永久凍土の鉄仮面令嬢と太陽の貴公子〜呪いを解いてくれないか?ってどこのロマンス詐欺ですの〜
※今作は、多分、AI間接利用です。
(キャラ名・類語の検索に使用)
補助的利用と悩みました、もう何もわかりません( ˙꒳˙ )
「ああ! 我が冬の女神よ! 貴女の凍りついた心を溶かす栄誉をこの私めに!」
女神への賛美を朗々と歌い上げた男は、近頃若者の間で流行っている遊ばせた前髪を、サッと手で払いのけた。舞台俳優のような大げさな動作で目の前の令嬢の手を取ると、その甲へそっと口づけを落とした。
「わたくしの手に触れる許しを与えた覚えはなくてよ」
令嬢は表情一つ変えることなく、言葉のナイフでスパッと男を斬り捨てる。
二人を取り囲んでいた夜会の招待客たちが、ヒソヒソと言葉をかわし始めた。
「あの男も男だけど、彼女も彼女よね……」
「いつも顔色一つ変えずに、なんて不気味な」
「さすが『氷の令嬢』ね」
「『氷の薔薇』なんて呼ばれて、思い上がっているに違いない」
彼女の名は、アデライド・グラキエス。由緒正しき侯爵家の娘であった。何があっても動かない、鉄仮面のような無表情から『氷の令嬢』『氷の薔薇』と呼ばれている。
(な〜にが凍りついた心よ!)
アデライドは心の内で毒づいた。
(どうせ誰が私の表情を崩せるか賭けでもしてるんでしょ。この忌々しい『呪い』がなければアンタが賭け金総取りよ。見なさいよこの鳥肌! こんなにドン引きしてるのに顔もしかめられないなんて!)
「はぁ」
彼女が小さく息をつけば、いまだ眼前に突っ立っていたキザ男は「あ……っ、失礼します!」と一目散に周囲の視線から逃げて行った。
(根性ないわね)
馬鹿馬鹿しいと呆れながら、アデライドはふと人だかりの方へ視線を移した。その中心にいたのは、令嬢たちから『微笑みの貴公子』『陽光の君』などと呼ばれている優男──パトリック・オーレリアン侯爵令息だった。
キザ男に絡まれた彼女と違い、令息の周囲には、色とりどりのドレスをまとった可愛らしい令嬢たちが群がっている。
(あらかわいい。令息を中心にドレスが広がって──エリマキトカゲみたい)
令息が弾かれたように顔をあげ、周囲を見回した。何かあったのだろうか、と一瞬考えはしたが、まあアデライドには関係のないことだ。そんなことよりも。
(だいたい何なのよ『氷の薔薇』って。あ~恥ずかしい。アイタタ……ってやつよね)
給仕からシャンパングラスを受けとって口に含む。パチパチと軽やかに弾ける炭酸が、ささくれ立った彼女には心地よかった。
(そもそも好きでこんな『鉄仮面』ムーブしてるうら若き乙女がいると本気で思ってるわけ?)
令息の視線がアデライドを捉えたが、愚痴を吐き出すのに忙しい彼女は気が付かなかった。
(ぜーんぶあの浮気者のお父様のせいよ)
アデライドの父、グラキエス侯爵は数年前、己の妻──アデライドの母に浮気がバレてあわや離縁の危機に陥っていた。婚姻を続ける条件は、愛人とスッパリサッパリ縁を切ることだった。
父は慰謝料も含め十分な手切れ金を愛人に渡したことで安心していた。しかし本気で彼を愛していた彼女は、金なんぞで納得するはずがなかった。
そうして起こるべくして起こったのが、屋敷に乗り込んできた愛人と、ちょうど屋敷にいた母、そこに帰宅してきた父の大修羅場。
なんと魔術師であった愛人が、恨みつらみをこめて呪いの詠唱を始めた直後だった。母は怒りに任せてキレッキレの右ストレートを浮気夫に叩き込んだ。父が吹っ飛んだ拍子に愛人の呪いが発動し、たまたま父の影になるような位置で野次馬をしていたアデライドに命中してしまったのだ。その結果がこの『無表情』というわけだ。
父への怒りがおさまらないアデライドが視線を戻せば、驚いたような顔のオーレリアン侯爵令息と目があった気がした。
彼の周りはいまだにドレスの群れでフワッフワだ。
(な〜にが『微笑みの貴公子』よ。アイタタ仲間じゃない)
興が醒めたアデライドは、人がまばらな会場の隅へと足を向けた。
◇
「待って! グラキエス嬢!」
