0日目―天使との出会い―
ゲームはいい、俺はいつも心の中でそう思っている。
リセットボタンひとつで始めからすることが出来るし、現実ではあり得ない、想像の世界を楽しめる。
俺がゲームをやり出したのは、小学校四年生の頃だ。
当時流行っていたゲームを友達たちがしているのを見て羨ましいと思い、必死になって僅かな小遣いを貯めて、初めてゲームを買った時の気持ちは今でも覚えている。
まあ、買った頃には別のゲームが流行っていたのだが……
それでも、初めて買ったゲームを自分一人でクリアした時は嬉しかった。
それ以来、俺はありとあらゆるゲームをプレイし、クリアしてきた。
RPGはもちろん、パズルや音ゲー、果てにはギャルゲーまで、そのどれもが、俺にクリアした時の快感をもたらした。
そう、俺はゲーマーである。
しかも、重度の、だ。
ゲームに目覚めて、早七年。暇があればゲームをやり続ける俺に、家族は生ぬるい視線を送るほどに俺のことを見放している。
そんな俺は、あっさりと近場の公立高校に合格し、ゲーマーの道を極めた。
否、極めたつもりだった。
高校二年の夏、天使に出会うまでは――
「よっしゃ! ゲームクリア!」
一学期の終業式も午前中に終わった蓮司は、家に帰るや否や、自室のテレビでゲームをしていた。
テレビの画面には『ゲームクリア』と大きな字で表示されており、眩く点滅をしている。
蓮司は大きく伸びをする。
ゲームクリア後に大きく伸びをするのは、蓮司にとって恒例行事のようなものだ。儀式と言ってもいい。
クリア後の肩の力が抜けたときが蓮司の至福の時であり――
…そして、一番油断しているときである。
「うわぁっ、すごいですね! ゲームクリアですよ!」
――!?
突然聞こえた声、それはすぐ近くから聞こえた。家族のものではない、いままで一度も聞いたことのない声だ。
おそるおそる、振り返ってみる。
「……っ………!?」
蓮司は、自分の目を疑った。
そこにいたのは、女の子だった。
しかも『普通の女の子』じゃない。
空色のワンピース、刺繍やらレースがやたらと多いが、まぁ、そこはまだ問題じゃない。
それ以上に、その女の子の背中。雪のように白い純白の翼が目を惹いた。頭の上には金色の輪っか。
端的に言うと――超美少女コスプレイヤー。
それも、天使のコスプレ。
「あ、自己紹介が遅れました。わたし、リリスっていいますー。初めまして、杉本蓮司さん」
「あ、どうも……………………………………って、誰ぇぇぇぇえええッッ!?」
十数秒のタイムラグの後、蓮司は大声で叫んでいた。
誰だよ、こいつ!? 新手のコスプレ推進団体かなんかの差し金か? いやいや、そんな団体とお付き合いしたこと無いし。なんで俺の名前知ってるんだ? て言うか、どっから入った?
「おまっ……どっから入った!?」
パニックになりながら、蓮司は少女に言う。
「どこも開いてなかったので、そこのベランダから入りましたー」
そう言う少女の指差す先には、大きな穴を開けたガラス戸とその破片があった。
「うわああぁぁぁあッッ!! 窓っ、窓が割れてるっぅぅぅうッ!」
なんてことしてくれたんだ! どうりで冷房が効かないわけだ!! というか、俺にこの夏を、公園の休憩所(=吹きさらし)のような部屋で生活しろと言うのか? 暑さどころか雨風もしのげなくなったこの部屋で? そんなことしたら……
――そんなことしたら、ゲームが壊れるっ!
蓮司は心の中で叫ぶ。
「誰だか知らんが、いきなり人の家に、ベランダから、不法侵入して、一体なんの用だ!」
そう叫ぶと、コスプレ美少女は、
「はいっ! 改めて自己紹介させていただきます。わたし、天界の死法局から来た天使のリリスといいます」
その台詞に蓮司は頭が痛くなった。
……コイツは見た目だけでなく頭の中まで電波なのか?
「天界? 天使? そんなものが存在するのは二次元だけで充分だ!!」
蓮司の必死の抗議の声。
「今日ここに来たのはですねー」
だが、このリリスという天使(仮)は蓮司の話を聞く気などまるでないらしい。
「あなたに、どうしてもお願いしたいことがあって来たんです」
そして、この次の一言で。
蓮司の人生は――……
「あなたの……あなたの力でこの世界を救ってください!」
――大きく、変わった。




