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気ままに旅してたら、なぜか伝説の幻獣たちに懐かれました  作者: 空飛ぶ鯨


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44.運動不足につきダンジョン希望

 ギルドで近場のダンジョン依頼をひとつ受け取り、悠真たちは軽く準備を整えると、そのまま王都の門へ向かった。


 朝の王都は活気に満ちている。露店の準備をする声、荷馬車の軋む音、魔力で動く乗り物の低い唸り――そのすべてが、王都という巨大都市の“朝”を形づくっていた。


 大門に近づくと門番が立っていた。


 軽く挨拶を返すと、門番は慣れた手つきで通行の手続きを進める。


「本日中に王都へ入る際は列に並ばず、横の扉からお入りください。日を跨ぐとまた列に並んでの手続きが必要となりますのでご注意ください」


「了解です。ありがとうございます」


 門を抜け、王都を出た瞬間、悠真は見覚えのある光景に目を細めた。


 今日も王都に入るための長蛇の列ができていた。


 旅商人、冒険者、観光客らしき人々。列は途中で折れ曲がり、遠くから見ても途切れる気配がなかった。


「……朝からすごいなぁ。俺たちもこれに並んでたのかぁ」


 悠真が感心するように呟くと、いつの間にかカバンに潜り込んでいたスピカがあくびをひとつ。


「王都は常にあんな感じよ。魔力も多いし、安全だし、仕事も多いし。そりゃ集まるわ」


 ノクスは悠真の横で静かに歩き、アズールは羽を震わせながら、まだ行かないのかと言わんばかりに前を見据えている。


「はいはい、行くってば。ダンジョンで運動したいんだろ?」


 悠真が笑って声をかけると、ノクスが喉を鳴らし、アズールも嬉しそうに羽を羽ばたかせた。スピカはというと、


「今日のダンジョン、ちゃんと刺激があるといいわね……。最近、眠気が勝っちゃって」


 そうぼやきながらも、どこか楽しげに尻尾を揺らしている。


 こうして悠真たちは、王都の喧騒を背に、朝日に染まる草原の向こうへと歩み出した。


 今日の目的地は、王都近郊の低階層ダンジョン。

 軽く探索し、体をほぐし、ついでに依頼もこなす――

 そんな、少し気楽な“冒険の一日”が始まろうとしていた。



────


 人気のない草原まで歩いてくると、悠真は立ち止まり、ノクスの背を軽く叩いた。


「じゃ、ここからは頼むなノクス」


『ああ、主。掴まっていろ』


 ノクスが身を低くすると、悠真はアズールとスピカを連れてひょいと背に跨り、そのまま一気に跳躍――風を切り裂き、大空へ舞い上がった。


 空気はひんやりとして心地よく、王都の喧騒はあっという間に遠ざかっていく。


 ノクスの飛行は迷いがなく、一直線。悠真が事前に地図で示したダンジョンの位置を、彼らはすでに本能で理解しているようだった。


「……ほんと、方向感覚が違うよなぁ。俺だけなら森で迷ってたかも」


 悠真のつぶやきに、スピカが肩で鼻を鳴らした。


「当然でしょう。地形の魔力の流れまで読んでいるもの。人間とは比べ物にならないわ」


 アズールも翼を広げ、気持ちよさそうに風に乗っている。


 やがてノクスの速度が自然と落ち、森の境界線が近づいてきた。


『主、ここからだ。水の匂いが強い。滝が近いぞ』


「お、じゃあ下りようか」


 森の手前で着地し、ノクスの案内で林の中へ進む。湿った土の香り、木々の間を抜ける冷たい風――そして、次第に強くなる水の気配。


 ――ザァァァァァァァッ……!


