、泣き虫だ。

 幼稚園の頃から高校生最後の今まで、由紀は本当によく泣いた。

 家柄が良いからか、由紀は昔から芸術的センスに富んだ女性だった。

 だが、それ故に感性も敏感で、今のように、本当に些細なことですぐに泣く。

 泣き虫は必然的にいじめの対象になる。由紀もまた、幼稚園からずっとそうだった。

 その度に、間に俺が入っていた。親しい者が悲しむ姿を見るのは、気分の良いものではない。

 私立だからか、高校に入ってからは随分マシになったものの、中学まではそれはひどかった。警察ざたにまでなったこともある。

 …しかし、その間、由紀はずっと泣き続けたのである。なぜ脱水症状等にならなかったのかと、たまに感心さえしてしまう。

 というわけで、あまり親しい友人もいない由紀とは、今日のようによく遊んだりする。

 今日の場合は、映画のチケットが余ったからと、由紀の方が誘ってきた。もちろん、断られるのを心配して泣きながら。

(…やっぱ、周りから見るとデートっぽく見えんのかな…)

 何となく周りの目を気にしつつ、右を歩く由紀に視線を落とすと…俺の手を握る由紀は、まだしくしくと泣いている。

(…むしろ、なんか勘違いされてたりして…)

 さっきとは別な意味で周りの目が気になり、無意識のうちに由紀の目元を拭ってやる。

「――………」

 少し驚いたように、俺を見上げる由紀。相変わらず涙は止まっていないが。

「ほら、もう泣くなよ」

 由紀の頭を軽く撫でてやり、俺は由紀に微笑みかける。

「……ありがとうございます」

 安心したのか、由紀はようやく泣き止んだ。

 …実は、由紀の泣き顔は、結構可愛い。

 何となく名残惜しいような気分で、俺らは映画館に足を踏み入れた…。



 ………が。

 今は映画を観おわり、由紀と伴に劇場から出るところ。

 結局、僕の隣で、由紀はまた泣いている。

「なぁ、もう泣くなよ」

 俺は由紀を撫でてやるが、

「だって、だって、キツネちゃんがあんまり可哀想で…」

 感動物の映画を観た由紀は、ちょっとやそっとじゃ泣き止まない。

 まともに昼食を摂れるかどうかも危惧しつつ、俺らは映画館から外に出た。



 夕刻。

 結局、ずっと泣き止まなかった由紀が落ち着くのを待つため、今俺らは駅の近くの小さな公園のベンチに、並んで座っている。

「………」

 さすがに由紀も少し落ち着いてきたようである。まだ少ししゃくってはいるが。

 それを確認して、

「…じゃあ、そろそろ帰るか、由紀」

俺は立ち上がろうとするが…。

「…もう少し、だけ」

 上目遣いの由紀にシャツの袖を引っ張られ、俺は再度ベンチへと戻る。

「……?どうした、由紀?」

「……その…」

 僕の質問のもと、由紀が俯く。

「…宏樹くんとは、ずっと学校も一緒で…私がいじめられてたりしたら、助けてくれたし…すごく色々お世話になったし…」

 由紀が顔を少し上げ、僕を見上げてくる。

「その、だから…ありがとうございました」

 由紀が、頭を下げてくる。

「あ…ああ、いや、どういたしまして…」

 僕も慌てて頭を下げる。いきなり何なのだろうか。

「…あの……」

 由紀はまた俯いてしまう。

「もうすぐ卒業で、宏樹くんとは離れてしまうし…いつまでも宏樹くんに頼っちゃいけないと、思って…」



 はっとした。

 考えてみれば、由紀と俺とは進路が違う。

 俺は、京都で就職する予定なのだ。

 電話等での会話はあるだろうが、あと2ヶ月足らずで、もう由紀とは別れることになるのである。

 俺には実感が湧かなかったが、由紀はそれを受けとめていたのだ。

 自分一人で。

「……由紀…」

 由紀の目から、涙が溢れだす。

「…だ、だけど…やっぱり、宏樹くんと別れるのが…淋しくて…」

 由紀の涙は、止まらなかった。



 俺は、初めて気が付いた。

 由紀の涙は、俺の汚れを洗う。

 だから、俺はそれに報いたかったのだ、と。



「………由紀」

 俺は、由紀を抱き締める。

 由紀の華奢な肩を、しっかりと抱き寄せる。

「……宏樹、くん…」

 由紀は、俺を見上げ、口を開いた。

「…泣いてるの…?」

 涙が、止まらなかった。

 ただ、俺が由紀を守っているだけだと思っていた自分が、恥ずかしかった。

 悲しかった。

 悔しかった。

「…ごめん、由紀」

 涙を拭おうともせず、俺は言う。

「俺、何にも分かってなかった」

 泣きながら、由紀に微笑んだ。

「……ありがとう」

 由紀の顔にも、微笑みが浮かんだ。



 俺と由紀は、涙を流しながら、それでも微笑んで、

ただ抱き締め合っていた。

読んで下さった皆様、すみません駄作で。そして、ありがとうございます!!

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― 新着の感想 ―
[一言] 甘酸っぱいです。純粋で良い作品だと思います。
[一言] 直球一本勝負な、感じやね。 変化に乏しいけど、こういうストレートな物も 多いにありやで。
感想一覧
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