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プロフィール帳 月乃

「ねぇ、つつじー!これ書いて!」

 そう言って月乃が差し出してきたのは、明るい紫を基調とした紙。

紙には幾つもの空欄があり、そこには名前や生年月日、趣味から好きな物など、様々な個人情報を記入するための欄がある。

「プロフィール帳?」

「そう!可愛いのがあったから買ってみたんだ〜。」

 そう言って月乃はノートサイズのいかにもなプロフィールを書いた紙を纏めておくプロフィール帳を掲げてみせる。

「へぇ〜。」

 私は月乃が持つプロフィール帳を一瞥した後、そっと立ち上がってリビングから出ようとする。

「逃げないでよ!」

「めんどい。」

「いま暇でしょ!?」

 確かに暇と言えば暇だが、だからと言って面倒なことはしたく無い。

「他の人に書いて貰えばいいじゃん。」

「いまつつじしかいないじゃん!」

 別にそんな事はない。

「フェレス〜!」

「なに〜?」

「ほら、フェレスいるから。」

 そう言って再びリビングを出ようとしたが、やはり月乃が許してくれなかった。

「つつじも!つつじも書いて!」

「ねぇ、これなぁに?」

「あー、わかった、分かったから一旦離して。」

 月乃には服の裾を掴まれ、フェレスには頭の上に乗られて、非常に動きにくい。

私は諦めてもう一度椅子に座った。

「この紙を書けばいいの?」

「うん!フェレスはこっちに書いて!」

 そう言って月乃がフェレスに差し出したのは色違いの黒い紙。

どうやら紙ごとに色が違うらしい。

「これを書けばいいの?」

「うん!」

 どこからか色ペンを出してきた月乃から適当な色のペンを受け取り、私は渋々紙に向かう。

「月乃ちゃん、これ、お手本とかないの?」

プロフィール帳を眺めていたフェレスが、ふと月乃に聞く。

「お手本?」

「うん。僕、こういうの書いたことないし、普段あんまり考えたことなかったから、お手本が欲しいなって。」

「あー、確かに迷うよね。」

 最近のプロフィール帳とは凄いもので、レーダーチャートとかもある。

何を書けばいいんだ。

特にこのレーダーチャート。

攻撃力とか素早さとかを書くやつだろこれ。

「えー、それを悩みながら書くのが楽しいんじゃん。」

「書くのやめようかな。」

「分かった、みせる!みせるから!」

 そう言って月乃はプロフィール帳の中から赤い紙を取り出した。

「これが私の!」



名前 五月女(さおとめ) 月乃(つきの)

誕生日 六月 二十七日

血液型 B型

身長 百五十センチ

体重 BMI 20くらい!

利き手 右手

朝はパン派

好きな色 赤かピンク

好きな動物 ウサギ

好きな食べ物 甘い物 サバ セロリ おやつ

好きなタイプ 優しくてかっこいい人!

身近な人で付き合うなら? あかね!……か、いま好きな人

どうして? 優しいから!

身近な人で同棲するなら? つつじ!

どうして? 家事ができるしご飯がおいしい!

苦手な食べ物 ない!

苦手な人 いない!

好きなことを書いてね

《青春する! 【やけに上手いセーラー服の女の子のイラスト】》


友達に書いてもらおう!

あなたに似ている動物は?

あなたの好きなところは?

あなたの性格を一言で表すなら?


「何これ、人が書くとこあるの?」

「うん!後で書いてね。」

「というか、このびーえむあいってなぁに?」

「体重を表す指数の事だよ。身長と体重を使って計算するの。二十は平均的な体重を意味するね。」

 フェレスに説明しながら自分の紙を見ていると、ふと質問の内容が月乃と違うことに気づく。

そもそも月乃の紙にはレーダーチャートなんてものはついていなかった。

「あっ、気づいた?これ、実は色ごとに質問の内容が違うんだよ。」

「へぇー。」

 何色あるのかは知らないが、手が込んでいる。

自分の紙を見て何を書こうか考えていると、フェレスも考え込んでいるらしく月乃の紙を前に唸っていた。

「月乃ちゃんに似てる動物か……。」

「自分のじゃなくて月乃のに迷ってたの?」

「つつじも考えてよー。」

 不貞腐れたような声をしているが、私はこの紙を書くと言うだけ譲歩している事を忘れたのだろうか。

文句の一つでも言いたかったが、もう面倒になってきて早く終わらせたいので何も言わずに考えることにした。

「動物……ひよことか?」

「ひよこ?なんで?」

「鶏にすらなれてないから。」

「どういうこと?」

 月乃とフェレスの二人が首を傾げる。

フェレスが傾げているのは首じゃなくて指先だけれど。

「三歩歩いたら忘れるでしょ、鶏。」

「わたしそんなに忘れっぽくない!」

「しかも、ニワトリにすらなれてないって言われてるから、さらに記憶力悪い事になってない?」

「座ってても忘れるじゃん。」

「そんなに忘れっぽくないってば!」

「まぁ、流石に記憶云々は冗談だよ。」

 たださっき月乃が食べていた何処ぞの銘菓から適当に言っただけだ。

「真面目に考えてよ!」

「フェレスは?いいの思いついた?」

 月乃がうるさいので適当にフェレスに水を向けてやると、案の定月乃の意識はそちらに向いた。

「んん〜、仔羊(こひつじ)?」

「なんで?」

「あかねに聞いたんだけど、月乃ちゃん、すっごい方向音痴って言ってた。」

「方向音痴じゃないよ!あれはあかねが……!」

 またしても不名誉な理由に、一通り弁解をした月乃は気を取り直して次の質問を考えろと言った。

「好きなとこ?」

「あるでしょ!?」

 やけに必死だな。

「これで無いって言われたらかなしすぎるもん!」

 なんとも悲痛な理由を叫ぶ月乃を横に、私は真面目に考える。

真面目に考えた結果が、これだ。

「家事が一通り出来るところ。」

「違う!!」

「何が違うの?」

「そう言うんじゃ無いじゃん!」

 真面目に考えた結果一番好ましい部分を伝えたのだが、満足してもらえなかったらしい。

「もっと、もっとあるじゃん!」

「つつじ、流石に可哀想だよ。」

「真面目に考えたんだけどな……。」

 家事をしてくれる人間がいるのは非常にありがたいし助かっているのだけれど、それでは駄目らしい。

「つつじ……。こう言うのはもっと性格的な良いところを言わないと。」

「そう!そう言うのを求めてた!」

 満を持してフェレスが言い放った一言は、これだ。

「いつもおっちょこちょいで場を和ませてくれるところ。」

「おっちょこちょいは褒めてるの!?」

「あれおっちょこちょいじゃなくて単純に月乃が理解できて無いだけじゃ無い?」

「つつじぃ!?」

 また月乃が叫び出したので無視していると、力無い声で最後のお題を考えるようにと言い出した。

「まだやるの?」

「だって、だって、だってぇ…。」

「なんか、悪いことしちゃったね。」

「最後のお題は?」

「性格を一言で表すと。」

「………真っ当に優しい。」

「僕はそうだなぁ〜。眩しい、かな。」

「そういうの!そういうのを待ってた!!」

 ようやく満足したらしい月乃はケロッとして笑っている。

座ったままなのにさっきまでヘコんでた記憶がもう無くなったのだろうか。

「さて!わたしの見せたんだからつつじも書いてよね!」

「それは良いんだけどさ、やっぱり私のやつ月乃よりもお題だるいんだけど。」

「文句言わない!」

 月乃に言われ、私は渋々置いていたペンをとって書き始めた。

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