第一章、キャンプ場で
大きなリュックを背負い、立ち止まると前の紐を締め直し、また歩き始める。
「空が青い」
いつもは駅までの道を急いでいるが、アスファルトの切れ目から雑草が顔を覗かせているのがよくわかる。
周りの景色を見ながら歩くと、普段とは違う景色に見える。
仕事の帰り道で開いているお店のシャッターが閉まっている。
シャッターには浮世絵を模した絵が書いてあったり、歩道の植木からは雀が顔を覗かせている。
いつの間にか、人が増え始めた。向かう先は皆同じ。
駅がある。
人々の流れに身を任せて歩くと、駅の看板が目に入る。
発車メロディの音が聞こえるが、急ぐ必要がない。
電車が駅に入ってくる車輪の音が聞こえる。
ブレーキと共に、モーター音がだんだんと低くなり、やがて止まる。
しかし、沙紀は歩みを早くはしない。
改札に近づくと、独特のチャイム音が聞こえる。
半地下になっている通路は、歩くと靴音が響いて聞こえる。
改札のリーダーにカードをかざすと、ラッチが開く。
人の流れに自然と身を任せ、通路を歩く。
人々はエスカレーターを選ぶが、沙紀は階段を選ぶ。
少しリュックが重いが、そこまで気にならない。
登りきるとホームがある。
発車メロディを聞きつつも、急ぐ事はない。
都内の電車はすぐにくる。
ホームの中央に自動販売機がある。
チョコレートやお菓子を買える自動販売機。
気になったチョコレート菓子を買うと、リュックのポケットにそれを入れた。
駅のアナウンスが
次の電車が到着する事を伝えると、すぐに電車が滑り込んできた。
朝も少し早い時間、休日と言う事もあり、余計に人は少ない。
電車が止まると、開閉チャイムを鳴らしながら扉が開く。
降りる人はまばらで、目の前の扉からは降りる人はいない。
ホームと電車の隙間に注意しつつ、電車へと乗り込んだ。
席に座れる程空いている。
リュックを降ろすと、沙紀は真ん中よりの左側へと座った。
扉が閉まるアナウンスが聞こえると、車内は外の音を遮断する。
少しづつ、電車の速度が上がる。
普段座れない席は、いつもよりも空いている。
線路を繋ぐ音が心地良い。
沙紀は少し目を瞑る。
「どうか、今を救ってほしい」
誰かに言われた気がした。
目を開けると、外の景色は変わっている。
山は一面緑色。
長い間寝ていた様だ。
リュックのポケットに入れていたチョコレートを取り出すと、封を切り、1つ取り出す。
包装紙を取ると、口の中に入れた。
「今の声、気のせいかな」
電車の中は長椅子となっており、正面には大きな窓から景色を堪能できる。
都会を越えて、電車はいつの間にか郊外へと来ていた。
隣の席には人は座っていない。
後ろを振り向くと、また違った山の景色を見る事ができる。
次の駅を知らせるアナウンス。
降りる駅まであと少し。
沙紀はスマートフォンを取りだすと、外の景色を写真におさめた。
電車はゆっくりとホームに止まった。
リュックを担ぐと、沙紀は電車を降りる。
外の空気は少し冷たい。
街とは違い、郊外では澄んだ空気を感じることができた。
駅のホームを歩き、階段を降りる。
無人駅。
改札は無く、柱にタッチ用のパネルが付いていた。
カードをタッチすると、外に出た。ロータリーがある。
タクシーが数台つけ待ちをしているくらいで、人は数人歩いている程度。
都会の雰囲気とは違い、なんか落ち着いた雰囲気を感じる。
沙紀はバスの時間を確認する為に、バス停へと向かう。
時刻表を見ると、つい5分前にバスは出ていた。
「あー、行っちゃったあとか」
沙紀はベンチに腰掛けると、リュックを下ろす。
リュックのポケットに入れておいたチョコレートを1つ取りだすと、包装紙を取り口へと運ぶ。
時刻表だと、あと40分は待つ必要があった。
「少し歩こうかな」
