プロフィール帳 小戸路先生
「しゅうくん、さっきの職員会議だけど……」
「生徒たちの前でくん付けはやめてくださいよ。」
「あらぁ、ごめんなさいねぇ。まさかこんなに人がいるなんて思わなくって。」
そう言ってやけに艶っぽく笑うこの四角い眼鏡の先生は、保健室の先生兼保険の教科担任の月日出先生だ。
ガタイがよく体育の先生だと思われがちで、男女問わず人気の小戸路先生と同じく人気の先生である。
ちなみに、こんな話し方だがどこをどう取っても男性。
特別髪が長いわけでもなければメイクも……多分………、していないし、服装も一般的に男性が着ていそうなもの。
それゆえにその独特の話し方はネタだと思われ人気が出ている。
「こんな時間に何やってるの?委員会のお仕事?」
図書委員会の仕事、という名の図書準備室での雑談の最中に顔を出した月日出先生は、小戸路先生に用があったらしいが、こんな時間まで残っている私たちの方に興味を持ったらしい。
まぁ、確かにこんなさして広くも無い場所にいつものメンバー三人に加えて月乃にハラキさんまでいるのだから当然の反応だが。
もとより狭いと思っていたが、ガタイが良い月日出先生もいると男女比も相まってさすがにむさい。
「ちょっと生徒にこれを書いて欲しいとねだられまして。」
そう言って胡散臭い笑みを浮かべた小戸路先生はいつかも見た気がするプロフィールを書く紙を見せる。
「あらぁ〜、いいわねぇ、そういうの。懐かしいわ。」
「ランちゃんもやれば〜?」
「キリカ、先生には先生をつけろっていつも言ってるだろ。」
小戸路先生はキリカさんの軽口に注意はしているが、あくまでも軽い。
ちなみにランちゃん、と言うのは月日出先生の下の名前、空蘭から来ている。
「アタシはまだやる事があるの。」
艶然と人差し指を口元に寄せて笑いながら、月日出先生は軽やかに図書準備室を後にした。
何しに来たんだ、あの先生。
「まだ何も聞いてないんだけどなぁ……。」
月日出先生は行ってしまったが、月乃達がいる手前演技を崩せない小戸路先生は困った様な胡散臭い笑顔を作る。
「そんなことより!書けた!?まだ!?」
「あー、できたできた。」
ハラキさんに急かされた小戸路先生は書き上がったばかりの紙を机の上に滑らせた。
名前 小戸路 愁
誕生日 11月7日
年齢 二十四
血液型 O型
身長 169センチ
体重 60キロ
朝はご飯派
好きな食べ物 サンドイッチ
嫌いな食べ物 パセリ
好きな色 黒
職業能力パラメータ
職業 教師
熟練度 まだまだ
先輩度 この学校に後輩の先生いないな
後輩度 花車先生以外はみんな先輩だから高いんじゃないか?
しごでき度 熟練度と何が違うんだ?
この職業について一言! 私学のくせに給料ショボい
周りの人に聞いてみよう
あなたを動物に例えるなら?
あなたが怒ったらどんな感じ?
この人を飲み物に例えると?
フリスペース
勉強しろと赤ペンで書いてある
「なんか、私が月乃にやらされたのと中身だいぶ違くない?」
私の時は周りの人に聞いてみよう欄全然違うぞ。
しかも、職業能力て。
「これ大人向けなんだー。」
「しゅうくんってO型なの!?絶対Aだと思ってた!」
「分かる!」
月乃とハラキさんがわちゃわちゃやり始めたのを皮切りに、各々の感想を言い合い始めた。
私も適当に話を合わせていたが、小戸路先生は絶対に本当の事書いてないだろうなと思っている手前あまり深いことは言えなかった。
「じゃあ、周りの人に聞いてみようやろ!」
「おっし、じゃ動物からな!しゅうくんの動物かぁー。」
ハラキさんと月乃がうーん、と唸りながら考え始める。
時間がかかるかと思ったが、、すぐにハラキさんがわかった!と声を上げた。
「レトリバー!」
「ふっ……」
思わず吹き出しそうになった私は悪くない。
キリカさんも吹き出しそうだし。
「あれ?山瀬さん、キリカ、どうかしたか?」
小戸路先生が圧をかけてきたので咳払いをしてなんとか誤魔化す。
しかし、それでも堪え切れるか怪しい。
なぜなら、普段月乃達がいない時は無表情、無感情といった感じで割とやる気なさそうな小戸路先生の様子をレトリバーに投影したら、なんかやる気なさそうな大型犬が思い浮かんでしまってあまりにもシュールだったから。
おそらく似たようなものを思い浮かべているであろうキリカさんも私と同じように必死に耐えているのが視界の端に見えた。
「いっつも話しかけてくれるし、誰にでも話しかけるだろ!」
「確かに、分かる!でも、わたしはクアッガかな。」
「「ふっは」」
「どうかしたかな、二人とも。」
「「いや、なんでも。」」
軽く吹き出して注意された私達に、月乃のハラキさんは不思議そうにしながらもスルーしてくれた。
反対に、私とキリカさんは小戸路先生の圧を受けながら必死に笑いを押し殺している。
クアッガは、確かシマウマの仲間の絶滅危惧種だったはずだ。
そんなもんを出してくるなという笑いと、小戸路先生がシマウマという二重の笑いに耐えられそうになかったので、私はなんとか次の話題を振る。
「つ、次、次行きましょう。」
「ほら、ハラキくん、次は怒った感じだって。」
「しゅうくんおこんなそうだからムズイなー。」
そう言って先ほどよりも悩み始めた二人に、私とキリカさんは二人して遠い目をしていた。
おそらく思い出しているのは小戸路先生は別に怒っていたわけではないが、とんでもなく圧をかけられたコミズサマ調査の時の事だろう。
私はその後逸れたことについて怒られている為、余計に思い出したくない。
そんな私達をよそに、しばらく真剣に悩んでいた月乃とハラキさんだが、やがて力尽きたのか大声でパスを宣言した。
「しゅうくん、注意はすると思うけど、あんま怒るイメージないわ。」
「注意以外聞いたことないし……難しい。」
というわけでこれはパスとなった。
「三つ目は飲み物か。」
「飲み物……スポドリ?」
「キリカくん、しゅうくんを体育会系だと思ってる?どう見たって文化系じゃん。」
「これでも元水泳部だ。」
「「マジ!?」」
「じゃあやっぱスポドリじゃん!」
「確かに、しゅう先生飲み物にしたらいつでも飲めるものになりそう!」
なんかよくわからなかったがスポーツドリンクに決まったらしい。
「あっ、やべぇそろそろ部活行かなきゃ!」
「あっ、わたしも今日部活ある!」
「忘れてたの?」
「ごめんつつじ!後で迎えにくるから!」
「廊下走るなよー。」
嵐のような勢いで二人は廊下へと駆けて行った。
スピード感がおかしいなと思ったがあの人達はいつもこんな感じで突然きて突然部活や生徒会に行く人達だったと思い出した。
そう言えば、誰もフリースペースの勉強しろにふれなかったな。