心底焦ったような声に振り返れば、そこにいたのはフワフワの中心にいたはずの貴公子様だった。
「ご機嫌よう、オーレリアン様。いかがなさいました?」
「その……」
あちらから声をかけてきたというのに、どうにも歯切れ悪く口をパクパクさせている。まさか彼も賭けの参加者だったのかと思いかけたところで、ようやく貴公子様は覚悟を決めたようだ。
「驚かないで欲しいんだけど、僕は他人の心の声が聞こえる呪いにかかっているんだ」
彼はまるで、一世一代の告白をしたかのような真剣な顔で、アデライドを見つめた。そのまま一秒、二秒──
(キモッ)
「ひどいな!!」
(やだ、勝手に聞かないでよキモ)
「おい!!」
何を馬鹿げたことを言っているんだと思った彼女は、今まさに心の声と会話が成り立っていたような気がしたことは、すべて気のせいだと思うことにした。何事もおもしろ半分で関わらないことが一番である。それが、呪いの件から得た教訓だった。
(あ〜やだやだ、こんなわけのわからないロマンス詐欺師に目をつけられるなんて。『僕の呪いを解けるのは君の愛だけだ!』とか言われて、いいようにされるのかしら。嫌だわぁ)
──ラ〜ララララ〜♩
(って頭の中で歌っていればいいわよね)
──ラララ〜♩
令息は腹を抱えて笑っていた。時折「やめ、やめてくれ……」「話を聞いてくれ……」などと聞こえるが、やめてやる道理はない。
(人の歌でそんなに笑うなんて失礼ね)
アデライドはちょうど通りがかった使用人に声をかけた。
「そこのあなた。こちらの方、ご気分が優れないようなの。休憩室に連れて行ってあげてくださらない?」
「かしこまりました」
存分に笑い終えた微笑みの貴公子様が慌てて口を挟む。
「あ、ちょ、待って。違……」
「突然笑いだしたんだもの。きっとお酒を飲みすぎてしまわれたのではないかしら」
使用人が貴公子様の顔に視線を向ける。
「確かに随分とお顔が赤くなっていらっしゃいますね」
「これは違うんだ」
「酔った方ほどよくそうおっしゃるでしょう? 心配だわ」
「なっ……!」
貴公子様が呆気に取られている隙に、使用人は彼の腕を己の肩に乗せて、休憩室へ歩き始めた。今も気を抜けば思い出し笑いをしそうになっている、憐れな貴公子様の背中を見送りながら、アデライドはふと古い童謡を思い出した。
(そういえばこんな歌あったわよね。たしか仔牛目線で)
──星の夜空を見上げながら〜♩
──荷馬車がコトコトすすんでゆく〜♩
──母の言葉を思い出す〜♩
──あなたは市場へゆくのよと〜♩
貴公子様は突然立ち止まり、空いてる方の手で口を押さえて震えだした。
「お、オーレリアン様!? 大丈夫ですか!!」
慌てる使用人の声を聞きながら、アデライドは身を翻す。彼らとは別の扉へ向かう傍らでポツリとつぶやいた。
(勝った)
微笑みの貴公子は冷たい大理石の床に沈んだ。
◇
グラキエス邸の応接室で、アデライドは茶を飲んでいた。向かいに微笑みを浮かべる優男を添えて。
何度か断ったにもかかわらず、なぜかオーレリアン侯爵家総出で「体調の優れないところを助けてもらったお礼をぜひに」と泣き落とされ、令息の訪問を押し切られてしまったのだ。
謎である。謎ではあるが、手土産のスイーツが高位貴族であっても入手が難しい有名店のものだったので良しとした。
残念なことにグラキエス侯爵は仕事で不在、そして夫人は急用で出かけていた。例の侯爵の元愛人──ジゼルと。
夫人とジゼルが二人で準備を始めた、浮気男にお灸を据えるおまじないアクセサリー事業が佳境に入ったのだ。
「ブッ!!!」
うっかり夫人の不在理由を知ってしまったオーレリアン侯爵令息──パトリックは、茶を吹き出しそうになった口元を慌ててハンカチで押さえた。
誤ってアデライドを呪ってしまった衝撃で一周回って正気に戻ったジゼルは、恋愛以外は優秀な魔術師であった。あれ以来、いろいろと手を尽くしてくれているが、意図しないかかり方をした呪いは捻りにねじれて、もはやジゼル本人にも解呪ができなかった。
その流れで何度か我が家を訪れるうちに、なぜか夫人と意気投合して、現在はともに起業するほどのマブダチである。なんでよ。
