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気ままに旅してたら、なぜか伝説の幻獣たちに懐かれました  作者: 空飛ぶ鯨


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5.水辺に佇む小さき幻獣

その小さな幻獣と悠真の目が合った。

星のようにきらめく瞳に吸い込まれそうになった次の瞬間、ふわりと耳の翼を広げ、軽やかに宙を舞う。


「わっ……!」


驚く悠真の頭上を一周すると、幻獣はひらりと彼の胸元へ降り立ち、その頬をすり寄せてきた。

柔らかな毛並みが肌をくすぐり、悠真は思わず声を上げる。


「な、なんだこれ! くすぐったいって!」


バッグの口から顔を出したスピカが、半眼で見上げながら呆れたように言った。

「……フラピカよ」


「フラピカ?」


幻兎フラピカっていう幻獣。人懐っこい性格で、旅人にちょっかいを出すこともあるわ。

 森で迷った者を導いた、なんて伝承も残ってる」


「へぇ……すごいな。本当に精霊みたいだ」


悠真は慌ててノートを取り出し、フラピカの姿を目で追いながら走り書きを始める。

「幻兎フラピカ、耳が翼。瞳がキラキラ……すりすりしてくる……」


最後の一文を書き加えると、満足そうにページを閉じた。

フラピカはまだ楽しげに悠真の肩や腕の周りを飛び回り、再び頬ずりをしてくる。


「……もう、好きにさせておくか」

悠真は苦笑する。スピカは「ほんと、バカね」とぼやいたが、その口元はわずかに緩んでいた。


やがて悠真が薬草探しに戻ろうと背を向けると、フラピカはどこかへ消えてしまった。

──だが少し経つと、口に何かをくわえたまま、ぴょんぴょんと戻ってきた。


「……おいおい。それって……薬草じゃないか?」


悠真の目の前に差し出されたのは、淡く光を放つ青緑色の草だった。

葉の縁は透き通るように輝き、ほんのりと甘い香りが漂っている。


「……なにこれ、ただの草じゃないよな」

悠真は首をかしげつつノートを取り出しかけたが、その前にスピカが鋭く息をのむ。


「ちょっと待ちなさい……それ、《蒼露草》じゃない」


「蒼露草?」悠真が問い返すと、スピカは真剣な眼差しで頷いた。

「この森でも滅多に見つからない貴重な薬草よ。薬師なら金貨を出してでも欲しがるわ。

 しかも、フラピカの大好物でもあるのに……」


悠真は驚いて目を丸くした。フラピカは小さな体を揺らし、期待に満ちた瞳で見上げてくる。


「これ、ほんとに俺がもらっていいのか?」


問いかけると、フラピカは翼耳をぱたぱた揺らし、頬ずりで答える。

「……どうやら、相当あんたのことを気に入ったみたいね」

スピカの声には、驚きとわずかな呆れが混じっていた。


悠真は蒼露草を両手で受け取り、微笑んだ。

「ありがとうな。大事にするよ」


するとフラピカは大喜びで空へ舞い上がり、くるくると飛び回ったかと思うと――またどこかへ消えていった。

「あれ、行っちゃったか」悠真が少し寂しそうに呟いた、その直後。


ばさばさっと翼音がして、フラピカが戻ってきた。口には別の薬草をくわえている。

しかも、先ほどよりも数本まとめて。


「……ちょ、まさか次々と持ってくる気?」スピカが目を細める。


悠真は苦笑しながら受け取った。

「ほんとにいいのか? お前のごはんなんだろ?」


フラピカは羽耳をぱたぱたさせ、誇らしげに胸を張っているように見える。

どうやら「気に入った相手に自分の大事なものを分け与える」習性があるらしい。


「……すごいな。なんか、友だちができたみたいだ」

悠真の言葉に、フラピカはさらに嬉しそうに周りを飛び回り、また薬草を探しに森の奥へ消えていった。


スピカは深々とため息をつく。

「はぁ……もう完全に懐かれてるわね。ほんと、どこまで無自覚なのよ、あんたは」


 川辺で何度も薬草を届けてくれたフラピカは、最後には悠真の肩に頬ずりをして、名残惜しそうに翼耳をぱたつかせた。

「……そろそろ戻らないと、日が暮れるわよ」

 スピカが声をかけると、悠真は少し寂しげにフラピカを見つめた。


「ありがとな。いっぱい助けてもらった。また、会えるといいな」


 悠真が微笑むと、フラピカは高く一度舞い上がり、空中でくるりと円を描いた。そして楽しげに羽音を残しながら、森の奥へと飛び去っていった。


 悠真は受け取った薬草を大切に袋へ詰め直す。依頼分の薬草に加えて、フラピカが持ってきてくれた分もかなりの量になった。特に最初に受け取った《蒼露草》は、どうしても手放したくなくて、こっそりと自分のノートの間に挟み、記念に取っておくことにした。



