壊れる精霊国家 ⑩
「ありがとう」
セピア・エル・グラディアはティーカップを手に取ると、ゆっくりと口へと運ぶ。
「今後、状況によっては侯爵も交えた会議を行います。」
ティーカップをゆっくりと置くと、ローディアス伯爵へと視線が移る。
ゆっくりと息を吐く。
「わかりました。」
ローディアス伯爵は羊皮紙を一枚手に取る。
「現在のところ、予測の計算となっております。ですので、万が一にも不測の事態が発生しないとも限りません。」
ローディアス伯爵は顎に手を当てる。
「状況によっては、計算はやり直します。それは、判断材料としてお使いください。」
セピア・エル・グラディアは、ゆっくりと頷いた。
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街が朝日で照らされる。
北の街の王室倉庫に近い邸宅に、馬車が一台用意されている。
邸宅のドアが開くと、背の高い片眼鏡の男が出てくる。
アンディー・ローは馬車に乗りこむ。
馬はブルルっと鼻を響かせる。蹄の音と車輪の音。
アンディー・ローは国境の門へと向かう。
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国境の門の広場。
人々がお腹を空かせ、広場に座り込んでいる。
街に支援を要請したが、小麦が少なくパンが人数分用意できない。
今ある分は配ったが、全員には行き届かない。
難民達はお金は持っていた。
しかし、お金では解決できない。
無いのだから、買える訳がない。
国境への道を馬車が数台走っている。
北の街の王室倉庫から、国境の門へと運ぶ為。
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会議の結果はアンディー・ローへと早馬で伝えられた。
手紙を読むと、すぐさま馬車へと小麦が積まれる。
人々が寝静まった頃ではあったが、その馬車は国境の門へと向かった。
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小麦を積んだ商人の馬車が走っている。
暫くすると、検問所があった。
馬車は検問所で止められた。
「中を確認したい」
兵士が馬車に歩み寄り、馬車のホローを捲る。
「これは小麦か?どこで入手した?」
「…グラディア王国の北の街で……」
兵士は眉間にシワを寄せた。
その報告は、ノルディア王国の王城へと伝わった。
「グラディア王国の収穫は毎年豊作と聞きます。きっと、我が国を救えるだけの食料を持っているはずです。グラディア王国に支援を頼んでみてはいかがでしょう?」
「そうだな。民は飢えている。頼んでみてはいかがか?」
ノルディア王は眼を瞑ったまま、何も言わない。
「……食料を支援してもらい、グラディア王国の畑を今ある財で買うのが宜しいのではないでしょうか?」
発言をした人物に、皆の視線が集まった。
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馬車に軍の調理兵が乗っている。
国境の門でパンを焼くため。
暫くすると、数台の馬車が合流した。
この馬車には王室倉庫の小麦が積まれている。
「こんなにあるのか。千人分のパンなんて、初めて焼くな」
「うちの女王様は、国の民以外にも優しいのか」
兵士達は笑いあう。
太陽は雲の隙間を見え隠れする。




