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気ままに旅してたら、なぜか伝説の幻獣たちに懐かれました  作者: 空飛ぶ鯨


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53.はじめての自由、その先に


白銀の幻獣が先を行く。


草原を蹴り、風を裂き、

そのすぐ後ろをノクスが追う。


最初は大地を駆けていた。


だが――


白い幻獣の足元に、淡い銀光が灯った。


地面を蹴ったはずの脚は、

次の瞬間、空を踏みしめていた。


ぽん、と。

ぽん、と。


見えない階段を昇るように、

宙を蹴って高度を上げていく。


その軌跡には、

星屑のような光がふわりと散り、

空気そのものがきらめいて見えた。


「……あの子、飛べるんだ」


悠真の呟きが、風に溶ける。


ノクスがそれを追って翼を広げ、

大きく羽ばたいた。


空へ。


白銀と黒翼が並び、

青空を切り裂く。


その光景はまるで――

空そのものを走る流星のようだった。


すると、肩のスピカがふっと笑う。


「飛ぶっていうより……空を走ってるわね」


「走る……」


「ええ。あの幻獣は風を操るのが得意なようね。

空気や魔力を“地面みたいに扱っている”のよ」


銀の足跡が、空に一瞬だけ残って消える。


風は冷たく、

光は眩しく、

世界はどこまでも広かった。


白い幻獣は振り返り、

楽しそうに声をあげる。


『すごい! 外って、こんなに広いんだ!』


その笑顔に、

自由そのものが宿っていた。


森の上を越え、

きらめく湖畔を滑るように駆け抜け、

やがて一行は高い丘へと降り立った。


風が草を揺らし、

空はどこまでも澄み渡っている。


振り返れば――

王都は、もうずいぶん小さく見えた。


巨大だった城壁も、

人々の往来も、

まるで箱庭のようだ。


白銀の幻獣は丘の縁に立ち、

しばらく黙ってその景色を眺めていた。


銀の毛並みが風に揺れ、

光を受けて淡く輝く。


そして、ぽつりと呟く。


『……とりあえず、会ってみようかな』


「王子様に?」


悠真が聞き返すと、

幻獣は肩をすくめるように鼻を鳴らした。


『そうよ。考えてみればさ、

人間の一生なんて私たち幻獣にとっては一瞬でしょ?』


風が吹き抜ける。


「ちょっとくらい付き合ってあげてもいいかなって思ったの」


ちらりと悠真を見る。


『私は寛大な幻獣なのよ!』


胸を張るその姿は、

さっきまで檻の中で荒れていた存在とは思えないほど、生き生きしていた。


自由を知ったからこそ――

拒むだけだった世界を、

“選んで関わる”という発想に変わったのだ。


悠真は小さく笑う。


「……きっと、王子様も喜ぶと思うよ」


幻獣はふんっと鼻を鳴らしながらも、

どこか照れたように視線を逸らした。


丘の上には風と光と、

新しい選択の予感だけが残っていた。


───


王都へ戻ると、ケインは幻獣の言葉を聞いた瞬間、目を見開いた。


「ほ、本当ですか……!? 王子殿下に会うと……!」


「うん。自分から言い出したんだ」


その言葉に、ケインは一瞬呆然とし、

次の瞬間には走り出していた。


「気が変わらないうちに……! すぐに手配を!」


水晶端末を取り出し、矢継ぎ早に連絡を飛ばす。


どうやら――

今日中にでも顔合わせをすることが決まったらしい。


王子の予定も奇跡的に合い、

午後には会えることになった。


『ユウマ、あなたもきて!』


白い幻獣が当然のように言う。


「え、俺も?」


『当たり前じゃん。あなたがいなかったらここまで来てないんだから』


ケインに視線を向けると、

少し迷ったあと、静かに頷いた。


「……許可します。ですが、距離は保ってください」


こうして悠真も同行することになった。



───


王城の一角――

緑に囲まれた静かな中庭。


噴水の水音がやさしく響き、

陽光が白い石畳を照らしている。


そこが、運命の顔合わせの場だった。


悠真は数メートル離れた場所で、

衛兵たちと並び立ち、二人を見守る。


一方には、銀の光をまとう白き幻獣。


もう一方には、まだ幼さの残る王子。


緊張が、空気を張り詰めさせる。


風が吹き抜け、

木々の葉がざわめいた。


――そして。


ふたりは、ゆっくりと向かい合った。


中庭に、静寂が落ちた。


王子は一歩、また一歩と前へ進み、

白い幻獣の真正面で足を止める。


逃げもせず、怯えもせず。

ただ、真っ直ぐにその銀の瞳を見つめた。


「はじめまして」


澄んだ声が、庭に響く。


「僕はこの国の第三王子、レオル。

あなたと、パートナーになるかもしれない者です」


幼さの残る顔で、

それでも逃げずに、誠実に頭を下げる。


その姿に――

幻獣はわずかに目を見開いた。


これまで感じてきた、人間特有の恐怖や欲、緊張。

それが、この少年からは一切伝わってこない。


あるのはただ、まっすぐな興味と敬意だけだった。


