セピア・エル・グラディア③
人々の慌てる様子を見ると、セピア達はお店の外へと出た。
人々が逃げてくる方に目をやると、屋台が1軒赤く燃え上がっている。
油に燃え移ったのか、炎はますます大きくなっていく。
「危ないぞ!近づくな!逃げろ!」
叫び声が危機を伝えている。
井戸から桶を持って一人の男性が駆け寄ってくるが、足をもつれさせて地面に転んでしまった。
水は地面にばらまかれてしまう。
炎は隣の屋台にも、手を伸ばしかけている。
セピアはその様子を観察する。
炎は人の手では抑える事ができない程に、大きくなっている。
その時だった。
「助けて!!!」
屋台から女性の声が聞こえた。
「誰かいるの?」
セピアの胸が跳ねる。
セピアは一瞬躊躇するも、水の精霊の力を使う。
手から出てきた水は溢れんばかりの渦となり、1本の水柱を形成し屋台へと向かっていく。
水が熱を奪う音が聞こえると、黒い煙は白く空に広がっていく。
炎が小さくなると、桶を落とした男性が屋台へと走る。
セピアは自分の手を見つめると、燃えた屋台へと視線を移す。
「よかった…」
セピアが胸を撫で下ろすと、鼓動が高鳴っていることに気がついた。
「エマ!!!大丈夫か!!!」
男性が駆け寄ると、女性が倒れていた。
セピアは恐る恐る近づいた。
女性は横に倒れている。
煤にまみれ、腕や背中が赤く腫れていた。
セピアはその様子を見ると、自分の手が震えている事に気がついた。
「セピア…」
レオンが名前を呼ぶ。
セピアは倒れている女性を見ながら震えている。
しかし、口をキュッと結ぶと、女性に近づいた。
「わたくしが治します。」
皆がセピアに注目する。
エマの前に膝をつくと、彼女の傷に手を触れる。
「癒やしの精霊よ。この者を治し給え。ヒーリング」
その言葉と共に、手のひらからエメラルドグリーンの光が彼女を照らす。
赤く腫れていた傷は、次第に薄れていく。
その様子を見ていた人々は、安心に満ちた呼吸をする。
「…ありがとう」
エマは力ない言葉でお礼を言うと、街の病院へと運ばれていく。
セピアはその場に座ったまま。
「…レオン、立つの手伝っていただけますか?腰が抜けてしまいました」
少しはにかみつつ、セピアは言った。
レオンがセピアに手を貸すと、ヨロヨロと立ち上がる。
「まだ、手が震えてます」
セピアを見ると、手どころではなく全身が震えていた。
「さすが皇女様だ。家で休んでいけ」
酒屋のビルが二人に声をかける。
市の活気が戻りつつある。
二人は再び、ビルのお店に入っていった。
席につくと、セピアは両手でコップを持つ。
震える手で、飲み物を口へと運ぶ。
「しかし、凄かったな。やっぱりこの国の未来の王様だ」
ビルが言うとセピアははにかんだ。
「でも、わたくしは怖かったですわ。もしも、誰かが亡くなったりしたら、立ち直れそうにもありませんでした。」
そんなセピアにビルは言う。
「エマさんはな、お腹に子供がいるんだよ。」
セピアはビルの方を向く。
「え?そうだったんですの?」
「ああ、だから、セピアちゃんが救ったのは、エマさんだけじゃない。お腹の中の子供も、救ったことになる。」
「スゲーやセピア。二人も同時に救えたなんて」
セピアはほっと胸を撫で下ろした。
自分が救った命の重さは、未来を繋げる力だった。
城の鐘が鳴る。
3回、3回、3回
「…バレましたわ!」
セピアは立ち上がる。
セピアが城から抜け出した時に鳴らされる鐘の音。
「あー、今回は少し遅かったな。新記録じゃないか?」
いつもは早く給仕が気がつく。
しかし、セピアは少しベッドに細工をしていた。
「近衛が城から出る前に、戻りますわよ」
ビルは笑顔で見送る。
「おう!気をつけて戻れよ」
ビルが言うと、セピア達は店を出て走り出す。
外にいた人々は、セピア達に声をかける。
「転ぶんじゃねーぞ」
「元気でね。また来るんでしょ?」
そんな声が、セピア達にかけられていた。
街の石だたみはでこぼこで、走りづらい。
レオンもまた、セピアに続く。
何回かセピアと行動をしていた為か、レオンも慣れていた。
走るセピア達に手を振る人々。
皆笑顔で見送ってくれる。
この国の当たり前の光景は、昔から変わらない。
大きな橋を走り渡る。
釣り人が二人に手を振る。
セピアは釣り人に笑顔で手を振り返す。
鐘が鳴ったらセピアが走って橋を渡るのを知っていた。
エリーが岩の上に腰掛けているのが目に入る。
お城に続く道、鐘が鳴るとエリーはここで毎回セピアを待っていた。
「エリーおばあちゃん!銀板使わなかった」
エリーの前で立ちどまると、セピアは銀板を取りだす。
「まったく、いつもいつも懲りないねぇ」
エリーは嬉しそうにセピアと話す。
「だって、わたくしの楽しみの1つですもの」
セピアの笑顔を見送ると、銀板は別の袋に入れられた。
城壁の門が開いている。
見ると近衛の騎兵隊が用意されているが、門を出ようとする気配は無い。
セピアは少し気まずそうに門へと入る。
「殿下!困ります!毎回毎回お城を抜け出すなど」
騎兵の声は大きいが、目は決して怒ってはいない。
「申し訳ありません」
セピアが言うと、騎兵は穏やかに話す。
「街での事、ご立派でした殿下」
セピアは目を丸くする。
近衛は既に街での火事の事。そして、人を助けた事を知っていた。
「王がお呼びです。」
セピアは玉座の間に向かう。
「陛下、ご機嫌麗しゅう」
「おかえり、セピア」
威厳を放つ王の迫力。
しかし、娘のセピアを前に、父親へと戻る。
「今日は大変だったな。怪我はなかったのか?」
「はい、大丈夫でしたわ。街の方が怪我をしてしまいましたが、なんとか救うことができましたわ」
王は頷くと
「そうか。我が娘ながら、立派になったな」
その言葉を聞くと、セピアは頭を下げる。
「ありがとうございます。お父様」
セピアを見つめる瞳は、とても誇らしげに輝いていた。
やっと、ここで前半って感じでしょうか。
整理しつつも、こんな感じでいいかな?とか
いろんな考えが浮かんでいました。
また、近く更新できたらいいな。
まだまだ、第二章は中盤です。




