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プロローグ


私立烈光れっこう学園。小学、中学、高校、大学からなる私立校である。四つの学校はそれぞれ別々の場所にあり、独立しているとも言える。

その中の一つ、烈光学園中学校がこの物語の舞台だ。一階の一番西側にある教室から、今日も声が聞こえる。

「行くぜ、新之助しんのすけ!《弾け山のラルビン》でシールドブレイク!」

教室の中央にあるテーブルに、二人の男子生徒が向かい合って座っている。テーブルの上には、数枚のカードが置かれていた。カードは上半分に現実には存在しないような生き物の絵が描かれていて、下半分は文字で埋められていた。

野球帽をかぶったやんちゃそうな顔つきの少年が《弾け山のラルビン》と名付けられた赤いカードを横に傾ける。その直後、彼と向かい合って座っていた少年が並んでいた五枚のカードの一枚を手に取る。

「やるね、はじめ。でも、これはシールド・トリガーだよ。《スーパー・スパーク》で一のクリーチャーを全てタップ!」

野球帽の少年と対峙しているのは、彼とは対照的な大人しそうな顔の少年だった。

手に取られたカードはすぐにテーブルの上に置かれる。表向きになったカードは黄色の枠で、光を発した精霊の絵が描かれている。それを見て野球帽の少年は《ラルビン》の横に置いていた二枚のカードを横に傾けた。

 《ラルビン》を使っている野球帽の少年の名は、松野まつの一。

 精霊が描かれたカード《スーパー・スパーク》を使った少年は、永瀬ながせ新之助。

 二人とも烈光学園中学校の一年生だ。

 一と新之助の二人が遊んでいるのは、デュエル・マスターズというカードゲームだ。数千枚以上という膨大なカードの中から四十枚のカードを組み合わせてデッキというカードの束を作り、そのデッキで戦うトレーディングカードゲームである。

 彼ら二人は、烈光学園中学校のデュエル・マスターズを練習する部活『デュエマ部』のメンバーだ。

「二人とも結構上達したわね。その分だと、義男よしおを超える日も近いかな?」

 カードを使って遊ぶ二人を見ていた女子生徒が口を開いた。

 制服の上からも判るスタイルの良さと、白い肌、綺麗な長い黒髪が特徴的なこの女子生徒の名は阿部野あべの静貴。

 烈光学園中学校の三年生。テレビでアイドルとして活躍している有名人だ。デュエマ部では部長としてメンバーをまとめている。

「部長、それホント!?」

「おい、イチ。随分、嬉しそうだな。デカチョーの言っている事はお世辞だよ」

 喜んで目を輝かせた一の肩を、サングラスをかけた男子生徒が軽く叩き、低い声で言った。

 彼は二年の石黒いしぐろ義男よしお。刑事ドラマの世界に憧れていて『学園デカ』を自称している。そのため、デュエマ部のメンバーもあだ名で呼んでいるのだ。

「次に調子に乗ったら逮捕するからな!」

「へいへい、判ってますって」

「ところで、義男先輩。健人けんと先輩は、まだ来ないんですか?」

 新之助が義男に聞く。義男は手を横に振って

「今日はみっちゃん先輩とは会ってないぜ。カードの買い出しをしてから来るんじゃないか?」

と答えた。

「ただいまー。新しいカード買ってきたよ」

という声と共に、一人の男子生徒と二十代らしい若い男が部室に入ってくる。

 男子生徒は黒縁の眼鏡をかけていて真面目そうな雰囲気を漂わせている。手には、小さな白いビニール袋を持っていた。彼の名は、三島みしま健人。静貴と同じく三年生だ。

「おやつ用のハムカツを買って参りました」

 健人に続いて入ってきたのは、町を歩いている女性の誰もが振り返りそうな美形の青年だった。左手には四角い黒の鞄を持っている。黒の開襟シャツとシルバーのアクセサリーが似合うこの男は、一ノ瀬いちのせと言い、静貴のマネージャーをしている。

 四角い黒の鞄には、静貴の仕事道具など色々なものが入っている。彼はその中から近所の肉屋のロゴが入ったビニール袋と白い皿を五枚出した。

「おっし!ハムカツか!イチ!シン!食うぞ!」

 一ノ瀬が対戦に使っているテーブルとは別のテーブルにハムカツを載せた皿を並べているのを見て、義男が声を挙げる。だが、彼に呼ばれた一と新之助は返事をしない。

「おい、イチ、シン!ハムカツだぞ?」

「義男先輩、先に食ってて下さい!」

「僕達はこれが終わったら食べますから」

 一と新之助はカードから目を離さない。目の前の対戦に集中していた。

「仕方ねぇな。じゃ、残ったハムカツを賭けて勝負だ!みっちゃん先輩!」

 義男は懐から取り出して黒いケースを健人に突き付ける。警察手帳のようなロゴが描かれていた。

「いいよ。昨日、思いついた面白いコンボを試したいからね」

 挑戦を受けた健人も青いケースを取り出した。

「ちょっと待った!何で二人で熱くなってるの?ハムカツを賭けるんだったら、あたしもやるわよ!二人ともやっつけてやるんだから!」

 静貴も赤いデッキケースを取り出した。それを見て、義男が「げっ」とカエルが潰されたような声を出す。

「で、デカチョー。デカチョー相手だと賭けにならないっていうか、分が悪いっていうか……」

「文句言わないの!最初はどっち!?」

 燃えるような静貴の目を見た健人がテーブルの上にケースを置く。

「じゃ、僕が相手をするよ」

「オッケー。それじゃ、健人が負けたら健人のハムカツもあたしが食べる!」

「ちょっと!そりゃないって!」

「問答無用!デュエルスタートよ!」

 ケースからデッキを取り出して準備を始めた静貴を見て、健人も諦めたような様子でデッキをケースから取り出す。

「新之助!何か、勝った奴がハムカツを一人占めできるみたいだぞ!」

「えっ?それ、本当なの!?じゃ、負けられないよ!」

 断片的に他の部員の会話を聞いていた一と新之助の二人もやる気を出す。デュエマの対戦に燃える部員達を見て、一ノ瀬は

「おやつの時間までは、しばらくかかりそうですね」

と、優しく微笑むのだった。


 彼らの出会いは今から数か月前の四月だ。一年生の一と新之助がデュエル・マスターズカードとデュエマ部に出会った事から全ては始まった。


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