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プロフィール帳 小戸路先生 裏

「あらぁ?あの二人は帰っちゃったの?」

 月乃達と入れ違うように図書準備室に顔を出したのは、月日出先生だった。

「ごめんなさいねぇ、さっき連絡を忘れちゃって。」

「いえいえ、お気遣いなく。」

 胡散臭い笑顔を浮かべる小戸路先生は月日出先生に席を薦める。

「あら、じゃあちょっと長居しちゃおうかしら。」

 そう言って先ほど月乃が座っていた席に座った。

そこで机の上に置きっぱなしになっていたプロフィール帳が私の目に入った。

 忘れて行ったのか、月乃。

「それで、連絡というのは___」

「ん〜、その前に、しゅうくん、いつまで経っても演技のままなんて寂しいじゃない。」

「はい?」

 月日出先生の何気なさを装った一言で、小戸路先生は凍りついた。

あ〜あ、あれだけあからさまに凍りついたらもう言い逃れできないだろうなぁ。

 私とキリカさんは目を合わせ、無言で意思疎通をとった結果、成り行きを見守るという方針を可決した。

「しゅうくん、いつもニコニコしてていい男だけど、本当はもっとクールなんじゃない?」

「は、はぁ。」

 小戸路先生は何を言われているのかわからない、といった体でかわすつもりらしい。

確かに、これなら先ほど凍りついたことが誤魔化せる。

 しかし、月日出先生の方が一枚上手だった。

「ねぇ、そう思わない?」

 そう言って月日出先生が水を向けてきたのは、私達の方だった。

「え、っと、そう言いますと?」

 私は今きっと引き攣った顔をしている。

まさか私達の方に振ってくるとは思わなかった。

「つつじちゃん、いつもしゅうくんになんて呼ばれてる?」

「山瀬さん、ですけど……」

 胡散臭い笑顔の時、確か小戸路先生は私をそう呼んでいたはずだ。

「キリカちゃんは?」

「呼び捨て……ですよね?」

「うん、そうだね。」

 私の言葉に答えたキリカさんの声を聞くと、月日出先生の唇が弧を描いた。

「でも、さっきしゅうくんはキリカちゃんの事、キリカくんって呼んだわよねぇ。」

「た、たまたま他の先生と呼び方が混ざったんですよ。」

 小戸路先生が胡散臭い笑顔で言うが、最早言い逃れは難しい。

「あら、そう?」

 月日出先生は目を細めて笑っている。

この先生、怖いな。

 もう大人しく演技ですって言った方が身のためだろう。

しかし、小戸路先生は粘るつもりのようだ。

 そのうちバレるだろうけど。

そんな風に他人事に思っていたのが見抜かれたのだろうか。

月日出先生の次の標的は私だった。

「つつじちゃん、しゅうくんって真面目よねぇ。」

 何気なく向けられたその言葉に、私は一瞬油断した。

「そうです……か?」

 どうなんだ?

思わず明言を避ける。

 普段の眼鏡をかけて敬語の無表情で話す小戸路先生は、気苦労が多そうではあるが、真面目ではない。

かと言って、演技の軽薄で胡散臭そうな感じも真面目と言っていいのか分からない。

というか、無表情の方を見慣れすぎて胡散臭い笑顔の方は殆ど記憶になかった。

「真面目よぉ。だって、お仕事ちゃんとやってるもの。」

「仕事をするのは普通ですよ。お給料貰ってるんですから。」

 呆れた風を装っているが、小戸路先生の表情には僅かに焦りがある。

月日出先生もそこは見逃さなかったようだ。

「でもいつも放課後に生徒達と遊んでるわよね。」

「別に遊んでいるわけでは……」

「アタシだって遊びたいのよ?だって、普段と違うしゅうくんとつつじちゃんが見られるもの。」

 あっ、私もやばいかもしれない。

笑っているが目は笑っていない月日出先生は、その切れ長な瞳で私と小戸路先生を見ていた。

 小戸路先生の演技を見破りに来たのかと思ったら、私も獲物のうちか。

ならば小戸路先生と結託してどうにかするしか____

「ああ、確かに山瀬さんはここに来ると結構遠慮なくなりますね。」

 速攻裏切りやがったこの教師。

「小戸路先生だって人のこと言えませんよね?」

 月日出先生相手に一度の失言は致命傷だと悟った私は即座に小戸路先生を打った。

売ったというよりは死なば諸共、という感じが強いが。

「あら、やっぱり?」

 艶っぽく笑う月日出先生を見る限り、やはり逃げ場はない。

「しゅうくん、つつじちゃん、もう諦めた方がいいんじゃない?」

 完全に面白がり出したキリカさんの一言が決定打だった。

「はぁぁ。」

「あら、しゅうくんのそんなため息、初めて聞いたわ。」

 観念した小戸路先生を見て満足そうに笑う月日出先生はぽむ、と小戸路先生の肩を叩いた。

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