プロフィール帳 フェレス
「じゃあ、次は僕ね!」
「書き終わってたの?」
フェレスは黒色の紙に白色のペンで苦労して書いたらしいプロフィールの上に指先で器用に立っていた。
名前 フェレス
誕生日 わかんない
血液型 わかんない
身長 昔はけっこうあった
体重 昔はそれなりにあった
朝はというか普段からなにも食べない派
好きな食べ物 名前忘れたけど甘いフカフカのやつ
嫌いな食べ物 苦いやつ
好きな色 黒以外
好きな季節 春
誰にも言っていない秘密は? つつじは予知夢を見る時はいつもうなされてること
兄弟になるなら誰が良い? 上ならシガン、下なら月乃ちゃん
なんで? シガンは面倒見がいいし、月乃ちゃんは素直だから
この人とは兄弟になりたく無い いつは
なんで? 気が抜けないから
お友達に聞いてね!
あなたみたいな動物は?
性格を一言で表すと?
あなたの好きなところは?
フリースペース
何か分からないが綺麗な紋様が空白いっぱいに描かれている
「前半のプロフィール全部不明じゃん。」
「だって僕今こんなんだし。」
「そういえば、フェレスってなんで手しかないの?」
月乃は紙を見ながらなんてことのないようにいつかの私が躊躇った質問をした。
流石にフェレスと会って一週間以内には聞いた気がする。
というか、今までフェレスについての事で真っ先に上がってきそうな質問をせずに月乃がここまできたことに驚きだ。
「昔は体全部あったよ。でもねぇ、怪異を閉じ込めてた箱を開けちゃったから、罰として封印されちゃった。」
あっけらかんというフェレスに騙され、月乃はヘェ〜、と呑気に笑っている。
全然ヘェ〜で済むような話ではないのだが、まぁ月乃が突っ込まないのなら放っておこう。
フェレスもどうせそれ以上教えてくれる気がないのは過去の経験で分かっている。
「ところでさ、この秘密のところ。これ、フェレスじゃなくて実質私の秘密だよね?」
いつも私が予知夢を見た日を的確に当ててくるなと思っていたが、まさかそんな絡繰があったなんて知らなかった。
「つつじはうなされてる自覚なかったの?」
「無いねぇ。」
私にあるのはやけに現実じみた一瞬の夢の記憶だけだ。
それからしばらくは能力についての話をして、その話が終わった頃、思い出したようにプロフィール帳の話に戻ってきた。
「じゃあ動物考えよ!動物。」
元気よく宣言した月乃に従い、私はフェレスを見ながら動物について考える。
「………黒っぽい動物であろうこと以外何も思いつかない。」
「わかる!」
「えー、僕そんなに黒い?」
フェレスは嫌そうな声で紙をテシテシと叩く。
なんか、こいつの場合は見た目からイメージつけにくいんだよな。
例えば、さっきの月乃だったら私は鶏と言ったけれど、一応鶏の鶏冠は赤いし、思いつくきっかけとなったひよこの銘菓も、あのころっとしたフォルムがどことなく月乃に似ている気がしたからそう言ったのだ。
しかし、手しか無いフェレスにその微妙な雰囲気やらなんやらを当てはめるのは難しいし、どうしてもイメージが湧きにくい。
「なんでよりにもよって黒なのさ。」
「そういえば黒は好きじゃなさそうだったね。」
プロフィール帳に書かれた好きな色の欄には『黒以外』と書かれている。
そんなに黒が嫌なのだろうか。
「フェレスの爪が黒いから自然と黒っていうイメージがついてるんだけど。」
フェレスの長めの爪は、綺麗な黒一色。
何か塗っているのかこういうものなのかは知らないが、『手』という特徴を除くとこれしか残らない。
やけに子供っぽい性格や怪異に対して異様に厳しくなるところなどは特徴的な性格だと言えるだろうが、やはり動物に例えるのならば見える特徴の方が参考にしやすいのだ。
その後しばらく考えてみたが、やはり黒ということ以外何も思い浮かばなかった。
「もう動物のとこは一旦飛ばして次いこうよぉ。」
「だね。フェレスも黒嫌そうだし。」
次はフェレスを一言で表すとだ。
「子供。」
「つつじより大分年上だよ、僕。」
大分どころじゃ無いくらいには年上だと思う。
私は二千年以上は生きていると予想している。
「なんか、言動が子供っぽいんだよ、フェレスは。」
「そう?わたしはどっちかっていうとちょっと年上のお兄ちゃんって感じだと思うけど。」
「ふふん。年上の威厳に溢れてるでしょ。」
「まだあかねの方が年上感ある。」
あかねはなんだかんだで面倒見がいいのだ。
特に月乃の対しては顕著だが、当の月乃には自覚がなさそうだ。
そうかなぁ?と思っているのが顔に書いてある。
「えっと、じゃあつつじは子供で、月乃ちゃんは年上のお兄ちゃん?」
「そうなるね。」
「わたしとつつじ、答え真逆だ!」
「で、最後が好きなところ……」
好きなところ……?
「お話聞いてくれるところ!」
即答できなかった私と違い、月乃はすぐに答えを出した。
「月乃、フェレスとそんなに話してたっけ?」
「うん!つつじがいない時とかは結構いろいろ聞いてもらってるよ!」
「あかねとメリーさんもいない時だけだけどね。僕だってずっとここにいるわけじゃないし。」
それでも意外だ。
月乃は話し相手には困っていないだろうし、フェレスも月乃にそこまで興味がないと思っていた。
「つつじは?」
「好きなところ……。」
「本気で思いつかない、みたいな顔やめてよ。」
本気で思いつかないのだから仕方が無い。
「つつじ、本当にないの?好きなとこ。」
月乃が信じられないものを見る様な目で私を見る。
「あ、わかった。」
「ほら、やっぱりあるじゃん!」
「毎回予知夢をきっちり覚えて伝えてくれるところ。」
「違くない!?」
「なんで?」
いい加減に伝えられると困るのだ。
「それは好きじゃないでしょ!?フェレスはそれでいいの!?」
「いいよ。」
「いいの!?」
何やら月乃が一人漫才をやっているが、フェレスは満足そうだしあれで良かったとしよう。
「ねぇ、フェレス。」
「なに?」
「この模様何?」
私はフリースペース一杯に書かれた幾何学模様を指さして問う。
書きにくかったであろうよれた文字とは異なり、こちらの模様は綺麗な曲線や直線で描かれている。
この模様が何を意味するのかは知らないが、こう言った模様にはモチーフがあるはずだ。
「これ?………ただの手癖だよ。」
「そう。」
手癖、ねぇ。
それだけ言うとすぐに月乃と話し出した。
もうこの模様について話すことは無い、という意味だろう。
いや、月乃の前では話す気がない?
フェレスなら、本当に聞かれたくないことは徹底的に隠すはずだ。
聞かれたくなければ、知られたくなければ、その存在そのものを隠して仕舞えば良い。
そうすれば、誰もその秘密に辿り着くことは無いのだから。
それをせず、ろくに説明もせず意味深な行動をとれば、それに関して追及されるものだ。
それをこいつが分かっていないはずがない。
下手な仄めかしは好奇心の腹を空かせるだけだ。
まぁ、私はどれだけ仄めかされようと聞いて欲しいとでも言われない限りは何も聞くつもりはないが。
「月乃、そろそろ夕飯の準備しないと。」
「あっ、そうだった!今日は一緒に作るって話だったよね!」
私は月乃とフェレスを急かして夕飯作りを始めることにした。