ゴホン、という咳払いの音でアデライドは向かい合う青年へと意識を戻した。
「……強引に訪問を取り付けてしまい、すまないね。先日の話の続きをどうしても聞いてもらいたくて」
「と、おっしゃいますと……」
(呪いが云々という詐欺の話かしら)
「詐欺ではないけれど、そうだね」
アデライドが余計な茶々を入れ始める前に、パトリックは話しだした。
曰く。彼が呪いにかかったのはここ半年ほどのことで、犯人探しと並行して解呪方法も探していた。あらゆる伝手を使った結果、遠い国で発掘されたという解呪の魔導具を手に入れたそうだ。
ところが、魔導具を使うには四大属性──火、水、風、土の魔力を注ぐ必要があった。そのうち三属性は家門内で内密に該当魔力の持ち主を見つけることができた。しかし残りの一つ、風属性だけは、魔導具に注げるほどの魔力量を持つ者が見つけられなかった。
下手に人を探せば事情が漏れて政敵に利用されかねない。どうしたらよいのか途方にくれていたところで偶然見つけたのが、同じく呪いの被害者であり、高位貴族らしく膨大な風の魔力を持つアデライドだった。
(まあそうよね。万が一、微笑みの貴公子が呪われているなんて知られたら大変よね)
「グラキエス嬢……! まさか君が心配してくれるなんて──」
(きっと自称聖女が大量発生して、誰が運命の乙女の座を手に入れるのか、血で血を洗うデスゲームの始まりね。闘技場でも用意しようかしら、VIP席は最低でも何席あれば……)
「感動を返せ!!」
返せと言われても何ももらっていないのだから、どうしようもないじゃないか。アデライドはそこまで考えて「なるほどそういうことか」と合点がいった。
(仕方ないわね、8:2でいいわよ。もちろん私が8ね)
「何が?」
(分け前)
目の前の無駄に輝く優勝トロフィーが「はぁ〜〜〜〜〜」と深いため息をついた。
(勝手に傍受してるくせにワガママ言わないで)
パトリックはどこぞの草原に住むという、スナギツネのような顔をしている。
由緒正しき侯爵令嬢であるアデライドは、傍から見れば独り言の末に百面相をしている男には触れることなく、淡々と告げた。
「解呪の件、協力しましょう」
ため息まじりに応えがあった。
「……では次の満月の日に、秘密裏に我が家まで来てもらってもいいかな?」
「ええ、父にも伝えておきますわ」
◇
満月の夜。
オーレリアン侯爵家の一室で、アデライドとパトリックは協力者たちに見守られながら、解呪の魔導具を起動した。
真昼の太陽のような強烈な光に、アデライドは思わずギュッと目を閉じた。
徐々に光が弱まり、収まっていく。
彼女は恐る恐る目を開けると、侍女から手鏡を受け取った。そっと覗いてみれば、そこに映っていたのはいつものように無表情な自分の顔。試しにペチペチと頬を叩いてみたものの、うんともすんとも動かない。
(眉唾ものね)
「オーレリアン様はいかが?」
自分が変わらず鉄仮面のままなのだ。パトリックもいまだに盗聴犯のままだろう。
「あぁ、うん……」
(何なのよ、はっきりしないわね。ねえ、知ってる? お母様ったらおまじない付きのアクセサリーをお父様に贈ったの。効果はなんと──)
「……今、何か考えてる?」
──まったく、いいところで話の邪魔をしないでほしいものだ。
アデライドは息を整える。
(……効果は、黒々とした立派な産毛が一本、腕のホクロから生えるの)
──さあ、どうだ。今日こそそのこっ恥ずかしい『微笑みの貴公子』の名を『大笑い貴公子』に変えてやる。
完封勝利を前に高鳴る胸の鼓動を抑えて、パトリックを見つめた。
「……聞こえない。何も、聞こえないよ」
呪いがなければ、彼女はこれでもかと目を見開いていたことだろう。
実際は、鉄仮面の口元からスルリと言葉が発されただけだった。
「あら、おめでとうございます」
◇
それから何度か魔導具を試したが、なぜかアデライドには効果が無かった。その後もオーレリアン家は協力の礼にと、引き続き調査を手伝ってくれたが、やはり解呪はできなかった。
(なんでよ!)