 木々が途切れ、視界が一気に開けた。


 目の前に現れたのは、巨大な滝。

 白い水流が断崖を滑り落ち、眩しい飛沫が太陽光を受けて虹を描いている。


「わ……すご……!」


 悠真は思わず見とれた。


 大自然の迫力に圧倒されるほどの、美しい光景だった。


 その滝の裏側――

 そこがダンジョンの入口だという。


『主、滝の奥に空間がある。……魔力の流れも、あるな』


 ノクスが滝をじっと見つめながら言う。


 スピカは尻尾を揺らし、にやりと笑った。


「良いわね。こういうの、冒険してるって感じがするじゃない」


「だよな。じゃあ――行くか」



 滝の裏側を抜けると、ひんやりとした空気が肌を撫でた。

 そこには、外の森とはまったく異なる“静寂”があった。


 岩壁に沿って流れる淡い光の筋。

 天井に埋め込まれたように輝く青い鉱石。

 床には、まるで生きているかのように脈動する蔦状の魔力線――


 まるで、神話に出てくる聖域の内部に迷い込んだようだった。


「すご……洞窟の中なのに、暗くない……?」


「魔石よ。光と魔力を同時に放つ高級品。……こんなに自然に生成されているのは珍しいわね」


 スピカが呆れたような、感心したような声で囁いた。


『主、気をつけろ。魔獣の気配だ』


 ノクスの低い声と同時に、通路の影から灰色の獣が唸り声を上げて飛び出してきた。

 牙をむき、魔力に濁った眼で悠真たちを狙う。


 だが――


「はいはい、邪魔よ」


 スピカが軽く前足を振るだけで、衝撃波が獣を軽々とはじき飛ばし、岩壁に叩きつけた。

 続けて別方向から現れた二匹目は、ノクスが影のような速さで首筋を押さえつけ、動きを封じる。


 アズールは悠然と翼を広げ、風の刃で通路奥の小型魔獣をまとめて吹き飛ばした。


 ――五秒もかからなかった。


「……お、おお……すご……」


 悠真はその横で、まるで試験官のように冷静にノートを開いた。


「まずは入口から50メートル地点。魔石による自然照射、壁の苔は魔力反応あり……魔獣の種類は……」


「……また始まったわね」


 スピカが尻尾を揺らしながら、倒れた魔獣の死体を横目に言った。


「ダンジョンに入るとすぐこれよ。ほんと、記録取るの好きねあなた」


「いや、せっかく異世界なんだし。こういうの、楽しいじゃんか」


 悠真は笑ってノートに書き込みを続ける。


 スピカはふと、横に歩きながらぽつりと呟いた。


「でも……保護施設の子たちのことは、ノートに書いてなかったわね」


「いやいやいや! あんな機密だらけの場所で記録なんて無理だって!」


 悠真はノートを持ったまま、必死に手を振った。


「下手したらバストルさんに説教、ケインさんに連行、場合によっては外出禁止になるかもしれないし!」


「ほんと、人間って面倒ね。書きたいものも書けないなんて」


 スピカはため息をつきながら、倒れている魔獣の爪を軽く蹴った。


「……私は気にしないけど。あそこは“安全地帯”だからね」


「だよね……いや、書きたい気持ちはあるんだけどさ」


 会話しながら歩いている間にも、影から魔獣が湧いてくる。

 だが三匹はすでに“散歩の延長”くらいの感覚でそれを処理していた。


 悠真はというと、せっせとノートに記録をつけている――


 ――とても危険地帯だとは思えない光景だった。


「さて……奥に進むか。まだまだ続きがありそうだし」


『主、魔力の気配が強くなってきた。……この先が本番だ』


 都度、魔獣との小競り合いを挟みながらも、探索は驚くほど順調に進んでいた。

 通路の分岐、魔力の濃淡、床に残る古い痕跡――悠真はそれらを一つひとつノートに書き留めながら歩く。


 魔獣が現れれば、三匹が即座に対処する。

 もはや連携というより、呼吸そのものが合っていると言っていい。


「……あれ?」


 ふいに、スピカが歩きながら首を傾げた。


「そういえば、このダンジョンでの依頼内容って、何だったの?」


「あっ、そうそう」


 悠真は立ち止まり、鞄を開けると中から一本の草を取り出した。

 紫色の小さな花をつけた、瑞々しい薬草。


「中層で採れる薬草の採取。これ」


「……」


「……だから、一応――」


 悠真は少し言いづらそうに続ける。


「もう、依頼は完了してるんだけど……」


 その瞬間。


「は?」


 スピカがぴたりと足を止めた。


 そして、ゆっくりと悠真を振り返る。


「……何を言ってるの、あなた」


 金色の瞳が、きらりと危険な光を帯びた。


「ようやく準備運動が終わったところじゃない」


「えっ」


「ここで戻るわけ、ないでしょ?」


 当然のことのように言い放つスピカ。


 その横で、ノクスとアズールが、示し合わせたかのようにこくりと頷いた。


『主、同意する』とノクス。


「ぴゅるるい!」まだ、物足りないと言っているかのようなアズール。


「えぇ……」


 悠真は薬草を持ったまま、三匹を見回す。


「依頼、もう達成してるんだけどな……?」


「報酬の話をしてるんじゃないのよ」


 スピカは尻尾を揺らし、通路の奥を見据えた。


「ダンジョンが、まだ何か隠してる顔をしてるの。感じない?」


『奥から、古い魔力の流れが続いている』


「ぴゅい!」


 三方向からの“圧”に、悠真は小さく息を吐いた。


「……分かったよ」


 そして、苦笑しながらノートを閉じる。


「じゃあ、せっかくだし――寄り道探索ってことで」


 その言葉に、スピカは満足そうに目を細めた。


「ええ。ついでに言っておくけど、奥に行くほど面白いわよ、きっと」


 こうして――

 本来なら引き返すはずだったダンジョン探索は、

 完全に“趣味と好奇心”の領域へと突入したのだった。


 静かに、しかし確実に。

 彼らはさらに深層へと歩みを進めていく。



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