回復が遅いという理由で勇者パーティを追放された俺、戦場を捨てて“人生を治す”魔法使いになる
「お前はもう、このパーティには必要ない」
その言葉を聞いた瞬間、俺は、安堵してしまった。
勇者アルドの声は冷静だった。
怒りも躊躇もない。ただ“正解だけを選び続けてきた人間”の声。
「回復が遅すぎる。戦場では致命的だ」
誰も反論しなかった。
剣士は剣を見つめ、魔法使いは退屈そうに欠伸を噛み殺している。
五年間、一緒に戦ってきた。
俺は何度も彼らを生かした。
それでも、
“今すぐ治せない”という一点で、俺は切り捨てられ た。
回復魔法使いルーク。
遅いという理由だけで。
「…分かりました」
そう答えたとき、胸の奥で何かが切れた。
―もう、急がなくていい。ー
―もう、壊れるまで誰かを治さなくていい。ー
引き留める声は、なかった。
◆
俺の回復魔法は遅い。
致命傷は塞げない。
戦況を覆す奇跡も起こせない。
だが、この魔法には“欠点”と引き換えに、
誰も知らない特性がある。
時間をかけて治した傷は、身体の使い方そのものを 変える。
無理を前提にした筋肉は、正しい動きを思い出す。
焦りに縛られた心は、静かにほどけていく。
だからこそ、この魔法は戦場では邪魔だった。
急ぎ続ける人間にとって、
「立ち止まる回復」は、毒でしかない。
◆
俺は辺境の村で、小さな診療所を開いた。
最初に来たのは、腰を押さえた老人だった。
「魔法なんぞ信じとらん。だが、もう畑に出られん」
壁に立てかけられた鍬は、異様なほど手入れされて いた。
使えなくなっても、手放せない人生がそこにあっ た。
「すぐには治りません。何週間もかかります」
「……来週は種蒔きだ」
老人は唇を噛み、吐き捨てた。
「役に立たん」
彼は帰っていった。
ーそれでいい。ー
即効性を求める人間に、俺の魔法は向かない。
数日後、別の村人が来た。
「急がない。畑も人生も、逃げやしない」
俺は《リペア》をかけた。
一度では変わらない。
二度でも足りない。
それでも数日後、彼は畑に戻り、笑って礼を言っ た。
その翌日
最初の老人が戻ってきた。
「…やっぱり、頼みたい」
俺は鍬を見てから、首を振った。
「できません」
「なぜだ!」
「あなたは、また壊します。
治っても、同じ使い方をする」
老人は震える声で言った。
「急がなきゃ…終わらんのだ!」
俺は答えられなかった。
◆
三日後、その老人は畑で倒れた。
命は助かったが、
もう鍬を握ることはできないと聞いた。
正しかった。
理屈では、間違っていない。
それでも、
胸の奥が、焼けるように痛んだ。
◆
半年後。
診療所の前に立っていたのは、
ボロボロの鎧を着た男、勇者アルドだった。
「助けてくれ」
魔力は歪み、身体は限界だった。
「治ります。ただし、前線には戻れません」
「それでいい」
即答だった。
「速さだけを選び続けた結果だ。
仲間も、自分も壊した」
俺は静かに言った。
「…それでも、あなたは急ぐと思っていました」
アルドは首を振った。
「もう、誰も置いていかない」
◆
治療は数週間続いた。
アルドは剣を置いた。
英雄ではなく、一人の人間として生きる道を選ん だ。
◆
俺は“人生を治す回復魔法使い”と呼ばれるようになった。
すべては治せない。
救えなかった人もいる。
それでも今日も、俺は魔法をかける。
急がない人にだけ。
立ち止まる覚悟のある人にだけ。
追放されたあの日、感じた安堵は、
間違いじゃなかった。
ここでは、
人生だけが、ゆっくり治っていく。