 街へ戻った悠真とスピカは、再びギルドの扉をくぐった。夕方のギルドは人の出入りが多く、依頼を受ける者や報告に戻ってきた者で賑わっている。

 悠真はまっすぐ受付へ向かい、薬草袋を差し出した。


「依頼されてた薬草、採ってきました」


 受付嬢はにこやかに袋を受け取り、中を確認する――そして次の瞬間、動きが止まった。

「えっ……な、なにこれ……?」

 袋から取り出されたのは、滅多に市場に並ばないはずの高級薬草ばかり。葉脈が金色に輝く《金露草》、香りだけで薬効を持つ《白霧草》……どれも本来なら熟練の採取者でもそう簡単に見つけられないものだった。


「こ、これ……どうやって……?」

「えっと、まぁ、ちょっと森で運がよかったというか」

 悠真がごまかし気味に笑うと、受付嬢は呆然としつつも頷いた。


 とりあえず依頼で求められていた分はきちんと揃っていたため、悠真は依頼達成の証として銅貨三枚を受け取った。

 さらに「すぐに買い取れるもの」だけ別に分けられ、査定が済んだ薬草はその場で銀貨十枚になった。悠真の目が思わず輝く。


「おお……! 一気にこんなに……」

 昨日の宿代で銀貨一枚の重みを知ったばかりの悠真にとって、銀貨十枚は小さな財産に思えた。


 ただし、一部の薬草は高価すぎて専門家の鑑定が必要らしく、査定に時間がかかるとのこと。

「詳しい結果はまた後日になります。それまでは、こちらで大切に保管しますね」

 受付嬢がそう説明すると、悠真は素直に頷いた。



「よし、ちょっと余裕できたし……せっかくだから街を見て回ろうか」

 ギルドを出た悠真は、賑やかな街並みに視線を向けた。石畳を行き交う人々、軒を連ねる商店、漂う香ばしい匂い。


「……あんた、すぐに浮かれてお金を使い果たす未来しか見えないんだけど」

 スピカが鞄の中から呆れ声を漏らす。

 しかし悠真は意に介さず、銀貨が入り少し重くなった小袋を手のひらで弾ませながら、わくわくした足取りで街の広場へと歩き出した。


 賑やかな通りを歩きながら両手を広げるように深呼吸をした。

「いやー、街ってやっぱりすごいなぁ。なんでもあるじゃん!」

「……まぁ、村よりはね」

 鞄の中からスピカが欠伸まじりに答える。


 まず向かったのは衣服店だった。旅をするにしても、いつまでも見慣れぬ異国風の服を着ていては目立ってしまう。

 そこで、布地は粗いが丈夫なシャツとズボン、それに雨風を凌げる軽めのローブを一着選んだ。鏡に映った姿は、どこにでもいる普通の旅人風。

「よし、これで“落ち人”ってバレにくくなるかな」

「ふふ……そのローブ、意外と似合ってるわよ」

 スピカにからかわれ、悠真は頭をかきながら笑った。


 さらに道具屋で小刀を購入。刃渡りは短いが、薬草を切ったり食材を調理したりするには十分だ。

「ちょっとは旅人らしくなってきたんじゃない?」

「だろ? ……でも財布はだいぶ軽くなっちゃったけどな」

 支払いを済ませた時点で、手元の銀貨は残り四枚。



 とりあえずの必要なものは揃った――はずだった。

 だが帰り道、ふと視線を奪われた露店があった。そこには大小さまざまな卵が並んでいる。色も形もバラバラで、まるで宝石のように籠の中を彩っていた。

「お兄さん、目がいいねぇ。この卵だよ、この卵。中には、幻獣の卵が混ざってるって話もあるんだ」

 店主の声に悠真は思わず足を止めた。

「幻獣の……卵?」

「あるとかないとか、だがな。まぁ普通の鳥の卵かもしれんが、夢を買うと思えば安いもんだろ?」

 怪しげな笑みを浮かべる店主。


「なぁスピカ、どう思う?」

「胡散臭いわね。幻獣の卵なら、こんな露店に並ぶわけないでしょ」