『……前よりはいい顔してる』


小さく呟きながら、幻獣も一歩前へ出る。


『私はまだ名前なんてないよ』


「そうなの? ……ならーーー」


そこから先は、

ふたりだけの会話になった。


言葉は悠真のいる場所までは届かない。


けれど――


幻獣の耳が楽しそうに揺れ、

尻尾がゆっくり左右に振れているのが見える。


そして何より、

その表情が、はっきりと明るくなっていた。


悠真は思わず小さく息を吐いた。


「……うまくいってるみたいだな」


緊張で固まっていた空気が、

少しずつ、やわらいでいく。


中庭には、

新しい絆が生まれ始める気配だけが満ちていた。


ふたりの雰囲気を見て、悠真はそっと息をついた。


「……もう大丈夫そうだな」


役目は果たした。

あとは静かに見守るだけ――そう思い、踵を返しかけた、その時。


視線を感じた。


顔を上げると、

白い幻獣と王子が、そろってこちらを見ている。


「え?」


次の瞬間。


「ちょ、ちょっと――!?」


幻獣が一気に駆け出し、悠真の裾をガブッと噛んだ。


ぐいぐいと引っ張られる。


「待って待って待って!? 俺、関係者じゃ――」


抵抗虚しく、ずるずると中庭の中心へ。


衛兵たちは一瞬身構えたものの、

相手が幻獣と分かると困ったように視線を交わすだけだった。


――幻獣のすることに、口出しできない。


そんな空気がはっきりと漂っていた。


王子の前まで引きずられ、悠真はよろけて立ち止まる。


「はぁ……はぁ……」


そこで、幻獣が誇らしげに胸を張った。


『レオル、この人がね――』


そして、満面の笑みで宣言する。


『ユウマよ! 私の友人!』


一瞬、世界が静止した。


「……え?」


悠真の間抜けな声が響く。


王子はぱちぱちと目を瞬かせ、

それから、ゆっくりと笑顔になった。


「あなたが……」


幻獣が楽しそうに続ける。


『私を外に連れ出してくれて、話を聞いてくれて、

ここに戻るって約束も守った、とっても変な人間!』


「ほめてないよねそれ!?」


だが幻獣は気にせず、誇らしげに尻尾を揺らす。


『この人がいなかったら、私はあなたに会おうなんて思わなかったわ』


中庭の空気が、完全に和らいだ。


王子は一歩近づき、深く頭を下げた。


「ありがとうございます、ユウマさん。

僕の大切な出会いを、つないでくれて」


突然の感謝に、悠真は慌てて手を振る。


「い、いやいや! 俺はただ話を聞いただけで……!」


その横で、幻獣が得意げに笑う。


『ね? 私の友人、自慢でしょ』


――どうやら、逃げ場はなさそうだった。


悠真は苦笑しながら、空を仰いだ。


けれど。


その場に流れる空気は、あたたかくて、やさしかった。


新しい絆が、確かに生まれた瞬間だった。



王子が悠真に頭を下げた、その瞬間。


中庭の端で控えていた数名の人物が、静かに視線を交わした。


高位の貴族服。

そして、ひときわ威厳をまとった初老の男性――王家の側近長だった。


「……あの青年が、幻獣の心を動かしたのか」


「世界樹の幻獣が、自ら“友人”と呼ぶ存在など、前例がありません」


「しかも、あれほど警戒していたはずの個体が、笑っている」


低く抑えた声で、重ねられる評価。


彼らの目に映る悠真は、

ただの冒険者ではなくなりつつあった。



一方、悠真はというと。


「じゃ、じゃあ俺はこれで……」


場の空気に耐えきれず、そっと距離を取ろうとする。


幻獣がむっとして言う。


『何?もう帰っちゃうの?』


「いや、王族の集まりっぽいし! 俺がいていい場所じゃないから!」


王子は少し慌てて首を振った。


「いえ! そんなことは――」


だが、その言葉を側近長が穏やかに制した。


「本日はここまでで十分でしょう」


威厳ある声に、空気が引き締まる。


「幻獣殿も、今日はよく頑張られました。

ユウマ殿も、感謝いたします」


その“殿”という呼び方に、悠真は内心ぎょっとした。


(え、急に敬語!?)


側近長は柔らかく微笑む。


「本日はお引き取りください。

……後日、改めてお話の場を設けさせていただきますので」


その言葉に、悠真は嫌な予感と重要人物フラグを同時に感じ取った。


「え、後日……?」


「はい。王家として、正式に」


幻獣が楽しそうに尻尾を振る。


『ね?ユウマはただの人間じゃないのよ!」


「やめて! そんな肩書きいらない!」


王子は少し照れたように笑った。


「また会えますよね、ユウマさん」


「……たぶん、逃げられない気がします」


その言葉に、周囲が小さく笑った。



こうしてその日は解散となった。


だが――


皇族の中で、悠真という存在は

**“世界樹の幻獣に認められた異例の人物”**として、確かに刻まれたのだった。


そして数日後。


彼は再び、

王城からの正式な呼び出しを受けることになる――。


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