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気ままに旅してたら、なぜか伝説の幻獣たちに懐かれました  作者: 空飛ぶ鯨


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46.ダンジョンの宝の在処


 奥へと進んだ先は、拍子抜けするほど静かな行き止まりだった。


 巨大な石壁が道を塞ぎ、装飾らしい装飾も見当たらない。

 水面は穏やかで、先ほどまでの戦闘が嘘のようだ。


「……なにも、ない?」


 悠真が首を傾げると、スピカはノクスの背の上で周囲を見渡した。


「いいえ。

 “なさすぎる”わね」


 その言葉に、悠真ははっとする。


(そうだ……この空間、変だ)


 双頭の魔獣が守っていたにしては、あまりに簡素。

 それに、部屋全体がどこか“整いすぎている”。


「ここは…儀式の間、儀式…儀式…?」


 悠真はそう呟き、壁や床を注意深く観察し始めた。


 すると、壁の左右に、それぞれ違う紋章が刻まれているのに気づく。

 一方は炎を象った意匠。

 もう一方は、氷を思わせる結晶の文様。


 そして中央、天井から細く垂れ下がるように、ひび割れた石柱が一本立っていた。


「炎と、氷……あの蛇と同じだ」


 悠真は床に張った水へ視線を落とす。


(戦ったあとも、水は残ったまま。

 ってことは……これは“媒体”なんじゃないか?)


 試しに、悠真は炎の紋章の前に立ち、スピカを見上げる。


「スピカ、少しだけ炎を」


「加減しなさいよ?」


 小さく鼻を鳴らしつつ、スピカが宝石を淡く輝かせる。

 熱は控えめで、炎の紋章だけを温める程度。


 すると――

 水面がわずかに揺れ、炎側の床だけが蒸気を上げ始めた。


「……反応した!」


 次に悠真は、ノクスへ視線を向ける。


『理解した』


 ノクスは一歩進み、氷の紋章へ冷気の霧を流す。

 こちらも過剰ではなく、静かに、確実に。


 今度は反対側の水が薄く凍り、氷の文様が淡く光を帯びた。


 ――その瞬間。


 中央の石柱が低く唸るような音を立て、ゆっくりと沈み始める。


 同時に、足元の水が吸い込まれるように引いていった。


「うわっ」


 水は渦を描きながら床の溝へと消え、やがて完全に姿を消す。

 床は乾き、淡い光の紋様が浮かび上がった。


 そして――

 奥の壁が、重たい音を立てて左右に割れた。


 現れたのは、闇の奥へと続く新たな通路。


「……正解、みたいね」


 スピカは満足そうに言い、ノクスの背から軽やかに降り立つ。


「やるじゃない、悠真」


「た、たまたまだよ……」


 そう言いながらも、悠真の顔には抑えきれない高揚が浮かんでいた。


 ただの行き止まりだと思われた場所は、

 確かに――“次”へ進むための扉だった。



 奥の通路を抜けた瞬間、視界が一気に開けた。


 そこは、先ほどまでの閉塞感が嘘のような、広大な空間だった。

 天井は高く、洞窟の上部に空いた大きな隙間から、やわらかな光が降り注いでいる。


 その光は、まるで導かれるように――

 部屋の中央に置かれた、一つの宝箱を照らしていた。


「……わあ」


 悠真が思わず声を漏らす。


 光の筋に照らされた宝箱は、古びているはずなのに不思議と神々しく見えた。


 その瞬間だった。


 スピカの耳が、ぴん、と鋭く立つ。


「――待って」


 次の瞬間には、軽い足取りで宝箱へと駆け寄っていた。

 周囲を一周し、空気の流れや床の違和感を確かめるように一瞥すると、


「罠はないわ! 早く開けなさい!」


 そう言って、前足で宝箱をペシペシと叩く。


「ちょ、ちょっと……」


 悠真はまだ空間の幻想的な雰囲気に見とれていたが、スピカの催促に現実へ引き戻される。


「はいはい……分かったよ」


 呆れたように笑いながら、悠真は宝箱へと歩み寄った。

 スピカは期待に満ちた瞳で見上げ、ノクスとアズールも少し後ろから静かに見守っている。


(……なんか、開ける前からプレッシャーがすごいんだけど)


