第五幕:結果
「ん……」
あれ……?ここは、どこだ?
目を開ければ、そこには白い天井があった。LEDも白色なので、眩しくて眼を細める。おかしい。さっきまで舞台にいたはずなのに……。舞台は……?舞台はどうなったんだ?
慌てて身体を起こして、周りを見渡す。目に入ってきたのはパイプベッドにクリーム色のパーテーション。一つだけ置かれた棚の上には、救急箱が置かれている。どうやら、ここは救護室みたいだ。
「玲央!気がついたのか?!」
「汐恩……?」
僕が周りを見ていると、汐恩がパーテーションの奥から現れた。
「よかった……!お前、毒薬飲むシーンでガチで倒れたんだよ。で、幕が上がっても起きなくて……マジで心配したんだからな!」
「そうだったんだ……ごめん」
まさかそんなことになっていたなんて……。僕は迷惑をかけたことを、素直に謝る。
「まあ、軽くのぼせただけだろうって。待ってろ。監督呼んでくるから」
「あ、うん……」
そう言って、汐恩は救護室から出て行った。部屋には、僕一人。……だと思ったんだけど。
「お疲れ」
「お疲れ様です、玲央!」
「玲央、お疲れ様〜!」
みんなも心配してくれていたようで、ずっと僕のそばにいてくれたらしい。
「あ……ッ」
ありがとう。そう伝えるつもりで、口を開く。けれどみんなの顔を見たら、それより先に感情がぶわっと湧き上がってきてしまった。
やったんだ。できたんだ。僕は、舞台の上で、大勢の観客の前で、ロミオになれたんだ。気持ちが溢れ出て、止められない。涙が、次から次へとこぼれ落ちて、シーツを濡らす。感謝の気持ちを伝えるつもりだったのに、喉からは全然声が出なかった。
「ッ……あ、ぁ……ッあ!!!!」
急に、手も震え出す。今になって、急に舞台に立った時のプレッシャーがやってきた。本当に、みんなのおかげだ。みんなが僕に、勇気をくれたから……だからこうやって舞台に立つことができたんだ。
「みん、な……あり、がと……ッ!ありがとう!!!」
泣きじゃくる僕を、みんなは黙って優しく抱きしめてくれた。
しばらく泣いていて、ゆっくり呼吸を整える。すると冷静さも戻ってきた。
「そういえば……」
涙を拭きながら、僕はみんなに聞く。
「大会って結局……」
「玲央!」
「玲央くん!」
「先輩!」
けれど突然、部員のみんなが救護室に入ってきた。慌てて僕は涙を拭いて、みんなの方を見る。でも、視界はぼやけたままだ。それでも、監督の手に握られたトロフィーは、しっかり目に入った。
「あ……それ……」
そこにははっきりと、「最優秀賞」と刻まれている。
「玲央くんのおかげだよ!お疲れ様!!!」
「へあっ?!」
そう言って、朱里さんはいきなり僕に抱きつく。思わず、変な声が出てしまった。って、ちょっと待って。朱里さん何してるの?!どうしたらいいかわからず僕が固まっていると、上から言葉が降ってきた。
「朱里、玲央は起きたばっかりなんだぞ?」
「あ!そうだよね?!ごめん、玲央くん!」
「ったく……」
蘭くんに言われて、朱里さんは僕から離れる。心臓がバクバクしていたのに、蘭くんの顔を見たら冷静になった。そっか、蘭くん……今日、見に来てたんだ。
「蘭くん……」
「……なんだよ。……ったく、最後の最後まで遅刻しやがって」
「あ……ご、ごめん」
咄嗟に、僕は謝った。結果的に最優秀賞をとることができたけど、それはあくまで結果論だ。蘭くんが言うように、第一幕には間に合ってないからみんなに迷惑をかけたし、僕と蘭くんではロミオの解釈も違ってたから、蘭くんの思うロミオじゃなかったはずだ。きっと怒っているに違いない。僕は甘んじて蘭くんの怒りを受け止めるために身構えた。けれど、
「でも、良かったよ……お前のロミオ」
「え?」
「お疲れ」
それだけ言って、蘭くんは救護室から出ていってしまう。思っていなかった言葉に、僕は何も言うことができなかった。
「おい、お前ら!玲央はもう大丈夫みたいだから、撤収準備だ!!!」
「はい!」
「玲央、お前はギリギリまで休んでろ」
「は、はい!!!」
監督にそう言われて、みんなは足早に撤収準備に向かってしまった。けれど、
「玲央!」
汐恩は最後まで部屋に残っていた。なんだろう?そう思っていたら、汐恩が無言で拳を突き出す。それを見て僕は笑いながら、汐恩の拳に向かって同じように拳を突き出した。そして、
「お疲れ!」
二人でそう言って、コツンっとグータッチをする。改めて、今日の公演が無事に成功で終わったんだと実感した。




