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疲れてたんだって

「ねぇーみんなでお嬢様言葉縛りしよ!」

 また月乃が妙な事を言い出したな……

俺はため息をつきながら月乃を見る。

 どうせ何かに影響を受けただけだろう。

「なんでだよ。それより宿題があんだろ?早くやれよ。」

 つつじなんて月乃の言葉に一切耳を傾けず、ノートから視線一つ動かさなかった。

コイツがお嬢様言葉とかやり出したら面白いだろうが、絶対やらねぇだろうしな。

「ええ〜、やろうよぉ!」

「なんでだよ。」

「面白そうじゃん!」

 一体なんの影響を受けたんだコイツは。

一度言い出すと面倒なんだよなぁ。

 月乃は最早宿題の手を止めている。

やるまで手を動かさないつもりか。

「お嬢様言葉縛りってなぁに?」

 フェレス(コイツ)に至ってはそもそもお嬢様言葉が何かすら分かってねぇのか。

「メリーちゃんみたいな喋り方するの!」

「俺は絶対やらねぇからな。」

「えぇー。」

「あかね!月乃さまが言っているんですわ!やりなさい!」

「嫌だよ!」

 普段からお嬢様言葉のメリー(コイツ)はいいだろうが、流石に俺がやるのはキツイもんがある。

 何百歳だと思ってんだ。

下手をしたら桁が違うぞ。

 割と長生きな自分の年齢を数えるのなんてとうの昔にやめたが、俺は結構長生きだ。

まだまだ生きられるし、結構な時間生きてきた。

 そんなある意味ジジイとでも言える年齢のやつにお嬢様言葉なんてやらせんな。

「じゃあつつじ〜、やろうよ〜。」

「コイツがやるわけねぇだろ。」

 さっきからこっちの話を聞いているのかすら怪しい速度で手を動かしているつつじがこんなもんに付き合うはずがない。

ただでさえ最近忙しいだのなんだの言って死んだ目してたのに、こんなんに付き合うような奴でもない。

 今だって部屋で勉強したがってたのを月乃が無理やりリビングまで連れてきたんだ。

月乃の我儘を聞くはずねぇ。

「つつじがやるんなら俺だってやってやるよ。」

「言いましいたわね!?」

 どうせやらないだろうとタカを括って言うと、メリーが勢いこむ。

どうせつつじはやらねぇよ。

「ねぇ〜、あかねもこう言ってるしやろうよつつじ〜。」

 月乃が呼びかけるが、つつじは顔も上げない。

普段ならせめて話してる奴の方を見るくらいはするんだがな……

 よほど集中しているのか疲れているのか、ここまで話を無視するのも珍しい。

様子がおかしい気がする。

 その事を伝えようと、俺は月乃の方を向く。

「月乃、」


「いいですわよ。」


 時が止まった。

今の、メリーじゃなかったよな?

「つ、つつじ?」

「あら?どうかなさいまして?」

 ようやく顔を上げて俺たちの方を向いたつつじは、いつも通りの真顔。

だが口調だけは完全にお嬢様口調だ。

「は……?」

「やってくれるの!?」

 俺の掠れた声は月乃の喜びにかき消された。

つつじはそんな様子を見ながらふと視線を俺に合わせる。

「惚けたお顔をしていないで、何か仰ってはいかが?」

「ちょっ、待て、お前、真顔やめろ。」

 真顔で完璧な発音の優雅なお嬢様言葉が他でもないつつじから発せられている事がジワジワきた。

「つ、つつじ、なんでそんなこなれてるの?」

「月乃ちゃん、口調。」

 フェレスに指摘された月乃は慌てて言い直した。

発案者が縛り忘れんなよな。

「つ、つつじお嬢さま、どうして慣れていらっしゃるの?」

「ジュニアハイスクールで嗜んでおりましたの。」

「ジュッ、ジュニアハイスクール……」

 じゅにあはいすくーるが何かよくわからねぇが、月乃が腹抱えて笑い出した。

これは、不味いか…?

「あ、あかね、つつじがやったらやるお約束でしたわよね?……あはははははははっ!」

 メリーまで笑い転げはじめた……

残っているのは俺とフェレス、問題のつつじだけになった。

「あ、あかねお嬢さまもふふっ、なんか、あはっ、喋って、ふっ、……ふふふっ。」

「さっきつつじがやったらやるって言ってたよね。」

「あかね、約束は約束ですわよ!」

 笑い死にそうになりながらもしっかりとお嬢様言葉を強制してくるフェレスとメリーに文句でも言いたかったが、自分がやるといったのだからここで文句を言うわけにはいかなかった。

「仕方ないですわ。やってあげますわ。」

「あら、あかねお嬢様、解像度が低いですわね。」

「むしろ解像度高い方が嫌だろ……ですわ。」

 普段のメリーの口調を思い出して喋ってみたが、そう上手くはいかねぇ。

反対に、俺に解像度が低いと言ったつつじは、無表情ではあるが言葉に違和感はない。

「つつじはなんでそんなに洗練されて…いますの?」

 月乃も俺と似たり寄ったりか。

ボロボロのお嬢様言葉を聞いてなぜか安心している自分に悲しくなってきた。

「淑女の嗜みですわ。ねぇ、メリーさん。」

「そうですわ!まさかつつじがここまでできるとは思いませんでしたわ。」

 なぜか満足そうなメリーはいい笑顔をしている。

どうせ、うまく喋れない俺達が面白いのだろう。

「面白いね、お嬢様言葉縛り。」

 しれっとお嬢様言葉で話していないフェレスに何か文句でも言いたかったがこの口調で文句を言っても響かないだろうし、なんなら墓穴を掘りかねねぇ。

 俺はこの時間をなるべく無言、無心で過ごす事を決心した。




後日、つつじにお嬢様言葉縛りを受け入れた理由を聞いてみると


「マジで疲れてて脳が死んでただけだから気にしないで。」


と言われた。

 アイツ大丈夫かよ。

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