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幻影国家再建記  作者: 白波ほずみ
第二章 セピア・エル・グラディア

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セピア・エル・グラディア④

その日の朝、街はとても静かだった。


新緑の山、風に揺れる小麦畑、川の穏やかな流れ。


ただ違うのは、グラディア王国の旗が、1軒1軒に飾られていた事くらいだ。


王城では、新しい王の即位式が執り行われていた。


城の鐘が鳴る。


二回、二回、二回。


数十年の時を得て、セピア・エル・グラディアは即位する。


先代の王が病に伏せ、公務が難しくなった。

先代の王は退位する。


城内の一室で、セピア・エル・グラディアは鐘の音を聞いていた。


セピア・エル・グラディアに侍従が話しかける。


「陛下、間もなくお披露目の時間です」


女王は静かに席を立つ。


「はい」


部屋を出ると廊下を進む。


女王の後ろを側近達が続く。


王城のバルコニーが近づくにつれ、民衆の歓声が聞こえてくる。


バルコニーの窓越しに、セピア・エル・グラディアは立ち止まった。


深く息を整えると、前を見る。


バルコニーの窓が開けられると、波のように押し寄せる歓声が聞こえた。


それは風となり、セピア・エル・グラディアに吹き付ける。


一歩、一歩と、ゆっくり観衆から見える位置へと進む。


笑顔をつくると、観衆に見える位置で手を振った。


観衆の顔がしっかりと見て取れる。


畑で汗を流していた農夫、街で話した人々。


セピア・エル・グラディアは、観衆の顔をしっかりと覚えていた。


「セピア様ー!」


「女王陛下ー!」


観衆は、思い思いにセピア・エル・グラディアを呼ぶ。


その声に応える様に、セピア・エル・グラディアは手を振りながら、それぞれの方へと体を向ける。


「セピアちゃーん!」


聞き慣れた声。


酒場のビルが手を振りながら叫んでいる。


セピア・エル・グラディアの目が丸くなるが、少し口元に手を当てると、その方へも手を振り返した。


そして、しばらく観衆に手を振ると、また城の奥へと入っていった。


「ちゃんと、女王様になってるじゃねーか」


ビルは感極まると目頭を抑えた。


「思わず笑ってしまいましたわ」


セピア・エル・グラディアは呟く。

その顔は笑顔のまま。


城の玄関には、金の装飾が施された馬車が用意されている。


セピア・エル・グラディアは前を向き、しっかりとした歩調で玄関へと降りてきた。


ヒヅメの音が聞こえる。


馬車を引く白い馬は、その場で静止しつつも、足踏みをしている。


城の近衛兵が整列し、剣を縦に構えていた。


近衛の騎兵の中に、見慣れた顔を見つける。


セピア・エル・グラディアが子供の頃、一緒に遊んだ少年。


二人の目が合うと、セピアとレオンは微笑む。


「変わりませんわね」


日焼けした顔に白い歯。レオンは近衛の騎兵隊へとなっていた。


馬車の階段が下り、ドアが開く。


セピア・エル・グラディアは一段一段登り、席に座った。


ドアがパタンと閉められると、外の音が静かになる。


騎兵の号令と共に、馬車が揺れ始める。


ヒヅメの音が響く。


城壁の門を潜ると、とうきび畑が広がる。


沿道にいる観衆に手を振りながら、セピア・エル・グラディアは笑顔をつくった。


しばらくすると、見慣れた場所に差し掛かる。


そこに、エリーがいた。


クッキーを食べた岩場は、全く変わらない。


セピア・エル・グラディアはエリーに向かって笑顔で手を振るが、エリーは頭を下げて見送ろうとしている。


胸がギュッと締め付けられる。


セピアは我慢ができなくなった。


「止めて!!!」


叫ぶや否や、セピアは馬車の扉に手をかけた。


勢い良く開いた扉を背に、セピアは走る。ドレスの裾が汚れようとも。

そして、エリーに抱きついた。


「まったく、女王陛下ともあろうお方が何をしてるんだい」


エリーはセピアの行動に驚く。しかし、躊躇しつつもセピアを抱きしめ、嬉しそうに涙を流す。


セピアの頬は濡れていた。


「エリーおばあちゃん……」


エリーは、そっとセピアを離すと綺麗に梱包された紙の包みを手渡す。


「クッキー、持っていきな」


セピアは紙の包みを見つめる。


「今日から私達の女王様なんだから、しっかりしておくれ」


セピアは二回、三回と頷き、馬車へと戻った。


扉がパタンと閉じると、馬車は再び動き出す。


民衆が途切れる橋の上で、セピアは包みを開いた。


中には、クッキーが十枚入っていた。


一枚取り出し、一口かじる。


口の中に広がる、小麦の香りと砂糖の甘さ。


「……やっぱり、おばあちゃんのクッキーは格別ですわ」


セピア・エル・グラディアは涙を拭き、前を向いた。


街に入ると、見慣れた人々の顔が広がる。


肉屋の女将、商店の人々。


笑顔で手を振る。


エマを見つけると、その隣に大きな男の子が立っていた。


その姿を見ながら、手を振る。


「大きくなりましたわね」


各地を巡り、帰りの橋を渡ると、再びエリーの姿が見えた。


頭を下げて見送るエリーに、セピア・エル・グラディアは笑顔で手を振る。


通り過ぎたあと、頬を涙が伝った。


そっと拭うと、前を向く。


セピア・エル・グラディアは、女王としての一歩を踏み出した。

今回は、セピアの即位


どうしたら、皆にセピアの心情が伝わるかなって思いながら書きました。

王になる孤独と、託された思い。


そして、決意。


なかなか、案を文字にするのは大変でした。


次もちゃんと書けたらいいな。と、思っていぬ(わん!

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