「今、なんでよ! って思った?」
(聞こえてるの!?)
思わずパトリックを見つめた。
「何となくそう思っただけ。君の本心が聞こえないのはなんだか寂しいな」
◇
呪いも解けず、モヤモヤとした気分も晴れず、アデライドは解呪を諦めかけていた。
そんな時だった。
パトリックが事前の約束もなく、突然グラキエス邸に飛び込んできた。
「アデライド! 王宮魔術師と会えることになったよ!」
オーレリアン家の伝手で、エリート揃いの王宮魔術師の中でも特に高名な研究者との面会が叶うことになったのだ。
アデライドを観察し終えた研究者の見解はこうだ。
「解呪が効かなかった原因は、『強い想い』ですね」
アデライドは「強い想い……」とつぶやいてから、今日も付き添いのため隣にいるパトリックへと意識を向けた。
(まさか私、淑女らしくない心の声にも幻滅しないで笑ってくれるコイツのこと……)
研究者の男の顔には、隠しきれない興奮が浮かんでいた。
「いやぁ、とんでもねぇ執念っすね!!」
「執念?」
「間違えてお嬢さんにかかってしまったことで、想定外の効果が出たっぽいすけど。愛人さんの怨念をビシバシと感じます!!」
(……そっちかよ!!)
ハイテンションな男は止まらない。
「その愛人さんってフリーの魔術師っすか!? スカウトしたら来てくれますかね!?」
(知るかっ!!)
「術者の気持ちでここまで術の強度が変わるなんて大発見っすよ!! それに見てくださいこれ!! まるで獲物を絡めとって絶対離さない蜘蛛の巣のような術式がこれでもかと組み込まれていて、多分すけど元の呪いは──」
なおも一人で話し続ける男を無視して意識を飛ばしかけていると、パトリックがいたずらっぽい笑みを浮かべながら、アデライドの顔をのぞきこんだ。
「さっき、少しは僕のこと考えてくれた?」
(このッ……!)
心の中で毒づいたが、この男にはもう聞こえていないのだ。苦言を呈するためなのだから仕方ない。仕方なくアデライドは重い口を開いた。
「……調子に乗るんじゃないわよ」
パトリックはハッと目を見開くと、すぐに表情を崩して笑った。
「うーん、普段より少しキレがないな」
「歌うわよ」
◇
今日も今日とて、アデライドは呪いを解くために奔走していた。結局あの王宮魔術師であっても、怨念が凝り固まった呪いは解呪できるかわからないそうだ。仕方ないので研究題材になることと引き換えに、解呪への協力を取り付けた。
だとしても、解呪を諦めるわけにはいかない。だって、呪い仲間のくせにパトリックだけ先に抜けるだなんて、許せないのだ。
侯爵家の財力に物を言わせて取り寄せた資料を睨みつける彼女の横から、出し抜き男の妨害が入った。
「アデライド、僕と婚約してくれないかな」
アデライドは資料から顔を上げた。
「何よ突然」
「ああ、そうか! 間違えた」
「は???」
婚約の申し出に間違えたも何もあるものか、と思ったところで、またもパトリックの「コホン」という咳払いに邪魔をされた。
「君の呪いを打ち消せるのは僕の愛だけだ、結婚してほしい」
彼は、一世一代の告白をした後の真剣な顔で、アデライドを見つめた。そのまま一秒、二秒──
「……それどこのロマンス詐欺師なの?」
パトリックは一転、真面目な顔をやめて笑いだした。
「僕たちにはやっぱりこれかなって」
「なら、ハネムーンは星空を見上げながら馬車に乗りましょうね。市場にでもいってみる?」
「ブフッ!!!」
大笑い貴公子様は「やめてくれ」と言いながら、腹を抱えて笑っている。
(な〜にが『微笑みの貴公子』よ)
アデライドは自分の口元が弧を描いているような、そんな気がした。
──氷の姫の呪いは、太陽の王子の力を持ってしても、ついぞ解けることはありませんでした。
ですが二人は、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。
「やっぱりロマンス詐欺じゃない」
「あははは、そんな嫌そうな顔しなくても……」
「……嫌そうな顔?」
「「えっ!?」」
完。
自認コメディな怪文書です( ˘꒳˘ )