沙紀は立ち上がるとリュックを背負い、歩き始めた。
商店の人が掃き掃除をしている。
ロータリーの車止めには、雀の形をした装飾が3羽とまっている。
珍しい物を見たので、スマートフォンを取りだすと写真におさめた。
「こんなにかわいい装飾なら、こっちの駅にもつけてほしいな」
そんな考えをいだきつつ、次のバス停を目指す。
少し狭い歩道を歩いて行く。
コンビニもあるが、個人商店が多い。
シャッターは開いており、もう営業している。
一つ目のバス停を横目に、進んでいく。
遠くの方から犬の散歩をしているおじいちゃんが近づいてくるが、すれ違うのはまだまだ先だろう。
結構歩いただろうか。
さっき前にいたおじいちゃんは、もう後ろの方で小さくなっている。
自動販売機を見つけるとお金を入れた。
喉が乾いたのだ。
電車に乗った頃から、何も飲んでいない。
そのまま歩き続けると、流石に喉が渇く。
自動販売機からお茶を取りだすと、少し強めに蓋を回す。
とても冷たく冷えたお茶を一口飲み込む。
「ふぁー美味しすぎる」
蓋を締めるとリュックのサイドポケットにお茶を入れた。
バス停に到着するとベンチに座る。
空を眺めつつひと息ついた。
「天気が良くてよかった」
バス停の時刻表を見るといい時間になっている。
数分もするとバスが到着した。
沙紀はバスに乗り込むと、タッチパネルにカードをかざす。
バスはとても空いていた。
1番奥の席に座るとスマートフォンを取り出した。
バスの車窓から見える風景を写真におさめる。
山の間の街道は、山の大きさに迫力があり、圧倒される。
渓谷を抜けると橋があり、下に川が流れている。
魚が泳ぐ様子が見れるほどに、水は澄んでいた。
バスの降車ボタンを押す。
バスはゆっくりと停車した。
料金箱のカードリーダーにタッチすると、バスを降りた。
キャンプ場へは後は徒歩ルート。
歩道を少し歩くと、キャンプ場へと続く道がある。
角を曲がると森が広がっている。
広葉樹は太陽を隠すが、風によってチラチラと顔を覗かせる。
鳥の鳴き声に、枝や葉のこすれる音。
じゃり道は、沙紀が歩くと石の擦れる音が響く。
木のトンネルを抜けると、コテージが1軒建っている。
「こんにちは、今日予約していた篠宮です。」
受け付けの窓越しに声をかけると、40代程の女性が立っていた。
「ようこそいらっしゃいました。先払いになりますけどよろしいですか?」
「はい」
腰につけたウエストバッグのチャックを開けると、財布を取りだす。
「2000円になります。」
沙紀はお金を取りだすと、受け付けの女性へと手渡す。
「ここのキャンプ場では、焚き火をする時に焚き火台を使用してもらうんですけど、持ってますか?」
「はい、大丈夫です。」
すると、受け付けの女性はコテージの横を指差しながら言う
「そこにある棚から薪をひと束サービスで使用できますから、その薪を使ってください」
「あ、はい、わかりました。ありがとうございます」
沙紀はリュックを下ろすとチャックを開け、軍手を取り出した。
リュックを背負い、軍手を手にはめながら棚の前えと足をはこぶ。
薪はしっかりと乾いており、小さく割って火をつければすぐに燃えてくれそうだ。
「よいしょ」
少し重い薪は針金でしっかりと束ねられており、少しの振動でも地面にばら撒きそうにはない。
手で持っていこうとしたが、受け付けの女性に声をかけられる。
「そこのカート、使っていいですよ!使ったら戻しておいてください」
「ありがとうございまーす!」
薪をカートに載せると、そのままテントを設営する場所を探す。
自然を感じられ、そして日当たりからも影で守って貰えそうな場所。
数十メートル歩くと、すぐに見つかった。
「ここにしよう」
薪とリュックを置くと、カートを元の場所へと戻した。
