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回復が遅いという理由で勇者パーティを追放された俺、戦場を捨てて“人生を治す”魔法使いになる

作者: 加藤 すみれ

「お前はもう、このパーティには必要ない」

 その言葉を聞いた瞬間、俺は、安堵してしまった。


 勇者アルドの声は冷静だった。

 怒りも躊躇もない。ただ“正解だけを選び続けてきた人間”の声。


「回復が遅すぎる。戦場では致命的だ」

 誰も反論しなかった。

 剣士は剣を見つめ、魔法使いは退屈そうに欠伸を噛み殺している。


 五年間、一緒に戦ってきた。

 俺は何度も彼らを生かした。

 それでも、

 “今すぐ治せない”という一点で、俺は切り捨てられ た。

 回復魔法使いルーク。

 遅いという理由だけで。


「…分かりました」

 そう答えたとき、胸の奥で何かが切れた。


 ―もう、急がなくていい。ー

 ―もう、壊れるまで誰かを治さなくていい。ー

 引き留める声は、なかった。


 俺の回復魔法リペアは遅い。

 致命傷は塞げない。

 戦況を覆す奇跡も起こせない。

 だが、この魔法には“欠点”と引き換えに、

 誰も知らない特性がある。


 時間をかけて治した傷は、身体の使い方そのものを 変える。

 無理を前提にした筋肉は、正しい動きを思い出す。

 焦りに縛られた心は、静かにほどけていく。


 だからこそ、この魔法は戦場では邪魔だった。

 急ぎ続ける人間にとって、

 「立ち止まる回復」は、毒でしかない。


 俺は辺境の村で、小さな診療所を開いた。

 最初に来たのは、腰を押さえた老人だった。

「魔法なんぞ信じとらん。だが、もう畑に出られん」

 壁に立てかけられた鍬は、異様なほど手入れされて いた。

 使えなくなっても、手放せない人生がそこにあっ  た。

「すぐには治りません。何週間もかかります」

「……来週は種蒔きだ」

 老人は唇を噛み、吐き捨てた。

「役に立たん」

 彼は帰っていった。


 ーそれでいい。ー

 即効性を求める人間に、俺の魔法は向かない。

 数日後、別の村人が来た。

「急がない。畑も人生も、逃げやしない」

 俺は《リペア》をかけた。


 一度では変わらない。

 二度でも足りない。

 それでも数日後、彼は畑に戻り、笑って礼を言っ  た。


 その翌日

 最初の老人が戻ってきた。

「…やっぱり、頼みたい」

 俺は鍬を見てから、首を振った。

「できません」

「なぜだ!」

「あなたは、また壊します。

 治っても、同じ使い方をする」

 老人は震える声で言った。

「急がなきゃ…終わらんのだ!」

 俺は答えられなかった。



 三日後、その老人は畑で倒れた。

 命は助かったが、

 もう鍬を握ることはできないと聞いた。

 

正しかった。

 理屈では、間違っていない。


 それでも、

 胸の奥が、焼けるように痛んだ。



 半年後。

 診療所の前に立っていたのは、

 ボロボロの鎧を着た男、勇者アルドだった。

「助けてくれ」

 魔力は歪み、身体は限界だった。

「治ります。ただし、前線には戻れません」

「それでいい」

 即答だった。


「速さだけを選び続けた結果だ。

 仲間も、自分も壊した」

 俺は静かに言った。

「…それでも、あなたは急ぐと思っていました」

 アルドは首を振った。

「もう、誰も置いていかない」


 治療は数週間続いた。

 アルドは剣を置いた。

 英雄ではなく、一人の人間として生きる道を選ん  だ。

 俺は“人生を治す回復魔法使い”と呼ばれるようになった。

 すべては治せない。

 救えなかった人もいる。

 それでも今日も、俺は魔法をかける。


 急がない人にだけ。

 立ち止まる覚悟のある人にだけ。


 追放されたあの日、感じた安堵は、

 間違いじゃなかった。


 ここでは、

 人生だけが、ゆっくり治っていく。


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