「……でも、なんか気になるんだよなぁ」

 悠真は籠の中をじっと見つめ、結局、一番気になった大きさの卵を手に取った。ひんやりしていて、微かに温もりを返すような気がした。


「よし、これください!」

 勢いで銀貨一枚を支払い、卵を布に包んで大事そうに鞄へしまう。


「……無駄遣いね」

「でも、ワクワクするじゃん?」

 呆れるスピカに、悠真は笑顔を返す。


 こうして必要な買い物を済ませたはずが、気づけば手元の銀貨は三枚にまで減っていたのだった。


 買い物を終えた悠真は、すっかり軽くなった財布を手の中で転がしながら、いつもの宿へと戻ってきた。木の看板に灯るランタンの明かりを見て、少しホッとした気持ちになる。


「こんばんはー、また泊めてください」

 カウンターにいた女将は、昨晩も泊まった悠真の顔を見て、にこやかに迎えてくれた。

「いらっしゃい。今日も一泊かい?」

「いや、二泊分お願いします」

 そう言って残っていた銀貨三枚のうち二枚を差し出す。


 女将は銀貨を手に取り、軽く噛んで確かめると「確かに」と頷いた。

「部屋は昨日と同じでいいかい?」

「はい、お願いします!」


 鍵を受け取り、部屋に入ると、ベッドに体を投げ出す。

「……ふぅ、なんとか今日も終わったな。お金もギリギリだし、危なかった……」


荷物を床に置くと、スピカが鞄からするりと飛び出し、窓辺に軽やかに飛び乗った。月明かりを反射する宝石が、ぼんやりと赤く光っている。

「まったく、あんたって本当に計画性がないのね。残り銀貨一枚なんて、普通は不安で眠れないわよ」

「はは……まあ、なんとかなるさ」悠真は苦笑しながら答え、ベッドの上で寝返りを打つ。


視線を横にやると、机の上に今しがた買った卵が置かれていた。丸みを帯びた殻は淡い青色で、かすかに光を帯びているようにも見える。

「……ほんとに幻獣の卵なのかな」

呟きながらそっと手のひらで撫でると、ほんのりとした温もりが伝わってきた。


「ただの卵かもしれないし、そうじゃないかもしれないわね」

スピカは宝石を揺らしながら、意味ありげに言う。

「でも……」悠真は笑みを浮かべ、卵を包むように手を重ねた。

「なんだか、大事にしてあげたい気がするんだ」


スピカはふっと目を細め、からかうように言った。

「……本当に、あんたってお人好し」


その言葉を背に受けながら、悠真はベッドに身を沈める。目を閉じれば、今日の出来事が次々と思い出される。初めての依頼、フラピカとの出会い、そして偶然手に入れた卵。

胸の奥がほんの少し温かくなった気がした。


やがて静かな夜の空気が部屋を包み、悠真は穏やかな眠りへと落ちていった。机の上の卵は、月明かりを浴びて、ほのかに揺らめくような光を放っていた。


────


【観察記録・羽兎フラピカ

•小型で人懐っこい。飛ぶ姿はすごく綺麗。薬草に詳しい?

•もらった薬草「蒼露草」……めっちゃ貴重らしい。スピカも驚いてた。

•フラピカがわざわざ渡してくれた=もしかして好意? 嬉しかった。


もふもふ度★★★★☆



この世界の通貨体系

•1銀貨 = 100銅貨

•1金貨 = 100銀貨 = 10,000銅貨



生活基準の目安


(※分かりやすいように日本円換算すると、銅貨1枚 ≒ 100円くらい のイメージ)

•パン1個 → 銅貨2〜3枚

•宿代(安宿・食事なし) → 銅貨20枚

•宿代(普通・食事付き) → 銀貨1枚

•軽装ローブ → 銀貨2〜3枚

•小刀 → 銀貨5枚前後

•馬1頭 → 金貨1枚以上


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