設営場所に戻ると、リュックからシートを取りだす。
リュックの中味を出す為だ。
リュックの中には簡単に設営できるテント、椅子、机にランタン、寝袋など、キャンプに必要な物が入っている。
テントの袋を開けると、中味を取りだす。
中敷きを敷くと、その上にテントを広げる。
テントの骨組みを通すと、角にある穴へと骨組みを端を入れる。
4ヶ所繰り返すと、テントが立ち上がった。
そして、ペグを打ち込んでいく。
沙紀は1人キャンプを趣味でやっている。
有給と週休を取ると、5日程の休みが取れる。
手慣れた様子でテントを設営すると、テントの中にシートを敷いた。
「うん、完璧〜」
自画自賛しつつ、次は焚き火台を組み立てていく。
リングに棒を4本通すと、パスタを茹でる要領でくるりと4足にし、鉄の網を載せた。
「焚き火台も完了〜」
ウキウキしながら、どんどんと設営していく。
とても手慣れていた。
全ての道具を設営すると、ファイヤースターターとペティナイフを取り出した。
薪にナイフを当てると、そのまま他の薪で数回叩く。
小さくて細い薪を大量に生産していく。
その小さくした薪を削る。
細かくした木くずに小さくした薪を重ねて置くと、辺りをキョロキョロ見渡す。
「いいところに落ちてるじゃんか、きみ」
落ちていた松ぼっくりを拾うと、重ねた細かい薪の上に置いた。
そして、ファイヤースターターを数回擦ると、小さな火がついた。
その火種は少しづつ大きくなる。
このまま小さな火は大きく成長していく。
「初めての時は、全然できなかったんだよねぇ」
焚き火台の前に置いた組み立てられた椅子に座ると、焚き火を見張る。
鳥のさえずり、風が吹くと葉の擦れる音、そして焚き火の薪が弾ける音。
リュックの網ポケットに入っていたお茶を取りだすと一口飲んで、小さなテーブルの上に置いた。
何も考えず、何もしない時間は、癒やしだ。
空を見ると、いつの間にか太陽が沈もうとしていた。
沙紀は小さな鍋を持ち、コテージにある水道へと向かう。
鍋に水を入れると、設営場所へと戻った。
携帯コンロに火をつけると、鍋を置いた。
リュックから取り出したのは、パックご飯とレトルトカレー。
移動や設営で疲れた彼女は、今日はこれにしようと思って持ってきていた。
パックご飯とレトルトカレーをボイルする。
辺りの静けさは、焚き火の音と携帯コンロの音と湯の沸騰する音しかしない。
温まったご飯を器に移し、カレーをかける。
美味しそうな匂いが、辺りに広がる。
「いただきまーす」
カレーライスをスプーンですくうと口へと運ぶ。
「んまっ」
自然と笑顔になってしまう。
自然の中で食事をするのが、こんなにも楽しいと感じたのは、初めてのキャンプの時。
それは沙紀にとっては最高のストレス解消方でもあった。
食べ終わる頃には、辺りは真っ暗になっていた。
空を見上げると、星がとても綺麗だった。
コテージの横にある水道で食器を洗うとテントへと戻る。
寝ようと思って寝袋に入ろうとすると、すすり泣く声が聞こえた。
「え?幽霊?」
沙紀は好奇心の方が勝ってしまった。
スマホの動画を起動すると、ライトを片手に森へと足を踏み入れた。
「本物映ったら、これはこわすぎる」
心臓の音が聞こえる。
後ろを振り返ると、しっかりと自分のテントが見える。
沙紀はもう少し森の奥へと歩みを進める。
さっきまでなかった霧が、壁の様に立ちはだかった。
鳴き声は子供の声
「え?子供が迷子になってるの?助けないと!」
沙紀は霧をものともせず、奥へと奥へと歩を進める。
そして、見つけた。
朽ち果てた巨木の根本の空洞。
子供が横たわっていた。
第一章は、頭に映像が流れる感じで書いてみました。
そして、考えながらでも映像が止まらない感じで読めるように。
次の更新は、来週くらいを考えています。