 そんなことを思いながら、悠真は宝箱の前に膝をつき、そっと手を伸ばした。


 宝箱の蓋を、ぎい……と音を立てて開ける。


 中に収められていたのは、思ったよりも雑多な品々だった。


 まず目に入ったのは、革表紙が擦り切れた古い本。

 その横には、柄に宝石が埋め込まれた短剣が一本。刃はくすんでいるが、どこか只者ではない気配を放っている。

 さらに、用途の分からない木製の棒。表面には細かな紋様が刻まれていた。

 そして――


 淡く輝く宝石。


 悠真がそれを手に取ろうとした瞬間、スピカが息を呑んだ。


「……魔封石!!」


 その声には、珍しく隠しきれない高揚が滲んでいた。


 宝石は淡いピンク色をしており、中心部には赤い光が、まるで心臓の鼓動のように、ゆらり、ゆらりと揺らめいている。


「ま、魔封石って……そんなにすごいの?」


 悠真が問いかけると、スピカは宝石から視線を離さずに答える。


「すごい、なんてものじゃないわ。

 魔法が封じ込められた宝石よ。しかもこの色……かなり純度が高い」


 スピカの尻尾が、ゆっくりと揺れた。


「これがあれば、暴走しかけた魔力も抑えられるし、

 逆に、力を安全に溜め込むこともできる」


「え、それって……」


 悠真は、思わず自分の仲間たち――スピカ、ノクス、アズールの顔を見回した。


「……ええ。幻獣にとっても、人間にとっても、価値は計り知れないわ」


 スピカはそう言って、宝石にそっと前足を添える。


「いいダンジョン引いたじゃない。

 少なくとも、私にとっては“大当たり”よ」


 その瞳は、宝石と同じくらい、きらきらと輝いていた。


 「じゃあ、この宝石はスピカのな」


 悠真はそう言って、迷いなく魔封石を差し出した。


 スピカは一瞬きょとんとしたあと、器用に両前足でそれを挟み取る。

 淡いピンクの輝きが、もふもふの毛並みに反射した。


「……いいの?」


 珍しく、確認するような声だった。


「もちろん。そもそも俺、ほとんど何もしてないしさ。

 みんな、欲しいものがあったら持っていっていいよ」


 そう伝えると、スピカは少しだけ目を伏せて――


「……ありがと」


 小さく、控えめにそう言った。


 悠真はその様子に、内心で(かわいいな……)と思ったが、口には出さなかった。


 そのとき、背後から静かな声が届く。


『主は、そこにいるだけで我らの助けになる』


 ノクスだった。

 いつも通り落ち着いた声色だが、その言葉には確かな敬意が込められている。


「いやいや、それは言いすぎだって」


 悠真が苦笑していると、今度はアズールが「きゅる」と鳴き、宝箱の中を覗き込んだ。


 そして――

 残されていた用途不明の木の棒を、嘴でつつく。


 つついて、ちらりと悠真を見る。

 もう一度、つつく。


「……もしかして、それ欲しい?」


 アズールは、こくん、と小さく頷くような仕草をした。


 悠真は木の棒を手に取り、改めて眺める。

 木製で、軽い。表面には細かな紋様が刻まれているが、魔力の流れは穏やかで、武器なのか道具なのかも判然としない。


「正直、何に使うか分からないけど……まあ、いいか」


 そう言って差し出すと、アズールは嘴でそっと受け取り、胸元に抱えるようにして鳴いた。


 嬉しそうに、何度も何度も。


「気に入ったみたいね」


 スピカが微笑ましそうに言う。


 宝箱の中を覗き込みながら、悠真はふと首を傾げた。


「……あれ?」


 短剣と古い本の陰、底板の上に、もう一つ小さな物が残っている。


 それはすす色の金属で作られた細い輪だった。

 首飾りにしては飾り気がなく、指輪にしては大きすぎる。表面には摩耗した古代文字が刻まれており、触れると、ひんやりとした感触の奥に、微かな鼓動のようなものを感じる。


 悠真がそれを持ち上げた瞬間――


 ノクスが、ぴくりと耳を動かした。


 普段は宝や武具に一切興味を示さないノクスが、珍しく一歩前に出る。

 その紅い瞳が、輪から離れない。


『……それは』


「欲しい?」


 悠真がそう尋ねると、ノクスは一瞬だけ視線を逸らし――

 だが、正直に頷いた。


『主が許すなら』


「遠慮しなくていいって。ほら」


 悠真が輪を差し出すと、ノクスは慎重に口で受け取った。

 その瞬間、輪に刻まれた文字が、かすかに金色に灯る。


 スピカが目を細める。


「……契約輪ね。しかも古いやつ。

 魔力を増幅する道具じゃないわ。これは――“誓い”を安定させるためのものよ」


「誓い?」


「守るって決めた相手との繋がりを、形にする道具。

 主従、守護、同行……用途は使う者次第だけど」


 ノクスは輪を前足で押さえ、静かに悠真を見る。


『我は、すでに誓っている』


 その声は揺るがなかった。


「じゃあ、それを“形”にするだけだな」


 悠真はそう言って、輪をノクスの首元に通した。


 煤色だった輪は、ノクスの魔力に呼応するように、縁だけが淡く光を帯びる。

 派手さはない。だが、確かに“似合っていた”。


 アズールが「きゅ」と鳴き、スピカはふっと鼻で笑う。


「……これで全員、戦利品ありね」


「だな」


 宝箱は空になった。

 だが、そこに残ったのは“物”以上のものだった。


 悠真は改めて、三匹を見回す。


「よし。じゃあ帰ろうか」


 三匹は、それぞれ違う仕草で応えた。

 だが、その歩調は、不思議とぴたりと揃っていた。



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