表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
気ままに旅してたら、なぜか伝説の幻獣たちに懐かれました  作者: 空飛ぶ鯨


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/61

54.蒼天へ羽化する神鳥


王城を後にし、樹冠塔の自室へ戻った悠真は、思わず大きく息を吐いた。


「……はぁ。やっと日常に戻れた気がする」


見慣れた部屋。

ノクスは窓辺で丸くなり、アズール相変わらずの卵姿だ。


胸の奥に張り付いていた緊張が、ようやくほどけた。


けれど同時に、嫌な予感も残る。


「……でもまた呼ばれるんだろうなぁ」


ぼそりと呟くと、

ベッドの上で毛づくろいをしていたスピカが呑気に返した。


「嫌なら断ればいいじゃない」


「いやいやいや無理でしょ!」


悠真は勢いよく首を振る。


「皇族の呼び出しを断るとか、この世界の人間じゃなくてもヤバいってわかるよ!」


その必死さに、スピカは一度動きを止めた。


ゆっくり顔を上げ、

いつもの軽口とは違う、澄んだ真剣な眼差しで悠真を見る。


「……人間の王など」


静かな声。


「あなたから見れば、取るに足らない存在よ」


「いやいや!確かに俺この国の人間じゃないけどさ!

今ここで暮らしてるわけだし、立場とかあるし――」


慌てて言い訳する悠真に、スピカは首を横に振った。


「そういう意味じゃないわ」


そして、ゆっくりと言葉を紡ぐ。


「あなたは神獣に認められ、加護を受けし共鳴者。

世界樹の幻獣も、竜も、あなたを選んだ」


部屋の空気が、わずかに震えた気がした。


「王や国なんて、本来は関係ない存在なのよ」


悠真は言葉を失う。


そんな自覚など、これっぽっちもなかった。


「……俺、そんなすごいことになってるの?」


「ええ。本人が一番わかってないだけ」


スピカはくすっと笑い、再び毛づくろいを再開する。


「だから安心しなさい。

呼ばれたら行けばいいし、気に入らなければ堂々と断ってもいいのよ」


「いやそれはそれで怖いんだけど……」


だが胸の奥に、不思議な安心感が灯っていた。


自分はもう、

この世界でただ流される存在ではないのかもしれない。


静かな部屋に、夜がゆっくりと降りていった。



───


朝方、かすかな物音で悠真は目を覚ました。


ごそ……ごそ……


耳を澄ますと、部屋の隅から聞こえてくる。


「……?」


眠気をこすりながら視線を向けた瞬間、悠真は息を呑んだ。


そこにあったのは――

アズールが閉じこもってから、すでに数十日が経つ卵のような繭。


その表面が、わずかに脈打つように動いている。


「……動いてる!?」


悠真は飛び起き、慌てて振り返った。


「スピカ! ノクス! 起きて!」


ノクスが顔を上げ、スピカは半分寝ぼけたまま目をこすりながら起き上がる。


「……ようやくなのね」


その声は、どこか覚悟を含んでいた。


繭は内側から淡い光を放ち始めていた。

脈打つたびに、光が強くなる。


その様子を見た瞬間、スピカの耳と尻尾がぴくりと跳ねた。


「……やばいかしら」


「え!? なにが!? やばいってなに!?」


焦る悠真に、スピカは一気に言う。


「このままここで孵化したら、魔力の放出で塔が騒ぎになるわ。

最悪、結界が反応する」


「そ、それって……」


「目立つ。とんでもなく」


悠真は一瞬で理解した。


「外に出したほうがいいってこと?」


「急いで!」


言われるがまま、悠真は繭をそっと抱え上げる。

布を被せ、光を隠す。


それでも、布越しにじんわりと輝きが滲んでいた。


準備もそこそこに部屋を飛び出す。


まだ朝早く、人通りは少ない。

それでも心臓がうるさいほど鳴っていた。


王都を抜け、森へ向かう道を急ぐ。


走るたび、腕の中の繭が熱を帯びていく。


「スピカ……光、強くなってない?」


「ええ。孵化が近いわ」


布の隙間から溢れる光が、朝靄を照らし始めていた。


まるで、新しい命が世界に現れようとしているかのように。


ノクスが低く鳴く。


森の入り口が見えた、その瞬間――

繭は、まぶしいほどの光を放った。


森の奥、開けた場所に辿り着いた瞬間だった。


繭が――弾けるように割れた。


眩い光が溢れ出し、木々の影が白く染まる。


悠真は思わず腕で目を庇う。


「うわっ……!」


風が巻き起こり、落ち葉が宙を舞う。


そして、光の中から――


「……え?」


悠真の喉から、かすれた声が漏れた。


繭の大きさには到底収まりきらない体躯が、そこにあった。


羽が広がり、長い尾がしなやかに揺れる。


「で……か……」


元のアズールは、大型犬ほどの大きさだった。


それが今や――

ノクスをも超えるほどの巨体。


それでいて、重々しさはなく、流れるように美しい。


淡い青の羽毛は光を受けて輝き、

まるで空そのものを纏っているかのようだった。


もう、あのあどけなさはない。


そこに立っていたのは――


神々しさすら感じさせる、立派な成鳥。


一歩動くたび、魔力の波動が森を震わせる。


「……アズール?」


悠真が恐る恐る呼ぶと、

その巨大な鳥はゆっくりと首を下げた。


澄んだ瞳が、確かに悠真を映す。


そして――


「キュル……」


昔と同じ、少し甘えた鳴き声。


「中身はそのままかよ!」


悠真は思わず力が抜けて笑った。


ノクスが低く誇らしげに鳴き、

スピカは目を細める。


「予想以上ね……完全進化どころか、神獣クラスよ」


「え、そんなさらっと言うレベルなの!?」


アズールは大きな翼を広げ、風を巻き起こした。


空気が震え、雲が流れる。


――空の支配者が、ここに誕生した瞬間だった。



アズールは大きく翼を広げた。


その瞬間、森を抜ける風の流れが一変する。


ざわり――

木々が同時に揺れ、雲の動きまで変わった。


「……風?」


悠真が呟くと、スピカが息をのむ。


「これ……ただの風魔法じゃないわ。

天候そのものに干渉してる」


「て、天気!?」


アズールが羽ばたくたび、空気が従う。


突風にも、そよ風にも、嵐にも変えられる――

まさに空を支配する力。


「とんでもないの育ててたんだな、俺……」


誇らしさと震えが同時に来る悠真。


だが次の瞬間。


ドスン、と優しく地面が揺れた。


巨大化したはずのアズールが、悠真の前にしゃがみ込み――


ぐいっと首を伸ばしてきた。


「キュルル〜」


「……え、来る!?」


そのまま胸元へ顔を押し付けてくる。


ふわぁ……っと包み込むような羽毛。


悠真の体が、もふもふの蒼に埋もれた。


「ちょ、でかくなってもそれやるのかよ!」


胸の羽は雲みたいに柔らかく、温かい。


心臓の鼓動がゆっくり伝わってくる。


スピカは呆れつつも微笑んだ。


「中身は相変わらず甘えん坊ね」


ノクスも鼻を鳴らし、誇らしげに見下ろす。


アズールは満足そうに悠真を包み込みながら、翼を小さく揺らした。


まるで――

「これからも一緒だよ」と言うように。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